第4話 無能を無能と指弾する、むなしさ

 米河氏がいよいよ、持論を述べる。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 先ほどの森川さんの御指摘よりお答えいたします。

 まず、学校の寮、そうですね、例えば英国のパブリックスクールのようなものを想定して申しますと、おおむね、こんな流れかと。

 上級生が下級生を指導して、集団生活を遅らせるシステムですね、そのようなものをかつてのよつ葉園は想定していたのかということになりましょう。

 もっとも、その手の言うなら「学寮」というべき場所では何ですか、ぬくぬくした、物心とも恵まれた親元とは違って厳しい集団生活を送らせることによって、将来英国紳士として、まあ留学生さんもいらっしゃるだろうからそれはまあ祖国の看板をしょって立たれる紳士ということで、世界に通用する「グローバル人材」を育成するということが、ハナから求められていたわけですね。


 翻って、よつ葉園という日本の養護施設とやらはどうか。

 そんなええものか、ボケ!

 テメエらのやっとることは何だ、中途半端な木っ端公務員風情がなけなしの脳からひねり出した「手に職」レベルの言葉を用いて、なんかテキトーに仕事でもついてその仕事がぼちぼちできて、あとは結婚して子供でも生まれたら幸せな家庭が築けて寂しくない暖かな家庭とやらを築けば、世の中の人から低く見られても、人間としてよければそれでもいいではないかと、そんなアンチョコな、そのアンチョコさとくれば各種資格試験の三流予備校も裸足で逃げ出すレベルのシロモン(シロモノ=代物の意)やないかと、ワタシャ、そのように思っておる次第ですよ。

 そんな程度のシロモンを、また何やらありがたがって仲間ごっこを継続させてテメエのゴミのような理想を押し付けて恩着せがましく対応するような幹部職員がおられたですな。


 大槻さんも、よくそんな低次元の人間を買ったものだ。

 それともなんだ、テメエの言うことを聞いてくれて無害だからその御仁を買ったとでもいうのか?

 だとすれば、それは保身の極めつけではないか。

 手柄はテメエ(手前=自分、の意)、責任はそいつ。そんなところかいな。

 あんな程度の、ええ、低次元の「低度」の意識しか持てない児童指導員などをよくもまああてがってくれたものだなと、Z氏は今もお怒りですな。

 私も、その御仁に対してはそこを指摘せざるを得ん。

 もっとも、彼がそのような方向の言動をするようになった背景を考えてみれば、無能な先人が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)していたからに他ならない。

 その悪弊を排除するとなれば、いかに大槻さんと言えども、そりゃあ大変だったであろうことは想像に難くない。さすれば、いちいち格好つけて責任を取ったようなことを言っていないで、目先の保身を取ってでも、自らの手でとことん改革し切らないといけないというお気持ちにもなられたでしょうし、それがあの地の昭和後期の状況ということを考えれば、妥当な解釈ではないかと思っております。


 虐待で問題となった千葉県の「めぐみ園」の支援者や、岡山県北の某施設の支援者の話を総合すると、その手の虐待をする側となった職員の言葉で、こんなのがあるそうやないですか。

「恨むなら、親を恨め」

とな。それなら、先ほどの某職員氏には、こう申上げるわ。

「恨むなら、無能な元幹部職員どもを恨め」

とね。名指しなどしませんよ、私は。

 御賢察ください。それ以上は、ノーコメントだ。


 パブリックスクールの学寮と養護施設ってのはですね、海軍兵学校と大塚ヨットスクールくらいの差があるわけですよ、根本のところでね。

 あのヨットスクールで死者や行方不明者が出たのは、代表者の指導技術なんかの小賢しい問題ではない。対象者の属性が、ハナから違うわけですからね。その属性のベースとなっている環境も右に同じ。

 養護施設をパブリックスクールや学校の研修旅行程度のものと、よくまあ同列に語れるものですよ。頭、大丈夫かレベルですわ。教養のかけらもないから、そんなおめでたい寝言が語れるのですよ。同じ釜の飯を云々も、これまた同じ。

 それもわかってかわからずか、よくまあ、あんな対応ができたな。

 それで言い訳は、どっかの三流公務員の謝罪会見並がよいところだ。

 おまえらは、謝罪のイロハもわからんのか。

 ま、これ以上言っても無駄ですね。むなしい限りですよ。

 無能を無能と指弾しても、無駄ですな。無駄は、排除せねばならんです。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 森川氏は、対手の怒りをあらわにした弁を、ただただ、黙って聞いている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る