第23話 それぞれの生き方

 9度目の夏祭りはとても楽しかったですう。シビルとエイリークは花火を打ち上げるヒフキさんのお手伝いをして、とても良い経験が出来たと言ってましたあ。それからしばらく経って、今朝わたしの家に手紙が届きましたあ。


「あっ、お父さんからですう」


 わたしは手紙を開き、読んでみましたあ。


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 サクスムだ……グラスよ、今日はお前に残念なお知らせがある……。


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「えっ……残念なお知らせってえ……!?」


 確かにお父さんの字でしたが、いつもより弱々しい書き方でしたあ。


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 俺とリヴィエールは、突然現れた黒髪の氷のドラゴン族に勝負を挑まれ、戦ったが……俺も、リヴィエールも、負けた。


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「ええええ!?!?」


 英雄と呼ばれたわたしの両親に勝つドラゴン族がいたなんて……!


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 そのドラゴン族は突然俺と妻の家に突然押し入り、『ヘイル』と名乗っていた。歳はまだ16歳ぐらいと思われる。


 俺は奴に何しに来たと聞くと、あなた達と勝負したいと言った。久しぶりの決闘に心が踊り、受けて立ったが、奴は強かった。そのチカラを前に手も足も出ないまま俺は転倒し、尻尾の先端の二本の棘を顔に向けられた。


 俺の敗北を見た妻は激怒した。今度は私が相手よと。妻も奴を相手に善戦したが、奴は妻の智謀を遥かに超える動きを見せて、妻も完膚なきまで打ちのめされ、その尾を顔に向けられた。


 俺が勝てなかった妻がこんな形で負けるなんて、今までに無い、屈辱だった……!


 しかも奴は、勝利した相手から身体の一部を剥がして首飾りにするという、俺でもそんな事思いつかないぐらいとんでもないヤバい奴だった。


 俺と妻は、尻尾の鱗を一枚だけ剥がされ、それは首飾りの一部にされた……!それで奴は満足した様子で飛び去っていった。


 今でも身体中が痛くて、今でも妻と共に最寄りの診察所で治療を受けている所だ。グラスよ、気を付けろ。次はお前が狙われる身となるだろう。黒髪で、角が長く、紺色の翼と尻尾を持つドラゴン族には、十分気を付けろ、以上だ……。


―――――――――――――――――――――


 手紙を読み終えたわたしは、とても悲しくなりましたあ……!


「お父さん……お母さん……!」

「なんかこれまで以上にヤバい奴が現れたらしいな」

「そうみたいですねえ……お互い気をつけましょうねえ……」


 それから、わたし達はいつものようにアルブル村に出発して、仕事をしたりしましたあ。今朝の手紙の事を引きずり、気持ちが落ち込んでいましたが、周りの人達もわたしの事を気遣ってくれましたあ。


「それじゃあ、今日はこの辺で帰りましょう」

「ああ、早く夕飯食べたいぜ」


 仕事の時間が終わり、アルブル村からわたしの家に帰ろうとした時でした。



「お仕事お疲れ様でーす!!!」


 上空から威勢の良い女性の声が聞こえましたあ。


「え……!?」

「誰だ!?」


バサアッ!!!


 誰かが上から声をかけたと思ったら、突然降りそそいだ氷の結晶。すると、わたしとシビルの目の前に、一人のドラゴン族が姿を現しましたあ。


「探しましたよお、グラスセンパイっ♪」

「センパイって……あ、あなたがもしかして、ヘイルなのでしょうかあ……」

「あら、アタシの名前を知ってるの?随分知名度も上がってきてるようね」


 目の前に現れたドラゴン族。黒髪で、角が長く、紺色の翼と二本の棘が生えた尻尾を持っていて、瞳は青く、自信に満ちた表情をしていましたあ。しかもその首元には、鱗などを紐に通した首飾りをしていましたあ。


「今朝、お父さんから手紙が届いて、ヘイルというドラゴン族に負けたと書いてありましたが、本当にあなたなのでしょうかあ」

「そうよ。アタシは幼い頃から強いものに魅了されていた。強くなるための教育を沢山受けて、自分で考えた訓練もして、家を出る前に両親を打ち負かした時から、戦いの日々は始まった」


 ヘイルは、首飾りの一部を指差して言いましたあ。どうやら手紙に書いてあった通りに勝った相手の一部を首飾りにしているみたいですう。


「それからアタシは強そうな相手を狙っては、勝負を挑んで勝ち続けた。中にはギリギリの戦いもあったわね。特にサクスムとリヴィエール夫妻はね」

「ああ……!」


 ヘイルの首飾りには、確かにお父さんとお母さんの鱗もありましたあ……さらに!


「あれ……あの緑の羽は……!」

「これ?そうね、あのバード族、確かヴェーチェルとか言ってたわね。もちろん今までの相手は全て、了承の上で戦ったわ。他種族仕合もなかなか楽しかったわね♪」

「…………ッ……ですう……!」


 わたしは、生まれて初めて、これ以上無い程の怒りの感情をあらわにしましたあ……!!!


「おいグラス、こんな奴に付き合う理由なんか無え!さっさといこうぜ……」

「止めないでくださいシビル……これはわたしがやらなきゃいけない事なんですう……!」

「あら、本気でやりたそうな表情ね。これはきっと良い勝負が出来そうね」


 わたしは、意を決しましたあ。


「ヘイルと言いましたねえ……わたし、グラス・グラキエース、あなたに勝負を申し込みますう」

「それじゃあこの戦いに何を賭ける?」

「わたしが勝ったら、もうこんな事はやめてみんなのために役に立つ事をして欲しいですう」

「じゃあアタシはもちろん、あなたのその尻尾の鱗一枚を勝ったら戴くわよ」

「では、始めましょう……シビル、見届けて下さいねえ……!」

「ああ、分かった……じゃあっ、始めっ!!!」


ゴオッ!!!


 わたしとヘイルは、本気の決闘を始めましたあ。始まって数秒で、ヘイルの動きを見て思いましたあ。


「この子、攻撃全てが的確過ぎますう……!」


 一方のヘイルも、わたしの動きを分析しながら戦っていますう。


「動きを見てれば分かる、この子、決闘経験はほとんど無いみたいね」


 ヘイルの繰り出す一挙手一投足に、わたしは少しずつ追い込まれていくのを感じましたあ。それでもわたしは諦めるわけにはいかないのですう!両親と、ヴェーチェルさんの雪辱を果たすためにも……!しかしわたしも向こうも氷属性のドラゴン。氷の魔力はほぼ効かないのでお互い純粋な実力勝負なのですう。


 戦いが始まって数分、わたしにチャンスは巡ってきましたあ……!


「そこですう!やあっ!!!」


バシイッ!!!


 わたしはヘイルを転ばせましたあ。あとは顔に尻尾を向ければ……!?


「あら、こういうのも経験済みですからね!!!」


ゲシッ!!!


 ヘイルの足が、わたしの尻尾を蹴り飛ばし……


「あっ……!」


ドサッ!


わたしはそのまま転びましたあ……そして!


シャキッ!


わたしの顔の前に、棘が二本も生えた尻尾が向けられましたあ……!


「はいっ、アタシの勝ち。なんか、とっても楽しかったわよ、センパイ♪」

「あ…あああ……ですう……!」

「それじゃ、勝利したアタシは宣言通りに……!」


 ヘイルは、わたしの尻尾の鱗をつまみ……!


ピッ!


 鱗を一枚剥がしましたあ。大した痛みじゃ無いけれど、一番痛かったのは心ですう……!その様子を見かねたシビルはヘイルに突っかかり!


「くそっ……ヘイルとか言ったな!俺とも勝負しろよ!」

「あら、威勢の良い子ね。でも残念、アタシは人間とは戦わない主義なの。だって剥がせるものが無いじゃないの」

「……ッ!」

「さーて、今度は誰に勝負を挑もうかしらね!アタシはやるわよ!最強のドラゴンになるためなら!!!」


バサアッバサアッ……!!!


 ヘイルは飛んでいってしまいましたあ……。


「……わたし……悔しい……悔しいですう……!」

「ああ……俺もだよ……!」


 この日、わたしとシビルは、急遽エイリークの家に泊まる事にしましたあ。


「はあ……なんだか情けない話ですう……お父さんとお母さん、それからヴェーチェルさんにはなんて申せばいいのかあ……」

「あのグラスがこうまでなるなんて、大変だったな」

「エイリーク、今はそっとしておいてくれ」

「分かった、じゃあシビル、あっちの方で話そうぜ」


 わたしはベッドの上からシビルとエイリークが部屋から出て行くのを見ると、そのまま眠りましたあ。


「初めての冒険、この山にしようと思うんだ」

「これは……確かに良い山だな」

「高すぎず低すぎずのちょうどいい感じだが、事前に練習のため小高い丘も登っていく。シビルも付き合ってくれるか?」

「分かった。俺はずっとグラスのいる山で育ったからそれなりに自信はあるが、自力で山を登ったり降りたりはしてないからな」


 その話は、寝ているわたしにも聞こえていましたあ。二人の初めての冒険、上手くいくと嬉しいですう。今日の敗北をこのまま引っ張るのは良くない事だから、これから気持ちを切り替えて、また誰かを支えていくために頑張っていきますう!


 しかし、あのヘイルという子、あれが本当にやりたかった事だったのでしょうかあ……戦いの日々、それだけが望みなのでしょうかあ……!


 第24話へ続く。

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