目撃者

阿笠栗栖

目撃者

 私は最愛なる夫、水嶋勇を殺しました。しかし私は何も後悔しておりません、逆に後悔するのがおかしいと思うのです。

 こうなったきっかけというのは、夫からしたら些細なことだと言っていましたが、私からすれば重大なことだったのです。それも動機の一つですが、その食い違いよりも、もっと私を憤怒した重罪をあの人は犯してしまったのです。

 私がまだ小学生の頃に同級生のガキ大将が、私の友達から大事なものを奪い取ってからかっておりました。その時読書しておりめした私は思いっきり立ち上がり、大事なものを取り返して平手打ちをくらわせてやりました。ガキ大将は私に反感をしてきましたので突き飛ばして耳元で脅してやりました。

 つまり私がおっしゃりたいのは、少しの悪事も許せない性格であることです。しかしいつまでもそう怒っていたら、いつの間にか周囲から白い目で見られる羽目になり、そこでその性格を憎く思って封印することにしたのです。

 しかしそれは吉にも出て凶にも出てしまいました。

 私は一度怒ると周囲の人が手に負えないほど悪の原因にキツく当たるようになってしまったのです。

 高校生の時、いじめにあっていましたが私はなんとも思っていません。しかし家族の事を侮辱されて怒り狂った私は本棚にあった国語辞書の背をいじめっ子の後頭部に向けて振り下ろしてしまい、先生が来るまで相手が床で伸びても問答無用に振り下ろして、額を真っ赤にしてしましたが後悔なんてしませんでした。当然の報いです。

 しかし夫はそれ以上の悪でございました。それは一個二個どころではありません。

 それに気付いたのは結婚して三年目で、それまで妻である私にですら隠していたのですが、私が会社の取引先に向かって、白い満月が起こす涼しい風の中を道に沿って歩いていた時、遠くの方に見覚えがある顔がこちらに向かって来るのです。しかし夫は気付く様子はないのですが当たり前のことです。

 あの人の視線は、あの人の腕を掴んでいる女の方に向いていて片時も離さず、そのまま前方から歩く人の肩にぶつかっていましたが、何もなかったかのように歩き続けるのです。

 私は問い掛けようと速歩きしましたが、それと同時にした夫の行動が私の精神を刺激させ、目を充血に手に爪が食い込むほど握らせたのです。

 夫はニコニコと平気で女と一緒にホテルに入っていったのです。

 許せませんでした。

 私を妻にしておきながら他の女とふしだらな行為をしようとしてるなんて酷いことです。これは私の被害妄想なのから、もしくはそれから導き出した真実なのかは今となっては分かりませんが。ここ三年夫は私に大層良くしてくれました、なので私を愛してると思っていましたが実際は世間に「あんなに奥さんを愛してる人が浮気するなんてありえない。なにかの間違いではないか」と結論づけるための工作ではないかと。

 でも取引先の相手を待たせたら人間として常識をなしてはいない。

 思い余りながら、その場を去らなければならなかった。

 そして仕事が終わって家に帰ったのはもう次の日になっていましたが夫はまだ帰っていないようで、家に明かりはありませんでした。

 私の習慣で、帰って来ると必ずポストの中身を確認するのですが、今日は珍しく一枚だけでしたが封筒に入れずに投函されて自然に開いてしまいました。その瞬間、まだ若い私の心臓が今にも止まりそうになりました。


(夫の名前)さん、二日後の十時までに二百万用意して(港の名前)まで持って来い。会社の金を横領してる事をバラされたくなければ素直に従うことをおすすめしておく。


 「横領」?私の夫が「横領」をしたの?

 許せない 許せない 許せない 許せない

 私に隠れて大悪事に手を出して、私を騙していたなんて許せるはずがありませんでした。誰だってそうです許せるはずがありません。

 私は奴が帰ってくるまで起きて待つことにして、時間が刻々過ぎる中待ち続けました。

 私が帰って十分後夫が帰って、問い詰めました。すると案外アッサリと大罪を認めて、満更でもない様子だったのが益々許す気にはなれませんでした。

 そして夫から発せられた発言によって、離婚するだけで私の気が済まなくなりました。私は中学生の時家に強盗が入り親を殺したのです。その犯人こそこの犯罪者なのでしたが信じれませんでしたが、此奴は父が隠していたふくらはぎの刺青を知っていたので間違いありませんでした。

 そして気付くと片手に血がついた包丁を握りしめて目の前の死体を見つめていました。笑うしかなかった。だけどこのまま放置しておくと異臭で死体のために警察に捕まらなくてはなりません。それだけは避けたいので死体を車に詰めて東尋坊に向かい。 断崖絶壁の東尋坊に思いっきり投げました。

 だからといって死体の罪は消えたわけではありませんし、もし罪が明るみならなくても手紙の奴は必ず私を脅して金を絞る取るでしょう。なので私が死ぬことは奴に対する復讐になるでしょう。

 それに世間にバレたとしたら「大罪者の夫を妻が殺す」トップ記事が出るのは目に見えています。

 警察の皆様、世間の皆様私の死体が大変なご迷惑をおかけしまたことをお詫びいたします。これから私はあちらに行ってまいります。

 さようなら。

            尾上光


樹海で車を見つけたときには奥さんの姿は見えず、樹海に向かう道に顔をボールペンか刃物で顔が分からないほど引き裂かれた、割れた夫の写真が落ちていたので彼女が樹海に入った事には間違いなく数日後大木で首を吊っているのを発見された。

 夫の方は一週間後に発見されたものの、全骨が粉々になっており顔は柘榴のようになっていた。

 浮気相手は手紙に名前が書かれていなかったが、会社では明るみになり陰口や視線に耐えれなくなって退職。その後どうなったか警察は掴めていない。

 おそらく奥さんは天国で赤い唇の口角を上げながら笑っているだろう。

 とても嬉しそうに。

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目撃者 阿笠栗栖 @yuureiyashiki

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