第二話 予想外の潜伏者

 「一課長、本当にアイツらカエル野郎の諜報員なのか!?」


 同僚のエリーゼ……もとい09《オーノイン》は、今週が非番の週で、俺は一課長と共に国内に潜伏する他国諜報員のセーブハウスを襲撃していた。

 ところがセーブハウスから出てきたのは一個分隊程度の規模の特殊部隊と思しき連中だった。


 「少なくとも四課の寄越した事前情報では、そういうことになっていた」


 深夜の襲撃は失敗、現在は絶賛逃亡の真っ最中。

 街中というのに敵さんはそんなことにはお構い無しで、すぐ側の路面に敵の攻撃魔法が着弾する。


 「連中、街中なのに容赦なしかよッ!?」

 「むしろ夜間だったのが裏目に出たかもしれん……」


 街行く人影はまばらであり、昼間よりは大胆に行動ができる。

 それはお互い様というわけだ。


 『貴様、ナシオン・ロタール軍所属のくせに他国で引鉄を引くのか!?』


 課長は通信魔法を展開させると、傍受してる人間がいれば誰でも聞くことができる国際チャンネルで敢えて相手の非を唱えた。


 『……おっと、俺はまだ所属を明かしちゃいねぇぜ?もしかしたらテメェらんとこの過激派に雇われただけの人間かもしれねぇしよ』


 返ってきた声は、こちらと同様走っているがゆえの荒い息遣いでロタール軍所属であることを否定した。


 『まぁ、どうであれ俺はこの国に愛着も興味もない。だからよォ、撃っちゃうんだなぁ、これがぁ!!』


 前世どこかで聞いたことのあるセリフと共に、それまでとは比較にならない威力の攻撃魔法が放たれた。


 「チッ……」


 慌てて展開させた防御魔法で間一髪それを凌ぐが、何度も繰り返されれば被害は市民に及びかねない。

 

 「課長、この先の通りに出たらそのまま川を飛び越えますよ!!」

 「え、でも私、飛行魔法は苦手だぞ!?」

 「わかってますよ、だから、こうするんですッ」


 俺は課長を抱き抱えると、そのまま上空へと飛び上がった。


 「お、お姫様抱っこではないかぁぁぁぁッ」


 頬を赤らめ俺の胸板をポコスカと殴る上司、初々しい反応だがこれでもアラサーらしいのだ。


 「い、いま失礼なことを考えただろ?」


 顔を真っ赤に染めたかと思えば今度は、むくれ顔。

 仕事の鬼と呼ばれている一課長もかたなしだ。


 「いいえ、ちっとも?いい匂いがするなぁ……とは思いましたけどね」

 「に、におい!? 昨日泊まり込みでお風呂に入ってないんだからそういうことは言うなぁぁぁぁぁッ」


 課長が腕の中で暴れ出すから飛行姿勢が酷く不安定になって、さながら墜落寸前だ。

 おかげで敵はすぐ後ろまで迫って来ていた。


 「おいおい敵を前にしてイチャイチャしやがって、愛の逃避行か?舐めた真似しやがって」

 「ま、まだそんな関係にはなっていないぞ!!」

 

 食い気味に否定する課長に俺は内心ツッコミを入れたくなった。

 そんなこと否定してる前に敵に対応するべきだろと……。


 「課長、武器を構えた方がいいんじゃないですか?連中はやる気ですよ?」

 「そ、そうね……勘違いされたら13《ドライツェン》くんにとっても迷惑だものね?」


 課長はそう言うと『VALTHER PDP FS-5』の引鉄に指をかけた。

 

 「そんな弱々しい口調、課長には似合ってないですよ。いつものは何処に言ったんですか?」

 「そ、そうだな。まぁ、お前には話すとして取り敢えずは目の前の敵だ」

 

 課長はいつものような毅然とした態度に戻って敵を冷静に見つめた。


 「分かってますよ。さっさと片付けてタイムカードを切らなきゃ行けませんからね!!それと別に迷惑なんかじゃないです」


 幸いにして今は市街地を抜けた先の森林地帯。

 人目のつかないこの場所は、決着をつけるのにうってつけだった。

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