第11話 3P

「ダメだよ静さん!?」

「いいのよ。本当の事だし……。あんなに必死に庇ってくれて、私だけ黙っているわけにはいかないじゃない……」


 そう言うと、静は全てを語り出した。


 文字通りの全てを。


 アゲハに対する秘めた想い、そこから生まれた歪んだ行動、昇太への嫉妬と性行為の強要、この瞬間に至るまでのなにもかもを赤裸々に。


 アゲハは黙って聞いてた。


 昇太も黙って聞いていた。


 本当は耳を塞いで逃げ出したかった。


 それくらい痛々しい話だった。


 共感性羞恥の嵐である。


 だが、それが許される状況ではない。


 フリチンのまま、アゲハの顔色を伺うのみである。


 ムスッとした表情からは、アゲハの心理は伺えない。


 怒っているのか、幻滅しているのか、気持ち悪がっているのか。


 あるいはその全てか。


 客観的に聞いていても悪いのはやっぱり静なのだが、それでも昇太は同情せずにはいられなかった。


「――だから、悪いのは全部私なの! 昇太君は脅されて無理やり従わされてただけで、なに一つ悪い所はないの!? こんな事を言えた義理じゃないのは分かっているけど……。お願いアゲハちゃん!? どうか、昇太君だけは許してあげて!?」


 長い話を静はそう締めくくった。


「それは違うよ!?」


 昇太が慌てて割って入る。


「確かに静さんには脅されたけど、正直僕はイヤじゃなかったから……。無理やりっていうのは違うと思う! アゲハさんに相談する事だって出来たわけだし……。悪いのは僕も一緒だよ!? だから、静さんだけを責めないであげて!」

「なに言ってるのよ!? 昇太君は悪くないでしょ!?」

「そんな事ないよ! 僕だって静さんとエッチ出来てラッキーだって思ってたもん! アゲハさんを裏切ったって意味じゃ同罪だよ!」

「どうしてそんな事言うのよ……」


 黙っていればいいのに。


 そんな顔で静が見つめる。


「バレたら一緒に地獄行き、でしょ?」


 苦い笑みで昇太が答える。


 昇太が庇おうをしたから、静も全てを曝け出し罪を被ろうとしたのだ。


 そんな姿を見せられたら、猶更昇太も黙ってはいられない。


 そうでなくとも、アゲハに内緒で二人でエッチしたのだ。


 アゲハの気持ちを考えれば、自分だって裁かれるべきである。


 そんな二人を見て、アゲハはうんざりした様子で溜息を吐く。


「てかさ。二人とも、なんであ~しが怒ってるか分かってないっしょ?」


 そう言われて、昇太は静と顔を見合わせた。


「……アゲハちゃんに内緒で昇太君とセックスしたからでしょう?」


 昇太もコクコクと頷く。


「別にあ~し、静が昇太君とエッチした事には怒ってないし」

「えぇ!?」

「そ、そうなの!?」


 二人で驚く。


「ほら勘違いしてる! そんな事で怒ると思われて隠されてた事にピキってんの!」

「そんな事って……」

「普通は怒る所なんじゃないかなぁ……」

「フツーとかあ~しには関係ないし。てか昇太君はエッ友で付き合ってるわけじゃないじゃん。静がエッチしたって別にいいっしょ」


 当然のようにアゲハは言うが。


「エッ友……」

「……もしかしてそれ、エッチする友達の略?」

「そだよ。あ~しの読んでるギャル系雑誌に載ってたし」


 そんな雑誌読むの止めなよ。


 こんな場面でなければ言いたい昇太である。


「……でも私、アゲハちゃんの事そう言う目で見てたのよ。昇太君とエッチしたのだって最初はそれが理由だったし……。それはいいの?」

「別によくない? てか、静があ~しの事好き好きなのは今更じゃん」

「そ、そうだけど……そういう意味の好きじゃなくて……」

「分かってるってば。あ~しとエッチしたいんでしょ? さっき聞いたし、てか前から気づいてたし」

「「気付いてたの!?」」


 二人で驚く。


「そりゃ気付くでしょ。隙あらばあ~しの事エッチな目で見たり盗撮したり飲み終わったペットボトル捨てる振りして回収したりしてるんだもん」

「イヤアアアアアアア!?」


 静が頭を抱えて崩れ落ちる。


「静さん! 気を確かに!」

「いっそ殺して……」


 静は精神的ダメージでビクビクと痙攣している。


「もう! 静は一々大袈裟なんだってば! 気にしてないって言ってるっしょ!」

「ふぎぃ!?」


 アゲハに胸の先端を抓られて静がビクリと起き上がる。


「で、でもアゲハちゃん……。自分で言うのもなんだけど、親友の事性的な目で見て盗撮したり飲み終わったペットボトル舐めたりするなんて、いくら何でもキモすぎじゃない?」

「まぁ、コソコソやるのはどうかと思うけど。好きな人の画像欲しいとか、チューしたいって思うのはフツーの事じゃない?」

「あ。そういう普通はいいんだ」


 昇太の呟きに、アゲハが揚げ足を取るなとばかりに睨んでくる。


 ごめんなさい、余計な事は言いません。


 そんな思いで昇太は口を塞ぎ、ブルブルと首を横に振った。


「……でも私、女の子なのよ?」

「だからなに」

「……女の子が女の子を好きになるなんて、変じゃない……」

「変じゃないし。ウチじゃ良くある事じゃん」

「……そうだけど。それは愛聖が特別だからで……」

「てかさ、変でもよくない? それが静なんだから。それこそフツーなんて知らねーって話。てかあ~しは気にしてないし。てか嫌だったらとっくに友達やめてるし。てか親友なのにあ~しがそんな事気にする奴だと思われてる事の方がショックだし!」


 徐々に語気を強めながら、アゲハが静の頬を両手で挟み、グリグリと押しつぶす。


「むぁ!? ご、ごめんなひゃい!?」

「本当だし! てか、昇太君とヤッたんなら教えろし! どんなだったか気になるじゃん!」

「むぁ、むぁあ!? しゃ、しゃいこうでひたああああ!?」

「あははは! だよねだよね! 昇太君のエッチ凄いよね! 初めては痛いって言うけどそんな事全然なかったし! むしろ気持ち良すぎて怖くなるくらいだったし! ――ってヤバッ!?」


 失言に気づいたのか、アゲハが慌てて口を押さえる。


「は、初めてって言うのはそう言う意味じゃなくて! そ、その、お、お尻の話ね!」

「お尻でヤッたの!?」

「ヤッてないよ!?」


 流石に聞き咎めて昇太がツッコむ。


「シーッ! シーッ!」


 と、アゲハは口元で人差し指を立て、必死に口裏を合わせるようアピールするが。


「もういいでしょ? アゲハさんと同じで、静さんもそんな事気にする人じゃないよ。っていうか静さんもアゲハさんが処女だった事はとっくに気付いてるから……」

「そうなの!?」


 ギョッとしてアゲハが静の顔色を伺う。


「……ぅん」


 静は申し訳なさそうに小さく頷いた。


「……い、いつから?」

「……割と最初から……」

「なんでし!?」

「なんでって言われても……。どう考えてもアゲハちゃんそんな子じゃないし……。明らかにおかしな事言ってる事も多かったし……」

「ギャー!?」


 今度はアゲハが悶絶する番だった。


「じゃあ静、ずっとあ~しが処女だって分かってて嘘武勇伝聞いてたわけ!? ハズイ! ハズ過ぎるんだけど!? お願い昇太君! 今すぐあ~しを殺してええええ!?」

「あはははは……」


 笑うしかない状況である。


「まぁ、似た者同士って事なんじゃない? アゲハさんも怒ってないみたいだし。良かったね、静さん」

「ぅん……よがっだよぉおお!」


 半泣きになって静が喜ぶ。


「だから静は大袈裟過ぎ! なにがあろうとあ~しらは親友! ズッ友ってやつなんだから。メソメソすんなし!」

「……私はアゲハちゃんと友達以上の関係になりたいんだけど……」


 人差し指を軽く咥え、ねだる様に静が視線を送る。


「じゃあ三人でエッチする?」

「なんでそうなるの!?」


 心の底から昇太が突っこむ。


「だって静、私とエッ友になりたいわけでしょ?」

「いや、そういう話じゃ――」

「なりたい! 私もアゲハちゃんのエッ友にして!」


 シュピッと静が右手を上げる。


 それでいいのか? と心底思うが、静がいいなら余計な事は言うまい。


「それなら二人ですればいいでしょ? むしろ僕はお邪魔な気が……」


 静としても、初めての百合エッチは二人っきりの方がいいはずだ。


 昇太なりの気遣いである。


「それはダメじゃん。昇太君と先に約束してたんだし」

「僕は気にしないよ」

「あ~しが気にすんの! 約束は守んなきゃ! 親しき中にも礼儀ありだよ!」

「それって礼儀かなぁ……」


 確かに約束は大事かもしれないが。


 真面目なんだか不真面目なんだかよく分からない子である。


「私も出来れば昇太君に一緒に居て欲しいのだけど……」

「えぇ……」


 静は静で、助けを求めるような顔で昇太を見つめている。


「だってぇ!? 女の子とするなんて初めてなのよ!? しかも大好きなアゲハちゃんとなんて! 緊張して上手くできる自信ないわよ! 一人じゃ心細いじゃない!?」

「だからって三人でするのは違うじゃないかと……」

「昇太君ならどうすればアゲハちゃんが気持ちよくなるか分かるでしょう?」

「そりゃ分かるけど……」

「静もいいって言ってるんだし良くない? ギャル系雑誌にも仲直りにはエッチが一番って書いてたし!」

「いや本当、その雑誌読むのやめた方がいいよ」

「やだし! あ~しの心のバイブルだし! てか、楽しい事はみんなでやった方が楽しいじゃん? 静と昇太君の話出来るようになったら絶対楽しいし!」

「さっきから良い子ぶっているけど、昇太君だって本音は三人でしたいんでしょう?」

「そ、そんな事……」

「ないとは言わせないし?」


 二人が昇太の相棒に視線を向ける。


 先程から相棒は期待に膨らみ、興奮した犬の尻尾みたいにブンブン荒ぶっている。


 昇太の手綱なんかとっくに外れて制御不能の状態である。


「……そりゃ、二人が良いなら僕は大歓迎だけど……」


 こんな美少女が二人で相手をしてくれると言っているのだ。


 道徳やら倫理やらを無視すれば、断る理由なんか一つもない。


「じゃあ決まりじゃん!」

「うふふ。なんだか二人でするよりドキドキしてきちゃったわ」


 そういうわけで三人でする事になった。


「……ヤバ。三人でするの気持ち良すぎっしょ……」

「えぇ……。二人でするより何倍も興奮するわ……」

「……なんか、エッチ漫画の主人公になった気分」


 こんな事しちゃっていいのかなぁ。


 そんな思いもないではないが。


 みんなハッピーだし別にいいかと思い直す。


 少しずつ、倫理観がガバり始めた昇太だった。

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