第5話

 ニコロがリデトに来てから五年目、かつて襲撃してきた蛮族が集結し、町へと迫ってきた。久々に大きな戦いになると予想され、近くの領や王都からも援軍が来た。その援軍には、かつてニコロが所属していた魔法騎士団の隊もいた。


 王城の正騎士達は城から支給された仕立てのいい服を身に着け、見ただけで高価とわかる剣を所持していた。中には滅多に手に入らない魔力が付与された剣を持つ者もいたが、そうした者に限って陣営に近い後方にいた。

 よく似た服でも着古したものをまとった者ほど前線近くで戦い、怪我も多い。手柄を立てたい若者は勢いづき、率先して戦場に駆けて行ったが、慣れない戦いに怪我を負い、命を落とす者もいた。


 混戦状態が続く中、午後になって後方で待機していた魔法騎士隊がようやく動いた。

 つい先まで晴れていたのに、突然痛みを伴うほどの激しい雨が打ち付け、戦場の兵達は皆ずぶぬれになって士気を落としたところに一閃の雷が落ち、枝分かれした雷光がその周囲にいた者たちを襲い、バタバタと倒れていった。倒れた四分の三は敵だったが、残りの四分の一は味方だった。

「もう少し奥に打てよ」

「そのつもりだったんだ。次はうまくやるさ」

 雨の魔法を使ったダニロと雷の魔法を使ったルーチョは共に一度攻撃魔法を放っただけで他の魔法騎士と入れ替わり、陣営に戻った。

 雷の魔法で負傷した味方は重症ではなかったが、あちこちに火傷を負っていた。治癒の力を持つ魔法使いも同行していたが、前線の兵達の治療に向けられることはなく、もっぱらリデトの救護隊が治療に当たった。モニカも救護隊に参加し、救護用のテントに運ばれてきた兵達の怪我の手当てをした。


 翌日も早朝から攻め込んできた敵を迎え撃った。

 壁の中へと侵入しようとする敵兵と、それを防ぐ味方との戦いは一進一退で、はしごをかけて壁をよじ登り、侵入を試みる敵に石を投げ、弓で追い払った。


 この日もまた午後になって激しい魔法の雨が降った。雨は敵陣の近くに広範囲に降り注いたが、その後に続く雷はもっと手前に落ち、その下にいたのはほぼ味方の兵だった。

 雷鳴と閃光に悲鳴が上がる中、突如現れた竜巻が雷光を巻き込みながら天へと渦巻き、数人を巻き上げた。地面に落ちた人は尻は打ったが無事だった。竜巻は威力を増しながら敵の方へと遠ざかったかと思うと、巻き込んでいた雷光を一気に落とし込んだ。敵は威力を増した雷の魔法に倒れ、無事だったものは我先に後退し、その日の戦は終わった。

 雷の魔法の発動をしくじったルーチョは、自分の失敗に腰を抜かしながら

「は、はは、た、助かった…」

とつぶやいた。

 ダニロはその竜巻に見覚えがあった。すぐに魔法騎士団第二隊長に報告に行くと、隊長リヴィオもまたそれが誰の魔法なのか見抜いていた。

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