第42話 USBの使い道

ウソクは私の部屋の引き出しの中を見ていた。


返す言葉を見失った。



「だけど、もう2度と会えないね。残念だね。」



何故かウソクが可哀想に思えた。

優しく抱きしめて背中をさすってあげた。


「ウソクくん。辛く無い?ずっとそうやってヤキモチやいてさ。私はウソクくんだけだよ。心配しなくて良いから。不安にさせたなら私が悪かったね。ごめんね。」


「アミちゃん…。」


「あの人達に会えなくて平気だよ?だから、安心して。」


「僕の所から居なくならないで…」


そう言うとウソクは私を強く抱きしめた。


「大丈夫だよ。私はウソクくんとずっと一緒だよ。」


「アミちゃん…部屋来て。」



ウソクの歪んでしまった愛を全身に浴びながら

生きる道はこれなんだと、自分に言い聞かせた。

縁があれば最初から上手く行っている。

縁が無かっただけ。

また元の2人に戻っただけの話し。


ウソクと生きていくために

手に入れなければならない物がある。

あれが手に入れば私は穏やかに生きていける。


――――――――――――――――

手に入れたい物。

それはウソクが居る時には手に入れられない。

決まって火曜日はウソクのシフトが16時からで、一緒に居ない時間が出来る。

火曜日しかなかった。

とは言っても私も17時からバイトがある。

時間は掛けられない。


撮影が終わって最初の火曜日に実行する事にした。



サークル部屋に入ると数人の部員がいて2台あるPCが塞がっていた。

絶好のタイミングだった。



「あ、お疲れ様です。」


「お疲れ様。スタジオの方のPC使うね。」


「あ、すみません。」


「良いの良いの。ちょっと確認したいだけだから。」



スタジオに入り扉を閉めた。

後輩はわざわざ先輩のところに来たりはしない。



PCの電源を入れた。


カバンから1TBのUSBを取り出してPCに差した。


ドキドキして冷や汗もかいている。

私はソウル体育大学バスケ部を撮影した

全てのデータをUSBに移し始めた。


性能の良いUSBだから移動速度は速いが、こんな時は遅く感じるものだ。


(早く!早く!)




「アミ?何してるの?」


「ひぃっっ!」



ハナだった。



「ハ、ハナ…」


「そんな顔してどうしたの?何してるの?」


「いや、これは、その。お願い!見逃して!ウソクくんには言わないで!内緒にしてて!誰にも言わないで!お願い!」


PCの画面に釘付けになりながらハナは口を開いた。


「アミが1人でサークル部屋に入って行くからどうしたんだろうって思って来てみたの。このデータどうするの?」


「ただ持っていたいだけなの。これは私の心の栄養なの。これがあれば生きていける。」


「どうゆう事?」


「私、ユンくんが好きだった。気持ちは変わってなんか無かった。だけどウソクくんも好きなの。捨てられない。だからウソクくんと生きていく為にこれが要るの!」


「もう少し分かりやすく話して。」


「新しいユンくんを知れて嬉しかった。まだ好きだったって再確認して辛かったけど、ウソクくんと一緒に生きていくって決めてるから。辛い時とかに時々これを見返す事が出来たらまた前を向いて生きて行けそうな気がするの。私の心の栄養として持っていたいだけなの。」


「それで良いの?」


「私ウソクくんもちゃんと好きだよ。あんなに愛してくれる人は彼しか居ないと思う。ユンくん彼女と長続きしないんだって。きっと私ともそうだよ…。」


その時、データのコピーが終わった。


PCからUSBを抜きキャップを付け、ハナに見せた。


「私の宝物で栄養剤。」


「1TBのUSBなんて初めて見たわよ。」


「どれくらいの量になるか分からなかったんだもん。一つのUSBに収めたかったんだよね。」


「ったくう。」


そう言うと、ハナが抱きしめてくれた。


「お疲れ様。編集辛いと思うけど頑張ろうね。」


「ハナ…」


ユンへの涙は今日限りにしよう。


そう思いながらハナに抱きつき泣いた。


――――――――――――――――

翌日、私たち4人はデータを見返す所から始まり構成などの案を出し合った。

構成が何となく決まった所で冬休みになった。


ウソクとハミンはまた田舎へ帰る。

帰って来るのは年が明けて一週間ほどしてから。

クリスマス前に帰ってしまうのでクリスマスは一緒に過ごした事がない。

離れている間にプレゼントを買い帰って来てから渡すのが恒例になっている。


今年のクリスマスは何にしようか。

以前から欲しがっていたブーツにした。

ウソクが、高過ぎると買うのを諦めていた物で懺悔の気持ちもありプレゼントする事にした。

人生で1番高い買い物を更新した。



私は冬休みの間部屋に閉じ籠り、バスケ部の動画の編集をずっとしていた。

毎日毎日一日中どこにも行かずに編集をした。

納品用ではなく、個人で楽しむ為の物だった。

冬休みの間、私は幸せだった。


このUSBをどこに隠そうか。

ボールペンはクローゼットの奥にしまった。


部屋をあれこれ見て周り、小さい頃に貰ったオルゴールの中敷の下に入れる事にした。


私の一生の宝物。

心が少しだけ強くなった気がした。

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