第31話 君に結果報告をしに行こう

 太陽も寒さから逃げるように急ぎ足で隠れてしまい、すっかり外は暗くなってしまった。ソンユンさん達との話し合いが思った以上に長引いてしまった。けど、まだまだ面会時間は残ってるはず。

 早く早くと頭では大急ぎなのに、足はせいぜい早歩きくらいの速度しか出せないのがもどかしい。こういう時に病院内でのルールをちゃんと守ってしまう性格が恨めしい。病室までの最短ルートはもはや体に染み付いている。最速で病室の前までたどり着き、深呼吸して息を整えてからドアをノックする。中から女性の声で返事があった。今日はお母さんが一緒の日だ。

「山石君!聞いて聞いて!私、優勝しちゃったんだよ!トロフィーも持ってきた!実は見た目よりも全然軽いんだよ!知ってた?でもね、そんなことよりももっとすっごいニュースがあるんだよ!」

 ドアを開けるなり大声でまくし立てていると、山石君とお母さんが目を丸くして呆気に取られていた。と思ったら互いに目を交わして同時に吹き出した。勢いあまって騒ぎすぎちゃったみたい。二人が笑っている様子を見てやっと少し冷静になり、思い出したようにベッドの横の椅子に腰掛ける。いつも用意してくれてる私の特等席だ。山石君はベットの上で上半身を起こしていて、いつもより元気そうだった。

「今日は起きてて大丈夫なの?」

「あぁ、今日はなんだか気分が良いからとっても元気だよ。それに今の森野さんの声を聞いてもっと元気になった。最高の気分だよ。すっごいニュースっていうのも気になるけど、まずは本当におめでとう。森野さんのピアノがついに世の中に認められたんだね。」

「本当に優勝なんて……つばめさん、すごいのね!それくらいしか言えること思い浮かばないわ。」

 ここに来るまでにたくさん褒めてもらったけど、この2人に褒めてもらえるのがやっぱり1番嬉しい。

「うん、頑張ったの……練習でも本番でも山石君に届けーって私のパワー送ってたんだよ。そしたらすっごく良い音が出て、それを褒めてくれる審査員がいて……山石君のおかげだね。お守りからも勇気をもらったし。」

「少しでも力になれたなら嬉しい。でも、僕のおかげだなんてことはないよ。森野さんがずっと頑張ってたのも知ってるし、いっぱい大変な思いをしたのも知ってる。そうやって今までの人生で積み上げた実力とか苦労とか、そういうものがやっと形になって返ってきたんだよ。」

「へへっ、そうかな……山石君に言われるとそんな気がしてくるなぁ。そうだ!すっごいニュース!コンクールの後、帰ろうとしたらさ、審査員の人が話しかけてきたの!」

 その時に言われたことを思い出しながら、自分でも信じられないけど本当に言われた内容を山石君にも教えてあげよう。

「それでね、今度ウィーンであるコンクールに推薦するから出てみないかって。しかも、その準備のためにもヨーロッパに留学に来ないかって!それに、まだあるの!今は世界での実績とか全然だからコンクールとかに出て成績残してからって話なんだけど、プロになるなら自分の事務所と契約しようって言われたの!めっちゃ世界的なピアニストの事務所に!」

「本当に!?すごいじゃん!…ゴホッ…ゴホッ……ふぅ、森野さんが今まで頑張ってた分がどんどん返ってくるじゃないか。」

 興奮して咳き込んでしまった山石君はややぐったりとしながら感慨に耽ってる。

「山石君と出会ったからここまで頑張れたんだよ!もう一度ピアノに触れるようになったのも、表舞台に立ってみようって思ったのも、練習を毎日頑張れたのも、みんなみんな山石君のおかげなんだよ。まさかこんな日が来るなんて想像したこともなかった。あの日、あの桜並木の下で、山石君に会えたおかげなんだよ……ほんとにほんとに私と出会ってくれてありがとう。同じ時代の同じ場所で生まれてくれてありがとう。同じ高校を選んでくれてありがとう。金髪で高校デビュー失敗してくれてありがとう!」

 山石君に思いの丈をぶつけていると、感極まって涙が止まらなくなってしまった。それを見てもらい泣きしたのか、山石君も涙ぐみながらじっとこちらを見つめ続けていた。

「そんなの、こちらこそだよ。僕だって森野さんのおかげで……森野さんにはどんなにありがとうって言っても足りないくらいだよ……でも、高校デビューのことは忘れて。」

 みんなで泣きながら大笑いして顔をぐちゃぐちゃにしながら優勝を喜び合った。コンサートのことなど話したいことはまだまだ尽きなかったけど、看護師さんが顔を出して面会時間の終了を告げたので、その日は渋々帰ることになった。

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