第10話 揺れる帝国

西暦2031(令和13)年8月25日 アーレンティア帝国帝都オルディラン


「おのれ…!」


 皇宮の謁見の間にて、皇帝カザン7世は悔しそうな様子で呻く。何せダキア艦隊が辺境の国との戦闘で壊滅したからである。


「このまま連中に無礼なめられていられるか…!直ちに新たな艦隊を編成し、復讐を果たすのだ!新造艦の建造と整備も大急ぎで進めよ!」


「御意に…!」


宰相と将軍は応じ、謁見の間を後にする。そして通路を歩く最中、宰相は尋ねる。


「…と、陛下にはあの様に申し上げたが、出来るのか?新型のグラン・アーレト級は1隻が試験航海中だったろう?他の艦艇も同様に整備中であると聞くが…」


「…流石にこの展開は予想していなかった。が、直ちに兵部大臣と話して戦時動員体制に入らせ、損失分以上を確保する形で建造を進めさせる。巡洋艦や駆逐艦も同様にだ。最低でも半年はかかるだろうが、ここに来るまでに策は整えてある」


 設計図はすでにあり、整備用の部品もある程度確保出来ている。よって平時の建造ペースを速める事で建造期間を短縮させ、主力艦を量産する。それが将軍の策であった。相手はそれを阻止するために本土に対して襲撃を試みるかもしれないが、本土の防衛網は堅牢である。生半可な戦力で攻めてくれば、返り討ちに遭うのは間違いないだろう。


「今はともかく、建造がしやすい巡洋艦や駆逐艦を民間の造船所にも委託で建造させ、予備役の招集や臨時徴兵で兵員を確保。1年以内に倍の戦力を確保する…如何なる手段で侵攻艦隊を殲滅したのかは知らぬが…物量を十分に活かす事が出来れば、復讐も容易かろう」


・・・


首相官邸


 さて、一方の日本国であるが、こちらはより確実にして大胆な策を練っていた。


「護衛艦隊の動員可能な戦力全てを用いた、本土攻撃作戦ですか…」


 西条が呆れた様に呟き、対する統合幕僚長は説明を進める。


「一種の博打に近い作戦ではありますが、技術的格差を鑑みれば、勝率は高いです。いずも型2隻と全てのイージス艦10隻、そして「やまと」を中核とした大艦隊を編成し、アーレンティア本土の工業都市タレンティアを強襲。現地の海軍基地と戦力を殲滅します。これによって防衛に穴が開く事となり、帝国は動揺するでしょう。また同時に保安省広報局が送り込んだ『扇動者』により、叛乱行動を誘発させます。これで戦争の継続は厳しくなる事でしょう」


 中々にリスクが高い一方で、効果も相応に高い、あくどい作戦である。説明は続く。


「そして同時期に、台湾艦隊がゾルシア本土に対して強襲を仕掛けます。ダキアに侵攻していた敵艦隊は大半が地対艦ミサイルのアウトレンジ攻撃を受けて壊滅し、動揺を与えております。すでに増援の派遣を開始している様ですが、その後背を突く形で敵本土に強襲を加えます。これによってゾルシアはこれ以上の兵力投入を躊躇う事でしょう。あちら側も多くのリスクを抱える事となりますが」


 東アジア大戦後、台湾海軍は日本の支援を受けて、イージス艦に迫る戦闘能力を持ったミサイル駆逐艦や、もがみ型護衛艦をベースとしたフリゲート艦を建造。その戦力を増強させている。よって勝算はそれなりに確保出来ていた。


「ともかく、ここからが分水嶺です。敵の戦闘能力を確実に減らし、和平の気運を確保しましょう」

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