第56話 君の告白

「森野さんに救われたのは学校生活だけじゃないよ。病気が悪化してほとんど学校に行けなくなってからも、毎日のようにお見舞いに来てくれてたのが僕にとっては何よりも救いでした。初めの頃はなかなかお見舞いに来てくれなかったよね。正直、もう来てくれないんじゃないかと思ってた。小学校の時も中学校の時もそうやってみんな来てくれなくなったから……でも、森野さんだけは違った。久々に連絡がきた時は嬉しすぎて、無駄に張り切って掃除しちゃったりなんかしてね。森野さんの姿を見た時は普通っぽく振る舞うのに苦労したよ。きっと僕が犬だったらちぎれそうなくらい尻尾を振ってただろうね。

 その後にコンクールで優勝して、偉い人から声がかかって海外に行けるようになって、どんどん活躍する森野さんを見てるとこっちも頑張ろうって気になったよ。森野さんを見てるだけでたくさんの元気と勇気を分けてもらえた。本当に……本当にどこまで活躍していくのか最後まで見届けたかった……

 それと、入院中で嬉しかった出来事といえばもちろんデートしたことだね。本当は僕が連れてくべきだったのに森野さんに全てお任せになってしまって申し訳なかったです。ただ!めっちゃくちゃ楽しくって、色んなサプライズも面白くって最高な1日でした!もう来来世くらいまで忘れられない1日だった。五里先生もご飯もバザーもピアノも非日常をたくさん演出してもらって夢を見てるみたいだったよ。お返しがほんのちょっとしたものしか渡せなくてごめんね。あれだけじゃ僕の感謝の気持ちとか想いみたいなのが伝わりきってないかと後悔して、考えた結果こうやってビデオレターを残すことにしたんだ。ここで森野さんへの思いの丈を全部出しちゃおうと思って……

 ……ということでですね、えーっ……面と向かっては言えそうにないので、ここで言わせてもらいます……あー、よし。森野さん。ずっと、多分、出会った時からずっとだと思います……あなたのことが好き、大好きでした。過去形なのは、きっとこれを見ている時には僕がいないはずだからで、もちろんこうやって喋ってる今でも大好きです。きっと最後の日の最後の瞬間までずっと大好きです。

 森野さんの……笑った顔も、怒った顔も、びっくりした顔も、真剣な顔も、集中する時に目つきが険しくなって唇をとんがらせるのも、何か教えてくれる時にちょっとドヤ顔するのも、動物が懐いてくれなくて悔しそうにしているのも、ピアノの話をする時には指も一緒に動いちゃうのも、いつもまた明日って言ってくれるのも、森野さんの全部全部が輝いて見えて、僕が触れて壊しちゃいけないような気がして、でもそばでずっと見ていたくて他の誰にも渡したくなくって、気がついたら森野さんのことばっかり考えるようになってました。

 実を言うと、何度もこの気持ちを伝えてしまおうかと思いました。でも、結局は森野さんを一人置いていってしまうことになるのを考えると言えませんでした。僕は森野さんの枷になりたくなかったって言ったらかっこつけすぎかな。まぁ、何かと理由をつけて、あと一歩勇気を出せなくて言えなかっただけだね。

 こんな短い僕の人生の中で……心から好きだって思える人に出会えたことは、本当に幸せなことでした。森野さんのことを考えるだけで胸があったかくなって、僕一人じゃ勇気が出なくてできなかったこともたくさん挑戦できました。この1年のために僕は生きてきたんじゃないかと思うくらいの……それくらい大切な1年間でした。強がりとか何でもなくて、僕は心の底からこの、森野さんに出会えた人生に満足してます……」

 ここまでずっと穏やかに笑顔で話していた山石君だったが、ここまできて突然顔が暗くなっていった。

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