第19話

     五十五


 一説となる思考は、想い入れの分だけ募るものである。信じるものは救われる、と云われるだけあり、信じた分の裏付けが生まれるのが、想いなのだ。可能性の低さで、まさか? と思うことで、裏付けは閃かない。信じることで芽生える裏付けは、思い込みではなく、想い入れなのだ。嘘の記載というからくりは、数多の信者を創るための知らない事実ということだろう。そこに欲が絡むから、騙される者が出てしまう。虚像は見返りを求め、実像は願いごとを捧げ辛くするからで、叶うかどうかは、本人の努力に尽きるのである。


 うさぎはその事を、どう導くか考えて、努力の継続に繋げるために、しるしと云った。終わらすことで達成感は生まれるが、そこから先の気力の維持が難しいことを知っていたからだ。人生とは終わったときにかえりみるものだからである。その意識を浄化されることで、善悪をつける必要性がないことを教えているが、この世のからくりは善悪の観点から、善人と悪人を分けるが、一度きりの人生に、良いも悪いもないはずだ。

 感性が個人の生き様ならば、自身にとっての見返りを求めることが、人間らしいからだ。そうやって築き上げたものが文明であり、犠牲になった生命体が絶滅していった背景が、気付けないのである。先人たちの過ちが、人間が生き延びるための標であり、当の本人にそんな意識がなかったのも、善意の悪行となり残っていた。

 ゆとりのできる後世に委ねられたものが、協調性であることが、現代人にのし掛かって終ったから、天災の威力が莫大になった理由であった。則ち、責任の矛先が未来に持ち越されたのは、生きることにゆとりが持てない時代背景が、人間がエサであったことを教えていた。循環の法則を誰が造ったか知らなくても、人間を中心に造り上げた文明が、弱い生命体を絶滅させて終ったのだ。

 だからこそ、責任を持つ行動が必要となるのだ。流れた月日の分だけ刻まれた記憶も、中心になったものを見間違うと、儚い夢が被害妄想となり心を蝕むことを宗教で教えるが、言い訳に摩り替えられたから、生臭坊主を生み出したのだった。それを見習った者が傲慢な行動をとる現在は、従えたものが百鬼夜行になったとしても理解に至るだろう。知恵が授けた言葉は日差しを以ても浄化に至らず、生命を遂行するための言い訳に為っている。感情は行き場を失くし、心は荒み続け歪に耐えきれず、失くなっていることにも気付けないのだ。そしてそれ等が摩り替えられたことで、今生の彩りに影が付きまとい、世知辛くうごめいているのだ。

 辿った記憶が示したものが嘘であるから、真実まことを探しにくくなり、心がネジ曲がったことも、幻想に措き変えられて終った。起死廻生の機会チャンスは絶たれ、出口のない迷宮が誕生した。だから生命の重石は意味のないものに映り、殺人をゲーム感覚で行える輩が増殖したのだろう? 計るための天秤は、自前のもので代用すれば、灯火を消すことも、訂正わるびれする必要もない。

 願うだけの神々にしても、非実体をいいことに悪用され、縋る想いを悪徳に変換去れたのが、現在となった。屍の発想は、伝播することもせず、勝手に結果と去れた。人間の傲慢は際限を知らず、嘘と言い訳を以て、価値のないものとなった。


 うさぎは、想いの丈を言葉にできず、暗闇の中を彷徨い、人生を終わらせた。そんな経緯を悪夢と想い定め、日本人に産まれた事実を抹殺したのだった。それを愚痴らないのは、悪意に負けた輩たちと見定めたからで、ただの世捨て人で構わないという結論になったのだ。想いを語るのを妄想の中だけにしたことで、失くした彩りを取り戻すことができた。それを口にしない理由は、想い定めることのできる現代人が居ないことに気付いたからで、期待と希望が別ものとなっていた。それを拈華微笑として神々に送ったから、神々からの信頼を得た。

「どうせ絶滅するから、って想ったことは語らないのね?」

「人が人生を終わらせる理由は徳を積むからで、それを見分けるための勾玉は、霊魂の価値観を定めるものでしかないことを、人間は知りませんからね」

「知らないならば、教えねばなるまい?」

「教えたところで直ぐに忘れるのが人間だと、見定めました」

「情のない言葉を使うのは、同類になりたくないからなんでしょう?」

赤瞳じぶんだけが消滅しない自信があるわけかい」

「逆です」

「無に帰りたいの?」

「見えないものが見えたことで、覚悟ができました」

「何の覚悟なの? 赤瞳さん」

 祷の問い掛けに、うさぎは答えなかった。そのことを祷に伝えたのが、三妹だった。揺るぎない覚悟を以たことが裏目に出たのは、今回が初めてだろう。雲海家の末裔が記憶した遺伝子が、防衛本能を発揮し始めていた。



     五十六


 記憶を遡ることは想定内だが、逆流を悪意とも想えず、神武天皇が顕れたことを、その場に居る者たちが驚いた。

神武オレ非依ひよった心がもたらした行く末が、赤瞳そなたの挫折をもたらしたのなら、すべてが神武のせいであろう」

「だったら、どうすつもり? なのよ」

「待ってください。浄化されたはずの霊魂たましいが再生された理由は、甦りの儀式が執り行われたから? ですよね」

「ミカエルが執り行ったの?」

「定かではないが、回帰された元素を集めたようだ? ミカエルにそんな力は持ち合わせていないはずだよ」

「どういうことよ? 六弟」

「そんなことのできる奴は、ばばあ? しか居ないだろうが」

「だったら、女神おねえ様へのご褒美なんじゃない?」

えにしに従え、ってことか?」

「そうなると、互いが素直になる機会チャンスが与えられたことになるわね?」

「祷を歓迎したつもりなんじゃないかしら」

「と、云うことは、誤解だけは解いて措くしか? ないよね、御先祖様」

「掬われた理由って、ことよね? 女神様」

「だとしたら、赤瞳おぬしの機転だな? 赤瞳よ」

「刻むことしかできない刻は、記憶を遡られても、意義を唱えません。混沌をもたらした理由は、三元首の関り合いということでしょうね」

「どうしてよ? 解るように説明しなさい、赤瞳」

「日の本の國に伝わる謂れは、百歳を越えた生命体を主と定めています。それが経験値の活用方法だったんでしょう。その第一人者が神武さんで、神に昇進した十八番目です。一番に昇進した疾風さんが、卑弥呼さんに憧れていたから、仲を取り持ったんでしょうね」

「三元首に上申した、というのか?」

「刻んだ時間が、お互いを冷静にしましたから」

「それって、目に入れても痛くない、っていう観点でしょう?」

「努力を惜しまない精進は、生命体の模範にするべき理念だから、ってことよね? だとしたら、混沌を終わらす理由ってなるわよね」

「伝播するための行動は時に、反感を買います。ですが、波にしないとひいきに視られます。一途に進めば早く感じますが、取り零しを取り戻すことを省くには、休息して広い視野を確保しないと駄目ですからね」

「それって、良し悪しを均等に割り振るためでしょう?」

「生命体の本文は、育つ肉体に添う知性なんです。両極に負けないことが、育てる理由ですからね」

「知恵の評価を過小視させないための、曰くを基に基準を創ったのね」

「忘れっぽいことを悪にしたくないですからね」

 うさぎは云って、おチャラけていた。矛盾をもたらす知恵を手玉に取っただけだが、る年波が人体に与えるものが、人間の経験値として知るが、それが死に向かうため、と想いたくないだけの方便であった。正解のない人生をおくるには、身に寄り添うことも大事であると、うさぎが想い定めていることを暴露していた。それが人間らしさなら、甘んじて受け入れるつもりでいた。

 日本人に産まれたことを悔やんでいても、人間に産まれたことを悔やんでいないことが解り、遺伝子の取った遡りに感謝していたことが解った。踏み出す勇気を持つことは、人間にとっての第一歩である以上、避けては通れぬからだった。



    五十七


「多分だけど、赤瞳は気付いているだろうから、正直に話しておくわ」

 卑弥呼が云い、蟠りとしたことを話し出した。

卑弥呼わたしが神武にしたことは、人間の本性を見極めるために必要と想ったからよ」

 うさぎはその先を遮り、

「ミカエルさんに唆されて、パンドラの箱を開けてしまったこと、ですよね?」

「パンドラの箱? を開けてしまったのは、神武だったの」

「なぜ開いた? のかが、不思議だったわい」

「箱の中身は?」

「硫酸でしょう? 帰化してみえなくなったから、地球上に風化が起こるんです」

「人間を試すために用意したんだろう? が、赤瞳が先読みをする事等、奴さんたちに気付ける手段はないもんな」

「どちらにしても、興味本位を抑えることのできない人間どもが、開けておるはずだ」

あたしは、どうして硫酸だったのか? が疑問に想います」

「輩たちに灸を据えようとした? んでしょうね。玉手箱に詰められた磁素を開封したくないがための一手でしたはずです」

「赤瞳の云う通りよ。神々が人間にやる気を出させようとしても、埒が明かないのは、理解していたからね」

女神おねえ様の誤解は、輩の存在の多さよね?」

「現世に、あぶら虫を一匹確認したら、数十倍居ると想定しろ、といわれています。品を変える理由は、思い込みで行動するから、ですよね?」

「違いますよ、祷。生命力に関わるからよ。死に絶えた肉体を蘇らすことができるようになったのは、ミカエルの悪巧みなのよ」

「卑弥呼さんが、義経さんを蘇らせました。終わりの定義が塗り替えられた? と想えたんでしょう」

「多分だけど、魑魅魍魎たちを減らされて、ミカエルが手詰まりに対抗することを謀ったのよ」

「その悪循環を目据えなかった卑弥呼わたしの責任でしかないわ。非実体に陥っても、変わらず先読みができる? つもりでいましたからね」

「誤解に意味を見いだしたのは、ミカエルさんの功績でしかありません。腐っても大天使だったんです」

「やっぱり。赤瞳さんは、ミカエルさんをかっている。理由はなんなの?」

「努力を続ける理由は、六弟の甲斐性でもある。言葉足らずの理由は、赤瞳の優しさ? だもんな」

「そんな赤瞳が好きだから、五弟は六弟われを許したんだもんな」

「男神が、赤瞳を好敵手ライバル視する理由だろう?」

次妹あたしたちと対等に接するのは、歴史に残らない功績を知っているからよ」

「やっと登場しましたね、次妹さん。理性さんが、次妹おかあ様が教えてくれた、というのは、赤瞳わたしが、感性かあさんの位を買っている、と誤解してますからですよね?」

「違う理由を知っているのは、卑弥呼わたしだけのようね」

「知っておるのか?」

「影に怯えないのは、感性様の影だからよ。ただ、マイナス思考とマイナス思考を掛け合わせて、プラスに変換されているのよ」

「だったら、三元首ということだろう?」

「感性様は始祖という意思を持ってないわ。だからすべてのが必要と、云うんじゃないかしら」

「先人たちが、結論を未来に持ち越した理由が、まさにそれです。希望だけでなく曰くも、継承されることを知れば、彩りにつきまとう影も、善意に変換できるでしょう」

「変わることで、見えるものも違うわよね。だとすると、位置を変える理由ってことかしら?」

「真実が、善悪により変わるのは、思い込みの一端です。正解のない世の中にしたいのは、当たり前に想うことに、感謝する心を育てて欲しいからでしょう? 育てる理由って、人それぞれにあるもので、あるべきですもんね」

「特別感を持つのは、心の拠り所をみつけるためよ。真っ直ぐ育って欲しくても、育つ保証はないからね」

「保身は、理性さんの道理ですもんね。強弱を知れば、細心を量るのが生命なんです。個人の秤といえど、むやみやたらに乗せて終っては、尽きることを念頭に措けないですもんね」

「念頭に措く理由は、慈しんで扱うものだからでしょう。人間がそこまで考慮できたなら、犠牲となり絶滅した生命体も浮かばれるもんね」

「それを知ってもらうには、時代背景が意味する輝きを知ることです。絶えることで暗礁へ向かうのは、今の輝きに安心している証拠なんですよ」

「安心感を持つために馴れ合うことを、戒めたわけね」

「ひとりの集合体が発するものが、彩りと知って欲しいんです。欠けることで変わる色合いは、心に穴を空けますから」

「埋めるために必要な時間が、無駄にならないために、ってことだよな?」

「それが試練ということだな」

「傲慢を無意味にすれば、網目から堕ちることもなくなるもんな」

「だとしたら、神々もお役御免になるぞ」

「自立するために、必要であるべきです。あたしが学んだことは、過去から導かれた未来って、目映いはず、ってこと。足りないものを補い合うことで、色鮮やかになるのよね、赤瞳さん」

 うさぎは、欲にまみれるのは簡単だが、いずれ味わう虚しさを、想像できる信念を以て生きながらえて欲しい、という言葉を呑み込んでいた。言葉と記述に差が招じる現在は、人間の持つ想いにより書き換えれば、それほど目映くなくても、充実感を得るはずである。命の灯火とは、それだけで保てるもの。寿命を全うして欲しいから、自然に溶け込むことで、繁栄に繋げるのが得策と信じて欲しい。そう願って、病んだ心を解放していた。




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