第4話 後悔

日は沈み、星明かりが世界を照らす。

俺は寝付くことができなかった。

星が、俺を照らしてくれる。

何をしなければいけないのだろう。

自分ですらよくわからなくなった。

星明かりに照らされた部屋に、ノックが響き渡る。


「?」

「よ、入るぜ」


ゆっくりと扉が開き、現れたのはウィロだった。

俺の隣に座り、共に空を見る。


「なあ、どうしてお前はこの星に来たんだ?」


リリス曰く、「話すなら話したほうがいい。正直、アレには隠すだけ無駄だしね」

と、俺は悩んだ。

本当に言っていいのか?

息が荒くなってきた。

けれど、言わなければならない。

一人の殺人鬼として。


「やっぱり、寝れないのか。まあ、分かってはいたけどな」

「言って、信じられるかどうかすらわからない。もしかしたら、お前は俺を殺すかもしれない」

「言えよ。腹割って話そう」


俺は彼に真実を告げた。

弟が、世界を終焉へ導くこと。

彼が、後に思うに殺されること。

星が、悲鳴をあげていること。

俺が、彼の弟を殺そうとしていること。


「……さあな。俺にはよく分からん。けれど、お前が嘘をついていないことはわかる。

でだ、正直、俺は世界の未来とかよくわからない。唯一の家族と星の運命を天秤にかけることなんざ、俺にはできない。

だからな、俺は手を出さない。お前が死のうと、あいつが負けようとな」


星が雲に覆い被された。

暗くて、ウィロの顔がよく見えない。


「ただ、不意打ちは無しにしよう。正々堂々、決着をつけろ」


そこまで言って、ウィロは部屋を出て行った。

バン、と力強く扉が閉められる。

身体の力が抜けていく。

俺は泥のように眠った。

来るべき終わりに備えて。




太陽の光に照らされ、俺は目覚めた。

あまり気持ちの良い目覚めではなかったけどな。


こん、と扉を叩く音。

扉を開けると、目元以外を衣服で隠したメイドが立っていた。


「ウィロ様がお呼びです。至急、玉座の間へいらしてください」


「わかった」


急いで最低限の着替えを行い、メイドに連れられ、玉座まで走った。


玉座から俺を見下ろすラフム。

玉座の階段で腕を組み、半身で俺を見るウィロ。


(こう見ると、本当に似ているな)


「遅かったじゃないか」

「……」


ウィロがゆっくりと階段を降りる。

降りながら、

「いや、しょうがないか。平然としているのは、俺だけなんだからな」

一歩、一歩、力強く。

「お互い、覚悟は決まってんだろ?」

それは、単なる確認だった。

「なら、理屈で話すより、成すべきことがあるはずだ」

右足が、地を踏む。

「無論、俺はどちらにも加勢しない」

左足も、地を踏む。

「さ、移動しよう」


玉座からラフムが飛び降りる。

俺がウィロの背中について行く。


少し歩いて、中央広場。

四方を壁に囲まれた、決闘場コロシアムに俺たちは立つ。

今から殺し合いをするというのに太陽は元気に俺たちを照らす。

大きな深呼吸をし、覚悟を決める。


俺は懐に忍ばせたナイフを右手で持つ。


(!?)


ラフムが右手をばっ、と広げる。

手のひらから生み出される、巨大な槍。

いや、槍では無い。


「ハルバード!?」


俺の困惑など知らず、時は動き出す。

遂に、ラフムが口を開いた。


「始めよう、叛逆者よ。平伏せよ、旅人よ。我はラフム。真紅ラフム。

死によって時を刻むもの。

破壊によって命を紡ぐもの。

時を告げよ、其は星を穿つもの。

神よ見よ、我が戦を。我が怒りを」


目が開かれた。

王ではなく、戦士としての赤い瞳。

槍に見えるハルバード。

命中すれば無論死ぬ。

掠っただけでも致命傷は免れないだろう。

絶対に正々堂々とやるべきじゃない。


「来い!」


ナイフを構える。リリスの加護を使用する。出し惜しみはしない。

加減もしない。

やることは単純明快だ、殺して、帰る。

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