第38話 対峙

わずか50センチの距離で

ユンと私はしばらく見つめ合った。


頭の中は真っ白。

今日の行動プランが崩壊した。


ウソクの反応が怖くなって目を逸らした。


(どうしよう。どう誤魔化そう…)




「も、もしかしてアミちゃん?」


静寂を破りキャプテンが声を掛けてくれた。


「は、はい(笑)…ご無沙汰してます。」


「わぁ!マジで!?アミちゃん!久しぶりじゃーん!」


シオンが手を挙げたのを見て私も手を出しハイタッチをした。



「なんか、あれだね、彼氏の前で言っちゃいけないんだろうけど、めっちゃ可愛くなったねぇ。」


「??か、かれし?」


「え?こちらのウソクくん彼氏でしょ?」


「へ?」


勢いよくウソクを見ると嬉しそうに笑っていた。


「なに?そんな話ししたの?」


「うん。顔合わせの時にね。今日来てないメンバーは僕の自慢の彼女です!って。」


真っ直ぐな純粋な笑顔に、言葉を返せなかった。


「こちらのキャプテンとお知り合いだったの?」


「そ、えっ、と、」


ウソクとシオンの顔を何度も往復して言葉を選んでいると


「高校の時の、ね?後輩で…アミちゃんバスケ部、あ、いや、マネージャーと仲良くてね?」


と、何かを察したシオンが誤魔化してくれた。


「そ、そうなんですよねぇ? キャプテン、そのマネージャーさんと付き合ってたんだよ。」


「へー。」


「まだ付き合ってるよ。」


「ホントですか!?」


「う、うん。」


「マネージャーさん、会いたいなぁ。」


「あ、今度会おっか?言ったら喜ぶと思うよ。」


「えぇ!?嬉しいですぅ。よろしくお伝えください。」


「僕も一緒に良いですか?」


ウソクが横から声をかけた。


「もちろん。言っとくよ。」


ユンの視線に気付いてはいたが顔は見れなかった。



「あ、あの、撮影しなきゃですね(苦笑)」


「うん、よろしく頼むね。」


「はい。あのう、長机をお借りしたいんですけど、どこにありますか?」


「あ、いいよ。出すから。いくつ要る?」


「2台お願いします。」


「おーい!1年!長机2台出してくれ!」


「はい!」


シオンが声をかけると1年生が数人で長机を出してくれた。


「では、準備しますね。」


――――――――――――――――

「さて、やりますか。」


ハナと2人でコートを脱ぐと、お互いの姿を見て


「ダッサ!」

「ダッセ!」


と言い合って笑った。


カッターやさまざまな小道具の入ったウエストポーチに養生テープを通して腰に巻いた。


4人は役割分担が決まっているので黙々とセッティングをしていく。


素早く準備を済ませ選手達を見ると、動きを止めてこちら見ていた。


「すげぇな。」

とシオンに言われて嬉しかった。


――――――――――――――――

「大型カメラは20分交代でいいよね?」


「男子組で最初やるよ。」


「うんうん。」


「じゃあ、アミ一眼やって私小型行く。」


「了解。」


・ 

一眼レフカメラに大きなレンズをつけているとシオンに声をかけられた。


「そんなカメラ使えるんだ?」


声の方を見ると、すぐ横にユンも居て目が合ってしまった。


「もちろん使えますよ(笑)あの大型も後で私も撮影しますよ。」


と指を刺しながら答えた。



「写真撮りましょ。2人並んでください。ソウル西校の歴代キャプテン。」



そう言って微笑んで見せたが、私の笑顔はぎこちない物だったに違いない。


「はい。撮りまーす。」


そう言うと、シオンはユンの肩に腕を回しニコリと笑うとピースサインをした。

ユンは笑ってくれなかった。


(雰囲気変わっちゃったね…)


ユンの冷たい目が苦しかった。


撮った写真を確認して、2人に見せた。


「へー。キレイに撮れてる。」


ユンは声も聞かせてはくれなかった。


――――――――――――――――

カメラを構えて写真を撮っていると、ユンは何回かこちらを見ていて、カメラ目線の写真が撮れていた。

写真を確認しながら


(最後まで会話をしないかもしれないな。)


と思った。

胸が苦しくなって寂しかった。

だからといって、ウソクの前で話せる話しは何一つ無いのだけれど…。


――――――――――――――――

撮影は、大学が違うとかお金を頂けるなどという事は一切影響する事無く順調に進んだ。

自分の大学の生徒を撮るのと変わりは無かった。


20時半になり、シオンが私たち4人を集めた。


「いつもなら21時で終わって片付けるんだけど、そろそろ終わろうと思ってるんだ。」


「あ、じゃあ、私たち撤収しますね。」


「あ、でさ、これから飲みに行かない?仲良くなっておいた方が良いかなって思ってさ。」


「まぁ、そうですね。その方が良い物は作れたりします。」


とウソクが答えた。


「じゃあ、行く?」


4人で顔を見合わせた。


「私は良いよ。」


とハナが答えるとハミンも


「行こうよ。」


と答えた。


「うん、行こうか。 あの、行きます。どうしますか?」


「藝大って二駅隣だっけ?良いとこある?」


「一応、よく行くところはありますよ。駅からちょっとだけ歩きますけど。」


「良いよ。そこ教えて。」


「わかりました。僕たち機材を持ち帰って片付けてからになりますが良いですか?」


「俺達もシャワー浴びたりあるから、1時間後に駅はどう?」


「わかりました。1時間後に駅で。」


――――――――――――――――

「アミ、更衣室行こう。」


「うん。」


「アミちゃんそのまま行けば良いのに。充分可愛いんだから。」


「あなた正気!?冗談でもそういうこと言うのやめなさいよね。」


耳を疑う事を言われて代わりにハナが怒ってくれた。


「冗談に決まってんじゃん。」


「冗談に聞こえないのよ!」


――――――――――――――――

もしかしたら、ユンは来ないかもしれない。

そう思ったけど体大の5人全員が来た。


向かい合ってみると、ユンはだいぶん背が伸びて身体も一回り大きくなっていた事に気付いた。

やっぱりカッコよくて、ときめきそうになった。



9人でお店に向かう道すがら、ウソクは手を繋いできた。

私には拒否権がない。

見られ無い様に上手くコートに隠して歩いた。


・ 


「生ビールのやつ!」


シオンが聞くと私と1年2年の選手以外の全員が手を挙げた。


「じゃ、生6つとー。お前らは?」


「僕コーラで」


「僕はウーロン茶が良いです。」


「アミちゃんは?」


「あ、じゃ、カシスオレンジ…」


そう言った瞬間、ユンが鼻で笑った様な気がして気になった。


全員お腹が空いているので、一通り食べる物も注文した。




「みんな着替えて来たんだね?」


シオンが少し驚いた顔で言った。


「さっきの私たちが着替えてたんですよ(笑)」


「んん?」


「さっきのは私たちの作業着です(笑)」


「あぁ、そっか!(笑)そうだよね?ダサって思ったもん(笑)」


「私たちも、ハナとダサ!って言い合いますよ(笑)」



「飲み物お待たせしましたー!」



「ありがとうございまーす。」




「さ、じゃあみんなグラス持った?はい、これからよろしくねー!かんぱーい!」


「かんぱーい!」


ユンと一緒にお酒を飲む日が来るなんて…。

不思議な感覚になった。


全員グラスに口を付け、置いたタイミングで

ウソクが無表情に口を開いた…。




「あのう。ちょっと気になってたんだけど…」


「ソン・ユンくん。」


表情を変えずにウソクを見た。



「僕の彼女の事、知ってるみたいだったけど知り合い?」



下手に口出しは出来ない。

シオンとハナと私は固唾を呑んだ。 



「高校の同級生だよ。」


「同じ高校だったんだ?」


「うん。」


「あの感じだと…、仲良かったの?」



(お願い!お願い!やめて!どんな答えても合わせるから!お願い!)






「仲良かったよ。高校の時、1番仲が良かった人だよ。」


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