第7話 変わらない笑顔
「ずいぶん仲良さそうだけど、幼稚園の頃からの友達って言ったっけ。幼馴染みってこと?」
「ああ。よくお互いの家に行って、一緒に遊んだりしてたぜ。な、莉奈」
「う、うん」
と言っても、しばらく会ってなかったんだから、やっぱりちょっと緊張しちゃう。
歩ってばすっかり背が伸びて、声も変わり始めていて、変わってる所がいっぱいあるんだもの。
だけど向こうは、そんな時間の流れなんて感じさせない、フレンドリーな態度を取ってくれている。
でも私みたいな地味っ子が歩と友達だったなんて、納得いかない人もいたみたいで。突き刺さるような視線を感じる。
「いくら幼馴染みって言っても、馴れ馴れしすぎない?」
「と言うか佐々木くん、何で神谷さんなんかと友達やってたんだろ。全然タイプ違うのに」
ううっ。小声だけどちっとも隠せていない言葉が、グサグサと刺さる。
それは私も、よーくわかっています。
だけどどうやらそのヒソヒソ話は歩にも聞こえたみたいで、途端に眉間にシワを寄せる。
「おい、今変な事言ったやつ誰だよ? 俺が誰と仲良くしようと勝手だろ」
さっきまでの爽やかな笑顔が一転。怒ったように一喝すると、ざわついていたのがシーンと静かになった。
あわわ、どうしよう。変な空気になっちゃったけど、これって私のせいなのかな?
だけどそんな気まずい雰囲気を、穏やかな声が溶かす。渥美くんだ。
「まあまあ落ち着いて。けど、僕も少し気になるかも。何か仲良くなったきっかけでもあるの?」
「ああ。幼稚園の頃、莉奈がスゲー面白そうに本読んでてさ。それで気になって、俺から声掛けたんだ」
「本? 本がきっかけで仲良くなったの? ……僕が最初じゃなかったんだ……」
「何か言ったか? まあ生憎俺はあんまり本読まねーんだけどさ。莉奈が読んだ本の話を聞いてると案外楽しくて、それでつるんでたんだよ。やっぱり今も、小説読んだり書いたりしてるのか?」
「まあ、それなりには」
それなりと言うか、相変わらず本の虫なんだけどね。
だけど何の気なしにした返事だったけど、渥美くんが何かに気づいたみたいに「えっ」と声を洩らした。
「ちょっと待って。神谷さん、小説読むだけじゃなくて、書いてもいるの?」
「え? そ、それは……」
しまったー! ついうっかり返事しちゃったー!
歩は何の気なしに聞いてきただけだから普通に答えちゃってたけど、渥美くんは聞き逃してはくれなかった。
気づいてくれなくてもいいのに、どうしてそこ突っ込んじゃうかな。
別に悪いことをしてるわけじゃないから、無理に隠す事もないってわかっているけど。かつて小説を書いてることがバレてからかわれた身としては、色々思うことがあるよ。
そして小説を書いてたのをからかわれたのは、歩と離れた後の話。
その事を知らない歩は、焦る私に気づかずに話を広げてくる。
「今は書いてないのか? 将来の夢は小説家って、小学生の頃言ってたし、前はいつもネタ帳持ち歩いてたけど」
「ネタ帳……そういえば時々、何かをメモしてるの見た事あるけど、ひょっとしてアレのことかな」
思い出したように言う渥美くんだったけど、見てたの!?
確かに教室でも時々、浮かんだアイディアをメモする事はあったけど。常にぼっちでいる私の事なんて誰も見ていないだろうから、バレてないって思ってたのに。
渥美くん、どうして見てるのー!?
と言うか、いつの間にか話題がすっかり私の話になってない?
今日主役は、転校生の歩だから!
「あ、あの。私の事はいいから。それよりもっと歩の事を教えてもらえないかな」
「俺か? と言っても別にフツーだったしなー。あ、そういえば小6でやっと、バスケ部でレギュラーになれたぜ。昔は背低かったけど、毎日牛乳飲んでた甲斐あって伸びたからなー」
「牛乳……僕も飲む量増やそうかな」
渥美くんがちょっぴり沈んだような声を出す。
あ、さっきも思ったけど、やっぱり背を伸ばしたかったんだ。
だけどいい感じで話題をシフトさせることができた。
それにあの後歩がどうしていたかは、純粋に気になるよ。しばらく会わない間に、ずいぶん変わってるしねえ。
さっき本人が言っていたように、凄く背が伸びてるもの。
昔の歩は背が低い方で、バスケも決して上手とは言いがたかった。
だけどそれでも毎日頑張って練習していて、私はそんな歩をいつも側で応援していたっけ。
私は途中転校しちゃったけど、あの後も努力を続けてレギュラーになったなんて、凄いなあ。
そういえば最後に会った日に、こんなことを言われたっけ。
『俺はバスケを続けて、絶対にレギュラーなる。だから莉奈も、小説書き続けろよ。俺、本読むのは苦手だけど莉奈の小説が本になったら、絶対読むから!』
思えばその言葉があったから、その後小説を書いてる事をバカにされても、書き続けられたのかもしれない。
歩は今でもバスケを頑張っているんだもんね。私も負けないようにしなくちゃ。
「お前が昔背が低かったなんて、信じられねーよ。牛乳だけでそんな伸びるものなのか?」
「伸びたんだから仕方ねーだろ。疑うなら、お前も毎日朝昼晩飲んでみろよ」
男子達と談笑を続ける歩を見てると、懐かしい気持ちが込み上げてくる。
だけど、この時私は久しぶりに歩に会った事で浮かれていたせいか、気づいていなかった。
転校してきたばかりのイケメンと図々しく話す地味っ子に、嫉妬と侮蔑の視線を向けている子が、何人もいることに。
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