第23話 微熱

最近何か変わった気がする。

よく分からないけど周りとか?

周囲の人が俺に慣れてきたからなのか?

今日は朝から、アンが家に来ていた。


「おはようミライ。会いに来ちゃった。」


アンは、俺を優しい目で見ている。

俺は今起きたところで、まだベッドの中にいた。


「おはよう。早いね。」


アンに起こされた。

ずっと見られていて恥ずかしい。

そわそわして落ち着かない。

アンってこんなに積極的な子だったっけ。


「もう、待ってるのはやめたの。」


二人きりとか…今まで全然気にしてなかったのだけど、この前からいやおうでも意識してしまう。

アンは俺の目を真っすぐに見る。



「待ってるって?」


「私ずっとミライの事が好きだったの。この間ようやく自覚した…。無意識に期待してたみたい。言わなきゃわかんないのにね。」


急にアンが大人びて見える。

そもそも年齢は同じくらいだったか。

アンは顔を近づけた。

ほのかに花の香りがする。


時間が止まったような錯覚。

俺はドキドキしていた。

アンってこんなに綺麗だったっけ?

ほうけていたら頬にキスされた。


「またね。」


アンは残り香を残し去っていった。




****




俺は…どうしたのだろうか。

何をするでもなくただ宙を見ている。

思い出すのはアンの事ばかり。

今まで、こんな事なかったのに。

気になって仕方がない。


「今日は仕事できそうに無いな。」


集中力が無い。

何もないところで転びそうになるし、危なっかしい。

包丁なんて持ったら手を切るかもしれない。

怪我したら迷惑かけるしな。

今はかろうじて椅子に座っているところだ。


「今日行こうと思ったけど…止めとくか。」


この世界は電話が無い。

連絡手段が手紙とかなのだろうか。

まだよく解ってないことの方が多い。


「行くのもだるくて…。」


本当は良くないのだろうけど。

うつら…うつら考えていたら、向こうからやって来てくれた。




「ミライいるんだろ?今日来てくれるんじゃなかったっけ?」

銀髪エルフの声がした。


俺は体を起こし、家のドアを開ける。


「ごめん。体調?が悪くて家事出来そうにないんだ。」


「そうなのか?立ってるのも辛いのか?」

カモミールは慌てて俺を休ませようとする。


「旅の疲れが出たのかな…。まあ、ゆっくりしているといいよ。そういえば朝食食べたのか?」


「あれ?食欲ないかも…。」


「ちゃんと食べないと…何か軽い物買って来るよ。」


あれ?

何だかめちゃくちゃ心配されてない?

熱があるわけじゃないし、多分…そんなに心配いらないと思うのだけど。


カモミールさんは直ぐに買い物に行ってしまった。


「悪い事したな…。でもせっかくだし、休もうかな。」


俺はまたベッドにもぐり込んだ。

平日なのに二度寝する感じ。

学校をさぼる背徳感。

何故かとても気持ちがいいと思った。


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