最終話 涙こらえて大どんでん?

「なんとなく理解したよ……次元を超えた先にある七年後世界でリリは十八。

この世界でドッペルゲンガーみたいなリリが樺太にいるなら二十五歳なんだ」


 いやいや勘弁してほしいよ。ロシア領土にいる相手なら会えるはずがない。

それにリリと同位体でオトナの女にしても二人は別人格で完全に違う存在だ。



「そだよね。同一の個体じゃなくても樺太にいるだろうその子はリリだから。

ボンキュッボンは無理だろうけどオトナのリリにそそられちゃったりする?」


「その問いは…………拒否権を発動させていただきます。以下質問は却下で」

「それもなんだかなぁ……わたしそれなりに珍しい色合いの美少女なんだよ。

まぁジロウくん日本人ぽくないし同類項のイケメンだからアレなんだけどさ」


 そう指摘されると同種かもしんない。アジア系には混じれない異民族だよ。

それに二十五歳のリリが前にいれば速攻で声をかけて口説き落としたはずだ。



【世界ト履歴ノ同調ヲ確認】――頭の声と同時に目前で巨大な扉が稼働する。


 あわてて自分のカードをタッチパネルに触れさせてからリリの背後を追う。

ダンジョンの定義上は地下迷宮だから一本道だ。ひたすら奥に進むしかない。


 リリも無駄口を叩かず現れる巨大アリやミミズにムカデを相手に無双する。

異世界ファンタジーみたいに詠唱することもなく左手のひらを向けるだけだ。


 手のひらから線状の水っぽいビームが噴出してモンスターを弾き飛ばした。

あれやこれやと追随するだけでなにもせずに洞窟を抜けた先で大扉が見えた。


 大扉の向こう側にダンジョン一層のボスがいるだろうとワクワク感は高い。



【世界転移ノ少女ニ質問ダ】いきなりの急展開?【転移ノ先ヲ選択ガ可能ダ】


 これは千載一遇で最後のチャンスってヤツかもしれない。リリに伝えよう。

「リリの希望なら邪魔はしない。それでもオレと一緒にここで生きてほしい」


 扉前で微動もしないリリが顔をしかめて悩みながら自分なりの言葉を紡ぐ。

「ちょっとだけ時間ちょうだい。答えがでたら意思を頭の中で伝えるからさ」



【世界転移ノ少女ニ了解ダ】次はおかしな展開?【転移ノ先ハ脳内デ指示ダ】


 頭の機械音が了承すると同時にこちらを振り向いたリリがゆっくり近寄る。

「うん決めたよ。ジロウくんには感謝しかないし伝えておきたい言葉がある」



 もじりか省略した愛称か嘘八百かわからない理を二乗する名乗りのリリだ。


「ジロウくんの記憶に残るうちに姿を見せるつもりだけど無理かもしんない。

だから保険として契約しましょう。お手つきの代わりになる初めてのチュウ」


 言葉に併せて小さな手のひらがオレの頬を挟むと強引に口づけされました。

ニタりと笑い舌先を巧く使って歯茎裏まで責めたててくる半端ない攻撃力だ。


 背丈が胸にも満たない少女に負けたままじゃ終われないと反撃を意識する。

契約ギアスが無事に完了。いまはお別れだけど再会できたら続きをやろうねっ!」


 あわてるように胸を突かれて飛び退るとリリの体が再びの七色に包まれた。

『いつか……またぁ』消える間際に見せた唇の動きの先までしりたくなった。




 小さく手を振りながらワンピースに黒いリュックを背負う少女の泣き笑い。

よくわからずに始まって謎が解決しないままダンジョンから姿を消した少女。


 並行世界の概念は空想上のSF理論か量子力学的な領域かどちらでもいい。

狭い島国でも夜の界隈はオカルト現象が割とあるしおかしなやつらが集まる。



 少女が夢じゃないのは間違いないし忘れないようにトラウマまで刻まれた。

ほろ苦い記憶と束縛なんてスイーツな話じゃなくてあれから勃たなくなった。


 憂さ晴らしにでかけた同業のショットバーで時々見かけるピアノ弾きの女。


 雰囲気を盛り上げていざ鎌倉じゃない……本番で人生初めての役立たずだ。

酒の問題じゃないしどんなシチュエーションでも無理ゲーだ……正しく呪い。



 初めて目にしたしおらしさと雰囲気に流された確信犯だろうディープキス。


 すぐ傍らで遠い場所にいるリリが大人になった未来予想図に想いを馳せる。

大人になった魔法少女との再会までデバフ……呪いをかけられたが悪くない。




追記)ラストは次回への伏線なのか? それとも違う結末が迎えられるのか?



 それでも苦笑いしながらすべてを受容することで以前の生活は取り戻した。

男の機能を失くして姐さんにガチで爆笑されたお詫びがトワイライトの再開。


 失恋の味もしらない小僧はバーテンダー未満とされた見習いからの卒業だ。

オープンからマスターを目にした客はいなかったがようやくここに誕生する。



 三津寺バー・トワイライトではお客様の来店を心よりお待ちしております。




追記オチ)※こっちは完全ネタに全振りしたオチです(※他意はありません)



 ピアノ弾きの女……あれ以来飲み仲間のヤツもまともじゃなかったんだよ。

それなりに売れっ子で有名な匿名ミュージシャン。それに中身は男なんだぜ。


 LGBTQ時代だけどサイボーグ009とか600万ドルの男じゃねぇよ。

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