第5話 春秋2 春秋五覇

 約3200文字。

 春秋時代のひとつのクライマックス、春秋五覇しゅんじゅうごはの時代。春秋五覇を誰にするかは諸説が飛び交うところであるが、こと五覇について「周王しゅうおうの権威を蔑ろとし、後に戦国せんごくの争乱を経てクソしんによる天下統一をやらかしやがった」視点の紛れ込む十八史略じゅうはっしりゃくにおいては斉桓公せいかんこう晋文公しんぶんこう秦穆公しんぼくこう楚荘王そそうおう、そして宋襄公そうじょうこうがピックアップされる。

 対象年は -669 ~ -570 である。



○周


 -676 年に恵王けいおうが立つ。-667 年に斉桓公を覇者として認定をする。

 -652 年に襄王じょうおうが立つ。-635 年に晋文公を覇者として認定。

 -618 年に頃王けいおうが立つ。

 -612 年に匡王きょうおうが立つ。

 -606 年に定王ていおうが立つ。同年、楚荘王が大挙して北上。周のかなえの重さがいかほどのものだ、と迫る。王孫満おうそんまんが交渉し、なんとかそれを退ける。

 -586 年に簡王かんおうが立つ。

 -572 年に霊王れいおうが立つ。


 もうちょいなんか書けや。



○燕


 ない。



○姜斉 


 管仲かんちゅうを獲得した桓公は、管仲を「仲父ちゅうほ」と呼び、全幅の信頼を寄せ、覇業を補佐させた。そんな管仲は、危篤の床にて言う。

易牙えきがは子を殺して君に与えた。開方かいほうは親を見捨て君に従った。竪刁じゅちょうは自分から金玉を切り取った。いずれも人情に欠ける振る舞いであり、こういったものを側に取り立てるのは危うい」

 しかし桓公がこの遺言を守らなかったため、在位中からすでに斉の政治は乱れ、また死後には後継者争いが勃発。桓公の死体は二月近く放置され、死体に湧いたウジが部屋から溢れかえる勢いであった。


・田氏

 前話の陳のところで書いた通り、陳の公子陳完ちんかんが斉に亡命した。元々はちんの一門であるため、姓である。ただし陳から斉に亡命したところではじめ陳氏を名乗り、のちに更に田氏に改めた。ひとまず、陳完は桓公かんこうに仕えた。



○中原諸国


・宋

 姓、つまり殷王いんおうの血族である。はじめちゅうの兄である微子啓びしけいが封じられた。

 -638 年、襄公じょうこうが覇者たらんと目し、と戦った。このとき兄の目夷もくいが「楚の隊列が整う前に攻撃すべきだ」と主張する。それを聞き入れずにわざわざ整うまで待ったところ見事敗北した。「宋襄の仁www」と笑いものにされている。えっ五覇?


 隱公いんこうの弟が公位を継ぎ、桓公かんこうに。その子が莊公そうこうとなる。

 莊公には弟が三人いた。この三人の子孫が孟孫もうそん氏、叔孫しゅくそん氏、季孫きそん氏としての宰相となる。

 その後、公位が子班しはん閔公びんこう僖公きこう文公ぶんこう宣公せんこう成公せいこう襄公じょうこうと継承される。代を追うごと、徐々に三孫氏に権勢を握られていくようになった。



○晋


 春秋五覇のひとり、文公ぶんこう獻公けんこうの子として生まれた。しかし献公は、よそからさらってきた驪姫りきを寵愛し、彼女から生まれた子ばかりをかわいがるようになった。あまつさえ文公の兄の姫申生きしんせいを殺し、文公も殺そうとする。なので -655 年、文公は出奔。19 年後の -636 に公位就任を宣言して帰国した。

 文公の亡命中、そうで食べ物がなくなった。すると従者の介子推かいしすいが自らの股の肉を切り取り、差し出した。文公は帰国後苦楽をともにした従者達、狐偃こえん趙衰ちょうすい顚頡てんきつ魏犨ぎしゅうに恩賞を下したが、介子推には何も与えられない。なので介子推の従者はそれを揶揄する文書を宮殿の門に掛けた。それを見て文公は「私が誤っていた」と、介子推を探し求めた。山の中にいると突き止めたのであぶり出すために山を焼いた。介子推は焼け死んだ。

 人々は介子推の死を悲しみ、文公はその山を介山かいざんと名付け、介子推の領地とした。

 文公ぶんこうが死ぬと徐々に権勢は衰えた。襄公じょうこう靈公れいこう成公せいこう景公けいこう厲公れいこうを経て、悼公とうこうが即位する。


ちょう

 晋に成子せいし趙衰ちょうすい宣子せんし趙盾ちょうじゅんが仕えた。人は「趙衰は冬の日、趙盾は夏の日。冬の日は愛すべし、夏の日は畏るべし」と語っている。なお成子はしん文公ぶんこうの流浪生活に付き従った人物である。

 宣子の子が荘子そうし趙朔ちょうさく。この時、同じく晋に仕えていた屠岸賈とがんかにより、一族が虐殺される。辛くも屠岸賈より逃れた荘子の妻が文子ぶんし趙武ちょうぶを身ごもっていた。屠岸賈は彼女の行方を捜索したが、見つからぬ。

 彼女は荘子の食客、程嬰ていえい公孫杵臼こうそんしょきゅうに匿われていた。やがて公孫杵臼がどこかから赤子を連れ、山に籠もるという。すると程嬰は屠岸賈から千金をせびり取り、莊子の息子のありか、として公孫杵臼と嬰児の所在を伝え,殺させる。こうして「趙家の遺児を殺した」と誤認させた。

 やがて成長した文子は屠岸賈を攻め滅ぼす。それに協力した後、程嬰は「あの世の宣子と公孫杵臼に報告致します」と自殺した。


・魏

 魏氏傍流から莊子そうし魏絳ぎこうが台頭。本格的な活躍は次のタイミングであるため、ここでは名のみ出しておく。


かん

 献子けんし韓厥かんけつの名が挙がるのみである。




 成王せいおうは、即位すると斉の桓公と同盟を結び、また宋の襄公と覇権を求め争った。更に晉の文公とも戦いを繰り広げている。

 その後、穆王ぼくおうを経て、春秋五覇のひとり荘王そうおうの代となる。荘王は即位後三年間命令らしい命令を下さず、日夜遊びほうけた上で「余を諫めようとする者は殺す」とまでふれを出す。これを見て伍挙ごきょ伍子胥ごししょの父)が言う。

「丘の上に止まった鳥が三年鳴かず飛ばずなのですが、これは何と言う鳥なのでしょうな?」

 荘王は答える。

「三年力を蓄えたのか! それはさぞ見事に羽ばたこうな」

 また蘇従そじゅうも、死を覚悟の上で荘王を諫めた。すると荘王、蘇従の手を取り、これまで散々遊び倒してきた楽器を擲ち、翌日から伍挙と蘇従を重用し、政務を取り仕切るようになった。楚人は大喜びし、また孫叔敖そんしゅくごうなる宰相をも得、楚は一気に覇権国となった。いわゆる「かなえ軽重けいちょう」を問うたのは、この荘王である。

 荘王が死ぬと共王きょうおうが立った。


 しゅう文王ぶんおうの伯父、太伯たいはく仲雍ちゅうようが封じられた地である。二人から十九代下り、壽夢じゅぼうの代に、初めて王を名乗った。




しん


 穆公ぼくこうが即位してまもなくし、百里傒ひゃくりけいがやってきた。もとの幹部である。虞がしんに滅ぼされたのち、晋からもたらされた穆公の夫人の付き人にさせられていた。途中で脱走、えんにまで逃れるも楚人に捕まった。

 かねてより百里傒の賢さを耳にしていた穆公は、高級な羊の毛皮五枚で百里傒を買い取り、政治に参与させた。このため百里傒は五羖大夫ごこたいふとも呼ばれた。百里傒は友人の蹇叔けんしゅくを推挙、やはり重役に取り立てられる。

 この頃、隣国の晋は悪名高き獻公けんこう、すなわち文公の父の時代。文公が亡命したのと同じく、文公の兄である恵公けいこうもまた亡命し、秦に匿われていた。獻公周りが政変で次々と死んでいったため惠公を晉に戻し、公位につけさせたのだが、その恵公が、あろうことか秦に攻め込んで来る。かんの地での合戦となり、穆公は晋の軍に包囲された。

 この窮地を救ったのが、三百人からなる野人たちである。


 彼らは過去に穆公が所持していた名馬を食したことがあった。このことに配下らは激怒し、彼らを殺そうとしたが、穆公は言う。

「良い馬を食ったら酒を飲まねば、今度は人を傷つけてしまうだろう」

 そして彼らに酒を与え、無罪放免とした。


 これに感激した野人たちが、穆公の窮地を聞きつけ、駆けつけたのである。彼らの活躍で、穆公は危地を脱することができた。


 晋で文公が死に、襄公じょうこうが立つ。このとき穆公は孟明もうめいを派遣、晋の近隣ともなるていを攻撃し、かつを攻め落とす。しかしその帰りみちで晋よりの攻撃を受け、孟明らは捕らえられた。うちのシマの近くでなにいちびっとんねん、というわけである。穆公は襄公に謝罪、孟明らを引き取ったが、孟明の重用を変えることはなかった。むしろ後に晋を攻撃し、のちのちには西の覇者として君臨することとなる。


 穆公が死亡すると、康公こうこう共公きょうこう桓公かんこう景公けいこうと続いた。



 ◯



 十八史略は春秋五覇のうち「中華人」枠の斉桓、晋文、宋襄をクソ野郎扱いし、「蛮人」枠の秦穆、楚荘を名君扱いしておる。


 ここには論語八佾の「子曰:「夷狄之有君,不如諸夏之亡也。」」を思い起こされる。


 古注で「夷狄の名君なぞ中華の前ではカス」とされるこちらの句は、新注では「夷狄の名君のほうが中華でもカスな状態よりいいじゃん」とされる。

 十八史略における五覇の扱いには、この新注のメンタリティが反映されているよう思われてならぬのである。

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