第23話 マイホーム

「だからだよ。あの時は運が悪かったんだ。俺がカバーに回るのが遅かった」


「それは何度も聞いたってば。別にバルトが悪いとか思ってるわけじゃないよ」


「そうだけどよ。冒険者に誘ったのは俺だ。だったら責任持つのが男ってもんだろ」


「そんなかっこいいこと言っても私は騙されないっ! 他の女とよろしくやってたのを私は知っている! けっ!」


「けっ! じゃねぇよ。そりゃ色々なパーティーに混じるんだから女性だっているだろうが。なんだよお前は俺の嫁かっつの」


「ばっ! ちげーし! そんなんじゃねーし!」


 誰が嫁だ!

 恥ずかしくなるからやめれ!


 でも、今の生活が苦しいのは事実なんだ。

 自分でもどうにかしたいと思ってるんだよ。


「どうだ? リハビリも兼ねて低級のダンジョンにでも行かないか」


「うう。わかりました」


「もちろん他の冒険者も誘う。二人だと心配だろ?」


「心配しているわけじゃないですよ。心配していると言うなら自分自身が心配です」


「そうと決まれば明日なんてどうだ?」


「いいですよ」


「よし。それじゃ決まりだな」


「はぁい」


 バルトは話が終わると、明日の準備だーと言ってどこかへ行ってしまった。

 どこのダンジョンかは知らないけど、頑張ってトラウマ克服しなきゃだよね。

 がんばれ私、ふれふれ私。


「私も準備しないと!」


 拳を握ってグー。

 ダンジョンクリアでちょき。

 帰ってきて万歳ぱー。

 これが冒険者のぐーちょきぱー。


 そう、私は雄々しく戦場をかけ、悪を打つ正義の使者、フィリア・サザーランドだ。

 と、意気込みながらなけなしのお金で、補助用品や携帯食料を買いこんで家に帰る。

 下級市民街の一角にある古びた集合住宅が私の家だ。


 アルスト王国で活動するのなら、宿で連泊するより家を借りたほうがいいと言われたのだ。

 しかしこの身一つで処女宮を追い出された私に貯金なんて崇高なものはなく。


 ギルドでお金を前借りし、この激安オンボロアパートの賃貸契約を結んだのだ。

 おんぼろの室内に入り、硬いベッドにどさり。


 あぁ、処女宮のふんわりやわらかいい匂いのする高級ベッドが懐かしい。

 毎日宮廷シェフの作る料理に舌鼓を打ち、高級茶葉で入れたロイヤルミルクティーをすすり勉強に励む。


 そんな輝かしい優雅な生活とは程遠い今の生活。

 恵まれていたなぁ、と改めて思う。


 でも! 

 私は聖女としてなんか生きたくない!


 ていうかあんな気持ち悪い皇太子の妻なんて死んでも嫌だね!

 それを考えれば今の、皇太子の脂っぽくて熱苦しい影に怯える事もないんだ。


 いやあ最高!

 ビバ第二の人生!

 ハッピーライフハッピーホーム!

 ヤマタニホーム!

 ちなみにヤマタニホームはこのアパートを紹介してくれた業者さんだ。


「A級なのにこんな所住むんですか? もっといい物件ありますよ? 中級市民街の利便性の良い物件とか」


 という奇人変人を見るような目で見られた事は絶対に忘れないぞ。

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