第一話 幼少期ダイジェスト

 事故死する前に見た景色の次に見たのは、白い天井と見慣れないブロンズヘアの女性だった。


 「可愛い可愛い私の息子……」


 前世で俺の使っていた日本語とは全くもって違う響きの言葉。

 でも何を言ってるのかがわかる不思議な感覚。

 何なら俺はこの言葉を―――――


 「ばぶ〜(あんた誰?)」


 あれ……なんか今、間抜けな声が出なかったか?

 そこで気付く違和感。

 俺の視界に映る自分の手は何とも丸っちくて小さかったのだ。

 もしかしてこれは……いや、もしかしなくてもこれは……


 「おんぎゃあァァァァァァァッ!!(俺って赤ちゃんだったのぉぉぉぉん?)」


 これがこの世界における俺の一番最初の記憶だった。

 

 「はいはい、おっぱい飲みましょうね」


 ブロンズヘアの美人人妻この世界でのママが豊満な乳を晒して俺の口へと先端をあてがったのは、特に記憶に残る出来事だったといっても過言じゃない。


 「ばぶ……ッ!!(今ならこんな美人人妻との赤ちゃんプレイを合法的に、それも無料で楽しめるだとッ!?)」


 下心が顔に出ないように務めて―――――


 「ハニー、帰ったよ〜」

 「ダーリンにおかえりなさいを言いに行こうね?」


 美人人妻ママは俺を抱いたまま、玄関へと歩いていく。

 チッ、俺の楽しみを邪魔しやがって……。


 「ただいま〜、レオン。父さんが帰ってきたぞ?」


 俺の顔を覗き込むだけでは飽き足らず、そのまま指で頬をこねくり回してくる親父。


 「ばぶ〜(おかえり)」


 伝わらないことをいいことに、満面の笑みを浮かべてそう言ってやった。

 でも実際問題、旦那の前で人妻のおっぱいを飲むなど俺には出来やしない。

 前世から俺はNTR系が苦手だったんだ。

 だから俺はいつも「人妻には興味ありませんよ」とそっぽを向く。

 罪悪感で押し潰されそうになるからだ。

 人の心の傷みを知る赤ちゃん、この世界でもかなり稀なんじゃないだろうか。


 「な〜んか、レオンってば私のおっぱい飲んでくれないんだよね……」

 「なんでだろうなぁ……」


 不思議に覗き込む両親に俺は言ってやりたい。


 「ばぶーッ!!(親父がいるからだろうがァァァァァァッ!!)」


 とまぁ、こんな具合に乳児期を過ごした。

 

 ◆❖◇◇❖◆


 十歳を迎えた俺はその後の人生を大きく左右する試験を迎えていた。

 国家主導で行われる魔法適正審査である。

 この世界と元いた世界との大きな差はズバリ言えば魔法の有無だ。

 剣と魔法の世界であるクナーアンにおいて魔法は、軍事から日常生活に至るまで各所でその影響を及ぼすほどのものなのだ。

 そんな魔法は、個人によって能力がまちまち。

 それらを一斉に計測し、審査の結果が良好でとなりうる場合は国が指定した教育機関でその後の教育を受けるというシステムになっている。

 そして俺は審査項目のほぼ全てにおいて良好な結果であり基礎学校グルンドシューレを卒業したその年の秋、秘匿養成機関に進学となったのだった。


 「隣いい?」

 

 登校初日の一時限目、声のした方に振り向くとそこにはチェリーピンクの髪の美少女がいた。

 入学式なんてものはなくて、クラスと教室は決まっていても席は決まっていない。

 あまりにも予想とはかけ離れた環境に緊張していた俺には、コクっと頷いた。


 「歴代最高の諜報員候補と呼ばれている男子がどんな奴かとか思ったけど、こんなことでビクビクしちゃって大したことなさそうじゃん?」


 チェリーピンクは、そう言うと挑発的な表情を浮かべた。

 でもそんなことはどうでも良くて――――


 「え、ここ……諜報員養成機関だったの?」


 という驚きで当時の俺の心はいっぱいだった。

 それ以降、横のチェリーピンクのせいで大変な学生生活を送る羽目になることなど露とも知らずに―――――。



――――――――――――――――――――

 ‡あとがき‡


 学生生活については、そのうち短編で書くかも知れないし書かないかもしれません。

 成長の過程も大事だけど、やっぱり作者としてはお仕事シーンを書きたいのです‼️

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