お姉様

「お茶です」


 ボクはアツアツのお茶をお出しする。


「やぁ、すまないね」


 ズズッとお茶をすするヒカリちゃんの姉のヒバリさん。お姉ちゃんもいたのか……。


「改めて自己紹介しようか。私は天王寺雲雀てんのうじひばり。ヒカリの姉さ。気軽にヒバリンとでも呼んでくれたまえ」

「分かりました、ヒバリン!」

「ぷっ、くふふ……!」


 それを聞いたヒバリンは腹を抱えて、笑い出した。

 

「いやはや、ジョークのつもりだったんだがね」

「あっ……すみません」

「いやいや、君は真っ直ぐな子なんだね。通りでヒカリが懐くハズだ。君、面白いね。クスクス」


 何やら気に入られたようで何よりだ。ヒカリちゃんのお義姉さんとも仲良くはしたいから。


「お姉様、海外留学中だったはずでは?」


 ヒカリちゃんにが小首を傾げる。


「うん、それがわざわざ年末に本家に呼び出されてね。天王寺を継ぐってのは楽じゃないね。全く」


 やれやれと肩をすくめるヒバリさん。


「お姉様、お疲れ様でした」

「うん、ありがとう。まぁ、その代わりに可愛い妹と旦那様に会っておこうと思ってね。こんな時間にすまない」

「いえいえ、ゆっくりしていってください。ヒバリお義姉さん」

「おっ、さっそくお義姉さん呼びとは嬉しいね。私はね、妹もいいけど弟も欲しかったんだ」


 ウィンクをして、こちらを見つめるヒバリ義姉さん。ヒカリちゃんにそっくりなのもあってボクはちょっぴり照れてしまう。


「さて、お茶も飲んだし、帰るとするよ。ヒカリにも会えたし、ナギサ君もいい人そうで安心したよ」


 すっと立ち上がり、帰り自宅を始めるヒバリさん。


「えっ? もう帰るんですか!? もう少しゆっくりしていって下さいよ。ヒカリは寂しいです、お姉様ぁ……」

「そうですよ、ヒバリ義姉さん。もっといろいろとお話をうかがいたいです」


 ボクとヒカリちゃんで彼女を引きとめる。


「うっ……。でも、その……2人の愛の巣に私がいては邪魔……だろう?」


 ヒバリさんは顔を赤くして、そうこぼした。


「そんなことないですよ! ね? ヒカリちゃん!」

「はい……! 大歓迎です!」

「うっ……そ、そうか? じゃあ、今晩、一晩だけお邪魔させてもらおう……かな?」





 その後、ヒバリさんとヒカリちゃんとの昔話で大いに盛り上がった所で、ヒバリさんがあくびをした。


「ふわぁ。眠くなってきたな……。すまないが、毛布を貸してもらえないか? 私はこのソファで眠るよ」

「いえいえ、ベッドでヒカリちゃんと寝て下さい、お義姉さん。風邪を引いては大事ですから。ボクは押し入れで寝ます」

「君はドラ⚪︎もんか……。いや、さすがに悪いよ」


 ヒバリ義姉さんはかぶりを振る。


「そうですよ! 私が押し入れで寝ます!」

「いや、ボクが押し入れで!」

「最近の日本では、押し入れで寝るのが流行っているのかい……?」





 あーだ、こーだと言い合っても話はつかず、結局、3人でベッドで寝ることに。


「本当にいいんですか? ヒバリ義姉さん」

「構わないよ。ヒカリがいる前で、ヨコシマな事を君がするも思えないしね」

「私は寝る時、いつもがっしりとナギサ君を抱きしめて眠るので安心ですよ!」

「おやおや、お熱いことで」


 そうして3人でベッドに入る。


「いや、なんでボクが真ん中なんですか!?」


 ヒカリちゃんとヒバリ義姉さんに挟まれるボク。


「どうせなら、可愛い弟君と親睦を深めようと思ってね」

「私はナギサ君の右隣じゃないと、落ち着いて眠れないので……」


 2人の美少女の体温と、甘い匂いを感じて心臓の鼓動が高鳴る。


 ちょいちょいとヒバリ義姉さんに、パジャマを腕の部分をつままれる。


「なんですか?」

「……た、試しに“ヒバリお姉ちゃん”って言ってみてくれないか? 弟ができたら一度言われてみたかったんだ」

「ええ!?」

「頼む!」


 し、仕方ないな……。こほん。


「……ヒバリ……お姉ちゃん?」

「はぁはぁ……。うん、いい。とってもいい」

「ちょっと、お姉様、なんだかいかがわしいです!」


 ヒカリちゃんが抗議の声をあげる。


「いや、ヒカリも試してみ? 癖になるぞ?」

「いや、そんな訳ないじゃないですか……」


 ボクはヒバリさんに、ちょいちょいとパジャマをつままれたので、空気を読んだ。


「……ヒカリ……お姉ちゃん?」

「〜〜〜///」


 ヒカリちゃんが何やら足をバタバタさせている。


「く、癖になりそうですね……。これ。新たな扉が開きそうです……!」

「だろ?」


 似た者姉妹だね……。





《ヒバリ視点》


 ヒカリは彼をがっしりとホールドして、眠りについたようだ。幸せそうな顔をして、ぐっすりと眠っている。


 昔のことを思い出す。


『ゲホッゲホッ!』

『だ、大丈夫か!? ヒカリ!』

『うん、大丈夫だよ! 病気、がんばって治して“けっこん”するんだ!』


 その強い決意に満ちた眼差しを、今でも鮮明に覚えている。


 そして私は不安にも思っていた。本当にその男はヒカリとの約束を守るのだろうか?──と。


 守ったとしても、ヒカリを幸せにできるのか──とも。


「(うん、安心したよ。要らない心配だったな。君にならヒカリを任せられる。お幸せに、ヒカリ、ナギサ君)」


 私はふっと安堵の笑みをこぼす。さてと、明日も早い。名残惜しいが眠るとしよう。


 うん、いい新年を迎えられたよ。

 






 




 


 


 









 








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