幸せ予報士

@ramia294

  幸せ予報士

 地震学者の僕。




 幼い頃、

 あの地震の、

 たまたま、あの場所にいた僕。

 たまたま、津波に連れて行かれそうになっていた名も知らぬ、幼い女の子。

 手を握りしめた。


 運良く助かった僕たち。

 ふたりで、泣いていたあの時。





 今は、地震学者の僕。


 調べれば、調べるほど、巨大地震の脅威が、眼の前に迫っている様に思えます。


 しかし、他の学問と比べ地震学者に出来る事はあまりなく、予知の精度を上げ、現在よりも何秒か、速く予知するしかありません。


 ところで、地震予知。

 最近外れる事が多いです。


 ますます立場の無い僕たち。

 学問の世界の住人からは、地震学者不要論まで、出始めています。


 今朝の寝起きもあまり良くなく。

 開かない目と働かない頭、洗面所で無理やり、まともな人間へと引き上げます。


 最近、皆さんにお馴染みの電動ハブラシ。

 僕も使っています。

 ここ、数年。

 人気らしいです。


 高性能な電動ハブラシは、触れるだけで、汚れを落としてくれる優れもの。


 助かってます。

 メーカーさん、ありがとう。


 とりあえず身支度を整え、地震研究所へ向かいます。


「君の予想は、また外れたね」


 所長に指摘されて、思い出しました。


 今朝、地震が起きると僕は予想していました。


 いやいや、所長。

 あなたの予想も僕と同じだったでしょう?


 所長は、良い人。

 責任逃れなんか、いたしません。


 でも、ふたりで、ため息。

 この後、予想を外したことの謝罪。


 所長は気象庁の偉いさんに……。


 僕は、某国営テレビ局で……。


 二人でシブシブ、出かけて行きました。


 最近の…

 全くの…

 低い的中率。


 所長の立場は、お気の毒です。


 テレビ局での、僕への信頼。

 ダイソンの前、換毛期に落ちた猫の毛の如く。消えていきました。


 気象の時間のお天気お姉さん。

 気の毒そうな笑顔を僕に向けて、


「そう言えば、最近地震が無いですね」


 僕は、絶賛生放送謝罪中にも関わらず、その場でフリーズ。

 放送事故寸前で、上手くフォローしてくれた、お天気お姉さん。


 僕は、ダッシュで、放送局から研究所まで駆け抜けると、調べてみました。


 確かに、お天気お姉さんの指摘通り、最近は地震がありません。

 大地震の前触れ?

 いえいえ、

 身体に感じない微動を全国の機械は、拾ってくれています。


 その中には、大きな揺れが来そうなストレスを示すデータもあります。


 どうやら何かの影響で、

 地震を起こすストレスが、消えているようです。

 原因は……、

 全く分かりませんが、近々大きな揺れが来る僕の予想も外れてくれる可能性が高くなりました。


 帰って来た所長の疲れ切った顔を見て、その日は、そのまま帰りました。


 地震が消える原因がわからないままテレビをつけると、相変わらずの売れ行き好調の電動ハブラシのCM。

 そういえば、あのお天気お姉さんのところにもCM出演のオファーがあるとか言ってました。


「どうしましょう?」


 お天気お姉さんに相談されましたが、ただの学者でしかない僕には、答えようもありませんでした。


 その夜の夢の中、


 電動ハブラシを持つ笑顔。

 CM出演で、一躍人気タレントになったお天気お姉さん。

 僕には、もう楽しくお話することも、あの笑顔を向けてくれる事もなくなったと、さみしく感じました。


 その時、気付きました。


 電動ハブラシ?

 電動ハブラシ?

 そうだ、

 電動ハブラシの振動?


 翌朝、所長に報告して、

 早速調べてみました。


 さらに翌日、某国営放送。

 お天気お姉さんに、


「以前、言っていた電動ハブラシのCMに出てください。あなたの様な魅力的な方が出れば、売り上げ倍増。きっと……」


 僕は、何故かここで止まってしまいました。


 何か嫌だと思ったのです。

 夢を思い出したのです。

 

 地震の脅威に、打ち勝つ事が出来るのに、

 もう、人が死ぬ事も無くなるのに、

 故郷を失う人もいなくなるのに、

 泣いていたあの女の子だって……。


 泣いていた女の子?

 まさか、君はあの時の?


 お天気お姉さん。

 僕は、君が遠い存在になる事が、怖いのです。


「いや、やっぱり……」


 言いよどむ僕に、

 彼女は、笑顔を僕に向けて、そっと顔を近づけ、ささやきました。


 結局、彼女のCM出演は、無くなりました。


 僕と所長の共著


『電動ハブラシの振動と地震発生の主たる要因の消失についての考察』


 が、発表されると、国と地方自治体が、全力で電動ハブラシを買い漁りました。


 各電気メーカーも次々と新製品を出しました。


 現在、売れ行き好調。

 商品名、


 『揺れる口元』

 『世界一振動』

 『足元ユラリ』

 『地震退散』


 は、これ以降に発売された電動ハブラシです。


 ストレスの無い地球。


『地震なんて、ありましたっけ』


 そんな笑顔で、

 お日さまの周りを今日もグルグル。


 そんな地球の上の僕の部屋では、 

 天気図とにらめっこ。

 今日も天気予報をする君がいます。


 地震が無くなり、

 世界は、安心。

 僕と所長、

 お仕事、ピンチ。


 あの時の女の子の君。

 今度は、僕の手を握って、助けてくれます。


 君を見つめる僕。

 思いつきました。


 僕の新しい仕事。

 幸せ予報士なんてどうでしょう?


          (⁠ ⁠◜⁠‿⁠◝⁠ ⁠)⁠♡

 


 




 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幸せ予報士 @ramia294

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ