第21話 フィリアのトラウマ

「やったー!」


「おめでとうございます!」


 アルスト王国近郊、白樺の森に黄色い嬌声が響き渡る。

 毎週二日、定番となっているリーシャとプリシラのヒーラー特訓。


 リーシャとプリシラはやはり才能があった。

 私が教える事をすいすいと、まるで乾いたスポンジが水を吸うかのようにそれはもうスイスイと覚えていった。


 初級の初級である【ファストエイド】を教え始めて、ものの五分で発動してしまった時はさすがに驚いた。

 まるで誰にも祝ってくれないと思っていた誕生日をサプライズパーティされた時と同じくらい驚いた。


 びっくりだよわたしゃ。

 わんちゃん私より才能あるんでねーの、って思ってしまう。

 まぁ負けませんけどね! 


「それじゃ次は--」

「「おす!」」


 日頃のお仕事で疲れているのだろうに、二人は体育会系のお兄さんのようにアグレッシブで貪欲だった。

 リーシャなんかもう目を血走らせながら勉強してるし、プリシラも鬼気迫る勢いであれこれ質問をしてくる。


 ちなみにお賃金は二人の言い値でもらっている。

 そのおかげで少しは私の生活も余裕が出てきた。

 毎日芋食だったのが、芋に卵がつけられるくらいには余裕が出てきた。


 イイネ!

 いやよくないよ! 

 毎日芋は飽きるんだ! 肉が食べたい! おにく!


 ぎぶみーおにきゅ!

 教鞭を取り、あれやこれやと指導している最中にもお腹が鳴る。

 アルスト王国の知らなかった現実。


 それは物価が高い事。

 そして一人でお金を稼ぐことの大変さ。

 毎日ご飯が食べられる事の幸せよ。


「はぁ……」


「どうしたの? フィリア」


「あぁすみません。いえ、お金ないなぁ、現実って辛いなぁって改めて考えてました」


「あーね。アルストは聖王国より物価高いからなぁ……」


 そうなのだ。

 例えばの話、聖王国でりんご一つ銅貨二枚だとする。


 それがアルストでは銅貨十枚もするのだ。

 ふざけんじゃねぇと最初は思った。


 なんだこの店クソボッタじゃないですかやだーと思った。

 でもどこのお店に寄っても同じような値段だった時はもう絶望を感じました。

 さすが外国、税率が違いますね、やりますねぇ!


 毎日冒険者ギルドに顔を出してはいるけど、私が出来そうなものと言えばどこそこに生えてる薬草を摘んでくるとか、新薬の実験に使うモンスターを捕まえてきてくれとか、そんなもので報酬は銀貨一枚とかそれくらい。


 銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚、金貨百枚で王金貨一枚。

 銀貨一枚じゃりんご十個でなくなっちまうよう!


 もっと割のいい仕事はないのかって? 

 そりゃありますよ。


 私A級ですから? 

 どこそこのダンジョン攻略とか? 


 どこそこの森でのモンスター討伐とか?

 そりゃあありますよ。


 報酬も金貨ウン枚とかそりゃあありますよ。

 でも行きません。


 こわいもん。

 むり。


 だってバルトと初めて会った時、相方だったケントさんのあの惨状を見たらとてもとても。

 中身でろんてして白い骨や脂肪がこんにちわしてて、アァ恐ろしや。

 私多分冒険者向いてないんじゃないかって最近思う。


 怖がりだし、鈍臭いし、足遅いし、おっぱいないし。

 おっぱい関係ないですよね失礼しました。


 バルトに連れられて何度か討伐系やダンジョン系の仕事はしたのですよ。

 で、一生懸命頑張ったんです。


 で、臨時パーティーを組んだお仲間が目の前でずばぁっ! ってモンスターにやられたんです。

 煌く凶刃、飛び散る血飛沫、舞い踊る切り飛ばされた腕。


 正直に言います。

 漏らしました。


 ヒール全開で漏らしてしまいました。

 きゃっ言っちゃった。

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