第5話 〜第4世界〜

気がつくと、身体がその場で横回転していた。

「待って……どうやったら止まるんだこれ」

俺は身体を捻ったりしながら止まる方法を模索した。

「おおっ」

近くから渋い声が聞こえた。

身体の回転は止まらないが、なんとか声のする方を見る。

すると近くにガタイの良い神がいた。

「あの〜すいません。俺の回転止めてくれませんか」

「いやぁすごいなぁ」

初めて見る神はこの世界に見惚れているのか俺の声が届いていない。仕方なく先程より大きめのボリュームで声をかける。

「すいませーーーん。そこのガタイの良いかた〜〜。聞こえますかーー」

しかしガタイのいい神はこちらを見るどころか中心に光る光源の元に進んでいく。

はぁ……。もう神ってどうして話を聞かないんだ。

「そうちゃん」

周囲から聞き馴染みのある声が聞こえた。冥界神の声だ。

「し……しょう?」

し・しょうって誰だ?俺か?いやでもそんな呼び方されたこともないな。

疑問に思っていると、冥界神は先程のガタイの良い神に近づいた。

何か話しているようだ。

俺はそれを回転しながら見ている。待ってなんであいつらは回ってないんだ?

疑問に思っていると、急に回転が止まった。

「あっ、止まった」

左側に知恵の神がいた。

「大丈夫ですか?」

「すまん。ありがとう。お前は優しいな」

ぽんぽんと頭を撫でた。

「それでなんで俺は回ってたんだ?」

冥界神達を眺めながら聞いた。

「えーっと……。ここの世界は重力がない、無重力空間なので、転移する時に誰かに回されてしまったんですかね?」

「ん?ここ無重力なのか?」

「あっ……はいそうです。まぁ僕達神にはあまり関係ないんですけどね」

転移の時ってことは、俺の回転はあいつ〈全知全能の神〉のせいかよ。

「あっそれであのガタイの良い神は誰なんだ?冥界神がし・しょうとか言ってたけど」

「あーえっと……。彼らこっちに来そうですし、ついでに挨拶しましょうか」

ガタイの良い神と冥界神がこちらに近づいてきた。

「初めまして創造神です」

ペコリとお辞儀をする。

「僕は知恵の神です。よろしくお願いします」

「我は軍神だ。力が必要ならいつでも言ってくれ」

ニコッと歯を見せて挨拶してくれた。

あっ、意外と怖くないかもと思った。

「筋肉の付け方でも、戦闘の方法でもなんでも聞いてくれ。まぁ神だから襲われたとしてどうにでもなると思うが」

ガハハと口を大きくして笑った。

「はい。それで冥界心と軍神は仲がいいんでしょうか。初めて会った雰囲気ではなさそうでしたが」

ここは冥界神が口を開いた。

「私の師匠。冥界って死者を相手にするでしょ。だから襲われた時とか言うことを聞かない時にどうしたらいいか教えてもらったの」

「あーそう言う師匠ね。でも冥界神の方が先に顕現してたんじゃないのか?」

「それは違う。軍神の方が先に顕現していたけど世界の端と端を見にいくって消えちゃったの。あなたが1つ目の世界を作っている間にたまたま見つけて色々特訓してもらった」

「いやぁ端まで行こうとすると何か力が働いてなー。我何度も挑んでいたんだが、うまくいかなくてな」

「師匠頭は賢くない」

「ハハハ」

2人はいい関係を築いているようだ。

「でもなんでこの4つ目の世界に来たんですか?」

「ん?なんでって言われると、俺が一度この世界に来たときに、この世界の中心にこんな光源はなかったからな。気になってきてみたんだ」

一同は中心部にある光源を見る。

「そうなのか?まぁでも確かに最初の世界の時は本当に虚無空間だったし、徐々に世界への意味づけ的なものがされていってるのかもな」

神格レベルが上がるにつれ使えるスキルも増えてるし、全能神が意味づけをしているのだろうか?

「でもこの光源なんなんだろうな」

「それはこの世界の動力です」

知恵の神が答える。

「動力?」

「はい。全能神にここにくる前に教えていただきました。お三方は教えてもらってないのでしょうか」

冥界神、軍神共に首を横に振った。

「俺も聞いてないぞ」

ここに転移する前そんなこと言ってなかった。だから知恵の神をここに送ってきたのだろうか。

「そうなんですね。全能神さんはやはりあまり親切な方ではないんですね」

知恵の神は少し悲しい表情をした。

「お疲れなんですかね」知恵の神は話を続けた。

「創造神さんは身につけた新しいスキルでこの光源の周りからこの世界の外周に向かって、まず骨組みを形成する必要があります。もちろんただ外周に向かって伸ばせばいいわけではありません。ここで暮らす生物のための居住スペースや作業スペース等も確保する必要があります」

「待てこの世界はどんな生物が住むんだ?」

「はい、ここは見た目こそ機械……ロボットのようですが、自分達で意志も持ちますし。発展していく能力も兼ね備えております。中には装甲した人間や動物も育つかもしれませんね」

「重力がないのに、どうやって生活するんだ?」

「そこはこの光源をうまく活用して、重力操作をするんですよ。だから創造神がうまいこと調整する必要が出てくるわけです」

「えっマジかよ。俺ここでは色々考えながら創造しなきゃいけないのか」

知恵の神は微笑んだ。

「だから僕がここにきたんですよ。僕は物質を造り出すことはできませんので、指示を出します」

「おぉそうなのか知恵の神がいたらサクサク進みそうだな」

絵を描くだけでも結構大変なのに、組み合わせて動くようにしなきゃいけないなんて、なんかだんだん要求が大きくなってないか。

「おい、全能神」

俺は虚空に向かって叫んだ。

やはり全能神からの反応はない。

「全能神きっと寝てると思う」

冥界神が言った。

「いやわかってるけど少しくらい文句いってもいいだろう」

「なんだ文句あるなら代わりに聞いておいてやるぞ」

まさかの軍神が愚痴を聞いてくれるらしい。

「いや軍神に言ってもな……」

「なんだなんだ文句があるなら言ってから創造始めた方がスッキリするだろ」

そう言って大きな手で背中を叩かれた。

ぐはっ。力が強すぎて前に飛ぶ。

「あ、すまん」

「軍神の力が強過ぎるのか、創造神が軟弱なのか……」

冥界神が少し呆れた顔をする。

はぁ……。

「もういいや。知恵の神世界創造始めようぜ」

知恵の神は世界創造が楽しみなのかとてもニコニコしていた。

「知恵の神は可愛いなぁ」

俺の心も洗われるようだった。

「冥界神と軍神はどうするんだ?」

「我は邪魔にならないように光源を確認して、満足したらまた違うところに行くさ」

「私もまだ暇だから軍神について行く」

「おぉそうかじゃあまたな」


別れを告げると俺と知恵の神は光源に近づく。

「この光源は全体を覆った方がいいのか?」

「ん〜そうですね。一部の生命体には毒になる可能性がありますが、光が当たらない部分も創ればいいのでそんなに気にしなくても大丈夫だと思います」

「そうか。とりあえずどれぐらい骨組み必要かわからないけどどこからでも伸ばせるように光源よりひとまわり大きい透明の球体で光源を覆うな」

そういうと早速ペンを持ち透明の球体を描く。

「それでこの光源の光をどうすると動力になるんだ?」

「そうですね、光を灯りとしても使えますし、熱に変換したり、信号に変換したりもできますし、汎用性は高いですね」

変換とは具体的にどうするのかさておき、色々変換できることだけは認識した。

「まぁ僕たちは下地だけ作っておけばあとは文明が発展するかどうかは、ここに暮らす生物次第ですね。そこまで堅苦しく考える必要もないですよ」

「そうか。まぁどうにかなるか」

「はい。それでは素材サンプルから機械の項目選んでもらえますか」


その後俺は知恵の神の指示に従い、なんとか骨組みが完成した。

機械世界にふさわしく、骨組みは歯車が噛み合ったように動き出した。

「すげぇ〜これでまだ完成じゃないのか。これだけで十分な気がしてきたわ」

「よかったです。では僕の役目は一旦ここまでですね。1人になってしまいますが、引き続き世界創造頑張ってください」

「知恵の神はどこ行くんだ?」

「僕はこの後命与神と合流し3つ目の世界の生命体を生み出してきます」

少し働きすぎではないだろうか。

「休まなくて大丈夫か?」

「はい。大丈夫です。とても楽しかったです。ありがとうございます」

純粋な眼差しに心がほぐれる。知恵の神のいうことは聞いてやろうと心に決めた。

それから俺は骨組みの近くに移動するための装置だったり、生活するための空間だったりを芸術神に教えてもらったアンティーク調に描いていった。

しばらく作業をしていたが、手が疲れてきたので、その辺で横になることにした。この世界の外側に目がいった。

ちょうど太陽の光が差し込まない時間なのか、水の世界第3世界で見たより他の世界が見える。

まだ半分かぁ〜。

でも8つの世界創造が終わったらその後俺は何をするんだろうかと漠然と疑問が思い浮かんだ。

「よっ元気か」

第3世界でどこかに消えた芸術神が久しぶりに会いにきた。

「どうしたんだ?珍しいな」

また描いているものにケチをつけられるのではないかと、緊張する。

「水の世界堪能してきたから、次の世界どうなのか見にきたら、休んでるからさこれやるよ。」

そう言って飲み物を渡された。

「ありがとう」

神だから飲食しなくても特に問題はないわけだが、渡されたので琥珀色の飲み物を口に運ぶ。

「これなんだ?安心する味だな」

「水だ」

「いやいや水じゃないでしょ」

「第8世界で”水”として売ろうとしている飲み物さ」

「いやいや明らかに水じゃないじゃん。そんなわかりやすい嘘つかなくても」

「おかしいね。これでみんな笑ってくれたんだけど」

「……冗談下手かよ。でもありがとう」

俺は休まずに世界創造していたので少し疲れていたのかもしれない。

「何か行き詰まっているのか?」

「いや、8つの世界を描き終えたら、その後俺どうするのかなって思ってさ」

「それは重要なことなの?」

「いやわかんない。でも俺は世界を創造することが仕事だから、8つの世界を描き終わったら俺の役目も終わるんじゃないかって思ってな」

「そうかー?むしろ8つも世界があるんだから、描き終わったならそれぞれの生物に紛れて世界発展に貢献しに行ったっていいし、芸術を広めに行ったりしてもいいと思うけどね。まぁ神ってわがままだから神の世界の創造がなかなか終わらない可能性もあるけど」

ハハハそう言って芸術の神は笑った。

「あっそんなことより」

おいおいそんなことって。俺のふとした疑問をそんなことって言いやがったぞ。まぁでも少し気が楽になったのは事実だ。

「なんだ?」

俺は優しく聞き返した。

「お前の新しい機能についてなんだが、他に必要な素材あるか?」

「ん?なんだって?」

「いやだから素材サンプルだよ」

「……」

えっもしかして素材サンプル創ってるのって。

「まじかー」

「ん?そんなに驚くことか?むしろ便利だろ?」

「あー便利なのは間違いないけど、なるほど通りで凝ったデザインだわけだ」

ドヤ顔だ。

「ちなみに残りの3つの世界がどんな感じなのか知ってるか?」

「うーん私は知らないな。猫ロボに聞いてみれば」

芸術神に言われたので、俺は猫ロボに聞いてみることにした。

「残りの世界についてですね。残りは、死者の世界、電子世界、妖精のいる世界の予定です」

「なるほど。ありがとう。妖精のいる世界となると木とか森とか植物とかたくさんあるのか。電子世界は……全く想像がつかないけど流石に01の世界ってわけじゃないよな?死後の世界は冥界ってことだよな。冥界神にどうしたいのかもう一度意見聞いてみたいだな」

「わかった。使えそうなデザイン適当に増やしとくね。それじゃあ私はこれで」

今後使うであろう素材サンプルのデザインについて相談に来たのだろうか。残りの世界について聞いたからなのかササッとどこかに去っていった。

さて俺もまだ終わってないしそろそろ続きを描いていくか。

立ち上がると俺は机やら椅子やら芸術神に教えてもらった内装品を描いた。

さすがに第4世界ともなると、絵の技術もあがったように感じる。

俺は満足げに自分の描いた絵を眺める。

「おや、この世界も完成ですか?」

いつの間にやら隣にいるのは全能神だ。

「珍しいな。いつもは終わったって報告しないと来ないくせに」

ハハハと苦笑いする全能神の顔はいつもよりは良さそうだ。

「情報大量に流れてくるんじゃないのか?大丈夫になったのかよ?」

全能神が寝ていると言うのは情報を整理するためだと聞いていたので少し気になった。

「はい、そちらはなんとか他の神の力を借りて無駄な情報は勝手に流れ込んでこないようにうまいこと調整できるようになりました」

しかしどことなく全能神の顔は曇っている。

「とは言っても、世界が動き出したら今より大量の情報が流れ込んでくることになってしまうんですけどね。だから今は束の間の休息期間と言ったところでしょうか」

「そうかお前も大変なんだな」

俺は世界を創り終えたらその役割が終わるけど、全能神は世界が動きだすと情報量が多くなるのか。

ふと全能神にも俺が世界を8つ創り終えた後のことについて聞いてみることにした。

「あー君が世界作り終えたらですか……。考えてなかったですね。まぁいろんな神がいますけど、役割が終わるなんてこと自体考えたことなかったです。きっと世界を創り終えた後も何か役割はあるはずです。それこそ冥界神とか忙しくなってしまうので手が空いたら助けてあげてもいいですし、君は創ることが得意な神ですから、芸術神や知恵の神と併せれば、より良い世界を導いていくことだってできます。それを悪用しようというのなら止めますけどね。僕には神を裁く力がありますから」

まぁこの方法はあまり使いたくはないですが、と小さく漏らしたのを俺は聞き逃さなかった。

「さて、話が逸れてしまいましたが、この世界も完成ですか?」

もう一度全能神に質問される。

「あぁ完成だ。次はどこの世界に行くんだ?」

全能神は優しく微笑むと「次は妖精世界第5世界です」と言って、パチンと指を鳴らした。

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