〜another〜願い

私はもう少しで、元気になれる。

普通の子達と同じような生活が送れるようになる。


なんだか実感がわかない。


ずっと病気を持っていたし、特にこれのせいで不幸だと思ったことはそんなになかったし、今はあの子がいてくれるから……。


あの子と一緒にいられること、それだけで私は幸せだから……。


前に会った時、最後さよならを言えなかったから、ちょっと不完全燃焼感もあって、だからかな、今すぐにでも会いたいなって思ってしまう。


「ふらっと来てくれたりしないかな……。」


そうつぶやいて、布団の中に潜り込む。


ひとり静かな布団なの中、そこに急に上からポンポンと誰かがたたいてくる。


え……?と思って顔にかかっている布団をあげると、そこには、


「え……、どうして……。」


「えへへ、来ちゃった(笑)」


あの子が立っていた。


笑顔で私の前に立ってくれているあの子に、私は嬉しくて強く抱きついた。


その瞬間、私のまぶたからはなぜか涙が零れてきていた。


「あっ、どうしたの?」


「ごめん、あの日見送り出来なくって……、だから……、また会いたいって思ってたから……。」


「そっか、想ってくれてたんだ……。」

何も言わずに私の頭を撫でてくれた。


私はこの子が好き。

それがこの日、一番感じさせられた。



私の涙が止まり、落ち着いたころ、ひとつの話の流れで、聞いてみた。

「いつもみたいに約束したわけじゃないのに、どうして今日きてくれたの……?」


「なんだか、呼ばれた気がしたから……。」

あの子は笑いながらそう言った。


「呼ばれたって……、たしかに会いたいなって言ったけど(笑)」


そんな会話をして、二人で笑い合う。

いつもと同じ、楽しいこの二人の時間。いつまでも続いて欲しいと願うこの時間。


いつもこの時には、桃の香りが部屋を包んでくれるから、私は桃の香りがこの子に影響されて、好きになった。


でも、今日は香りがしない……。


「あれ、いつもの桃の水は持ってないの(笑)?」

さっきの流れで聞いてみた。


「あ、うん、買い忘れちゃったから……、へへ(笑)」


そう答えた後、コンコンコンと扉をノックする音がした後、看護師さんが病室に入ってきた。


「ちょっと、失礼しますよー。うん、大丈夫そうだね。」


いつも私の様子を見に来てくれる看護師さん。

「はい、このとおり、大丈夫です。」


「そう、なら良かった。また時間になったら様子見に来るからね。」


そう言って、部屋に入ることも無く扉を閉めて行ってしまった。


「行っちゃったね。」


「そうだね。もし手術が成功したら、あの人ともそろそろお別れなのか〜。」


天井を見つめながら、私の今までの日常が、あと少しで大きく変わろうとしている。それを噛み締める。


実感はまだ湧かないけど、なんとも言えないワクワク感が私の心に現れてきていた。


「成功したらさ、今までできなかった分、いっぱい思い出作ろうね!! 私、行ってみたいところ、いっぱいあるから……」


あれ……


そう口にして、あの子のいる方に顔を向き直したら、もうそこにはあの子の姿はなかった。


「え……、どこ……?」


辺りを見回す。でもあの子の姿は見つからない……。


「大丈夫だよ……。」


病室をキョロキョロしていた私に、声が聞こえた……。


「私は、ずっと一緒……。ずっとそばにいるから……。」


あの子の声……。


夕日の指す病室でひとり、最愛の人からのメッセージを、受け取った。







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