第16話
「お帰りなさい」
ニコロが戻るとモニカはいつも通り笑顔で出迎え、温かい食事が用意されていた。食事にはさりげなく根の野菜を取り入れている。疲れている時にはタンポポコーヒーが出てきた。ライエでは街中でコーヒーを出す店もあり、豆も手に入れやすかった。コーヒーの代用品として飲んでいたニコロにはタンポポコーヒーは少し物足りないようだったが、モニカは切らすことがないよう常備していた。
ニコロは一週間北部のリオネルという街に出かけることになった。
モニカはお手製のギマのお菓子を渡した。ナッツやビーツのしぼり汁を少し混ぜてみたところ、よりお菓子っぽい味になっていた。
「日持ちするから、おなかが空いたときに食べてみて。若干魔力が回復する効果があるみたいなの」
「どれ」
一つつまんで口に入れると、気に入ったのかにんまりと笑ってもう一つつまみ出した。
「いけるな。…ありがとう。じゃ、行ってくるよ」
その言葉は、兄の最後の言葉と同じで、モニカは一瞬表情をこわばらせたが、すぐに平静を装った。ニコロはギマのお菓子をポケットに入れると、いつものようにモニカの頬に口づけをして出かけて行った。
ニコロはライエに来てからモニカがよくぼんやりとし、笑顔を忘れるようになったのが気になっていた。自分の前では取り繕っているが、時折どこかを眺め、思いつめたような表情を見せることがある。リデトでは忙しそうにしながらも毎日生き生きとしていたのに、ここの生活が合わないのかもしれない。
ニコロは、気分転換に次の休みにはモニカを連れて少し遠くまで出かけてみることにした。
ライエから駅馬車が出ている街で、モニカがゆっくりできそうな所。騎士団の同僚に聞いた場所や護衛をしていた時に同行した町など、いくつか候補を考えていると、珍しく顔をしかめているニコロが気になったモニカが、
「何を悩んでいるの?」
と声をかけてきた。
「今度の休み、どこかに出かけようか。…どこか行きたい所はあるか?」
モニカは、ニコロが書いた簡易な地図と地名を見ながら、リデトよりさらに西を指さした。
そこは、リデトの壁の向こう側だった。
「…壁の外は、まだ安全じゃないわね。やめておくわ。そうね、…エイデルなんてどう?」
モニカの指がリデトの北にある街に動いた。
「リデトから北に行く街道を通れば近いから、リデトの家で一泊してから出かければいいわ。この季節ならおいしい果物がたくさん食べられるわよ」
「うーん、駅馬車の便が少ないな。日程内に帰れるかな…」
「リデトから馬で行くのはどう? 馬を貸してくれるところもあるし」
ニコロはモニカが馬に乗れるとは思ってもみなかった。エイデルまでとなるとそれなりに距離がある。乗り慣れていなければきつい旅になってしまうだろう。
「モニカは、馬に乗れるのか?」
「ええ。…最近はあまり乗ってないけれど、昔はよく…」
「そうか…。じゃ、そうしようか」
乗馬用の服など持っていないので、モニカはニコロのズボンを借りるつもりだったのだが、旅の前にニコロから乗馬用のズボンを渡された。それはモニカ用に新しく作られたものだった。この旅以外で使うことはほとんどないと思われたが、わざわざ用意してくれたことが嬉しく、旅の荷物に追加した。
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