黒ずきんちゃんと緑ずきんちゃんの巻

 私、緑ずきんちゃんのことが大好きなのに、なかなか会えないの。


 森に用事があったとき緑ずきんちゃんを探せゲームをしてるんだけど、まだ見つけられないから悔しい。

 みんなと一緒に遊んでほしいのに、いったいどこに隠れているのかな。

 探し物は探すと見つからないらしいから、意識しないほうがいいのかも。



 ある日のこと。

 ママからお使いを頼まれ、赤ずきんちゃんのお家に行くことになった。


 赤ずきんちゃんは森に住んでて、オオカミさんをやっつけたと自慢している。

 女の子がそんな怖い動物に勝てるわけないのに、どうしてそんなウソつくのかな。


 ともかく、ママお手製のパンが入ったかごを下げて森に入った。

 本当にオオカミさんが出てきたら怖いけど、どうせウソだよね。

 でもなんだか怖くなってきた……。


「オオカミさんいるぅー?」

「いないよね~」


 突然、目の前の茂みがガサガサと揺れた。


「ガオオオオオ!」


「きゃあああああ!」


「フフフ……なんちゃって」


「緑ずきんちゃん! うわあああん」


「ごめんごめん、黒ずきんちゃん。ちょっとからかってみただけさ」


「うう、本当に怖かった。ところで、なんで出てきてくれたの?」


「ボクはこの森の管理人さんだからね。迷子になられたら困るのさ」


「そっか、ありがとう!」



 そんなわけで、赤ずきんちゃんのお家まで案内してくれた。


「どうもありがとう、緑ずきんちゃん。ってあれれ? どこか消えちゃった……」


「あら、あなたは黒ずきんちゃんじゃない、こんにちは。今日は何のご用事?」


「あっ、赤ずきんちゃん。こんにちは。ママのパンを持ってきたの」


「まあ、ありがとう、黒ずきんちゃんママのパンは大好物よ。さあ、入って」


「うん、おじゃましまーす」



「あらま、よく来たねえ、黒ずきんちゃん」


「こんにちは、赤ずきんちゃんのお婆さん」


 赤ずきんちゃんのお婆さんも昔は赤ずきんちゃんだったらしい。

 彼女の家は代々赤ずきんちゃんを名乗り、オオカミ退治を生業なりわいとしていた。


「ねえねえ、お婆さん。ほんとにこの辺りにオオカミさんいたの?」


「ああ、いたとも。でもわしらの一族が絶滅に追い込んだから、もう大丈夫だよ」


「そうなんだ。良かった!」



 たっぷりお話してから、お家に帰ることになった。

 すっかり夕方になってしまい、森は暗くてなんだか怖い。


 借りたランタンを手に森をさまよっていたら、とうとう道がわからなくなって完全に迷子になってしまった。


 うっかり転んで灯りが消えて、真っ暗闇の真っただ中。

 今ほど自分が黒ずきんをかぶっているのを後悔したことはない。

 私はとうとう心が折れて、泣き出してしまった。


「うわああん、緑ずきんちゃん助けてー!」


 すぐ目の前の茂みから、ガサガサと揺れる音がした。


「呼んだかい」


「わっ、そこにいたの! オオカミさんかと思った。うわああん」


「フフフ、ちょっとからかってみただけさ」



 森の外まで送り届けてくれると、緑ずきんちゃんはまた居なくなった。

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