第36話 神様のいたずら

 ウソクと付き合い始めてから


 



――2年が経った。





付き合った次の日に、やりたかったことの一つ、ピアスを開けた。

「僕はやんないから!」

と、ウソクは怖がったので、私だけ。

おしゃれの幅が広がって開けて良かったと思っている。



ピアスを開けた日、その足でペアリングを買いに行った。

ウソクはどちらかと言うとシルバーが合うのだけど

「アクセサリーは女の子の物だよ。」

と言ってゴールドにしてくれた。


「無い!」「置いて来ちゃった!」の、何回もの『無くしちゃったかも?騒動』を乗り越え、2人の左手薬指に収まっている。

今は無いとソワソワする位、体の一部になった。




付き合って1週間で私たちは結ばれた。

今思い出すと笑っちゃう位に緊張しまくりの、可愛い初体験だった。

今では、どちらからともなく〝したい〟時に誘って、愉しめる程になっている。




ヒョヌ教授のサークルは私達の代より下の2年、1年で部員が増えた。

ヒョヌ教授は私たち4人を

「君達には未来が見える。」

と、言って特別扱いしてくれる。


学校PRの動画を4人で作成するチャンスをくれて、出来上がった動画は学校から認められ、オープンキャンパスで放映されている。

それ以来、大学の部活やサークルの紹介動画の作成などを行っていて、どの団体からも好評を頂いている。

お陰でサークルの知名度が格段に上がった。


そのせいなのか何なのか、ウソクと私は文化祭のコンテストで

「ベストカップル賞」なるものを2年連続で貰ってしまった…。

広報誌に写真とインタビューが載っていてウソクはファイルに入れて持ち歩いている。

私は恥ずかしいので持ち歩いたりはしない。



髪を切って明るい色にした時、ジアン達4人は

「大学デビューだ!」「色気づきやがって!」と慣れない髪型をからかったけど

今では、さすがに長さや色は変えるが【明るいショートボブ】が私の定番スタイルになっている。


この高校の4人の女友達とは定期的に会っていて、彼氏を紹介してもらったりしている。

この4人の“ウソク好感度”はかなり高い。


が、しかし…


この完璧に見える彼氏に、一つだけ困った所がある。

それは…



嫉妬深いところ。



最初は“愛されている証”として嬉しかったけど、2年も経つと…。

全く心当たりのない事でいきなり怒り出すので疲れてしまう事が多々あった…。


初めてケンカした時、

高校の時の好きな人を忘れられない事に対して、何も言わなかったのに。

と言ったら


「殺しに行きたいくらい、ムカついてたに決まってるでしょ。」


と言われて、過去の話は絶対にしちゃいけないと思った。


―――――――――――――――― 

12月初旬



私達は今、大のお気に入りのレトロな喫茶店『喫茶・アポロ』でモーニングを食べている。

1時間目の授業を取っていない週2回、この喫茶店でゆっくりとした時間を過ごしてから学校に行くのが決まりになっている。


好きな飲み物を頼むと、厚切りのトースト1枚に小鉢のサラダ、スクランブルエッグ又は目玉焼きにカリカリベーコンが1枚付いてくる。

2時間ほど滞在するのがだいたいのお決まり。

飲み物はおかわりする様にしている。



「今日ヒョヌ先生の呼び出しなんだろね。」


「わざわざ呼び出すの珍しいもんね。」



この日ヒョヌ教授に呼ばれていて、全授業が終わってから4人はサークル部屋に集まった。




「君達に、外部からの仕事の依頼だ。上手く行けば金になる。」


「え!?」


「君達の技術がお金になるチャンスだ。やるかやらないかを聞く前にやると決めて来たら。頑張りなさい。」


「えぇ?やれるかどうか分からないじゃないですか!?」


と言う私に続けてハミンが続いた。


「とりあえず何をするんですか?教えて下さい。」


「君達が普段作っているPR動画だよ。ある大学の部活のPR動画なんだが、大学からの公式依頼で制作費が出る。その大学の理事と古くからの友人でな。」


「アメリカの体育系大学が交換留学を安易にするために姉妹校を作ろうとしているらしい、その姉妹校に選んで貰う為のPR動画である。そのため責任重大だ。」


「納期も決まっていて、向こうさんにOKを貰うまで編集をし続ける事になる。一度引き受けたらやり切るしか道はない。やっぱり出来ませんでしたは通用しない。やらないか、やり切るかのどちらかだ。」


「機材費用は要らないのだから制作費は丸々君達の物だ。山分けするでもよし、話し合って何か買うでもパーっと使うでもよし。どうする?」



4人は顔を見合わせた。


答えは決まっている。


ウソクが代表して答えた。



「やります。」



「そうか、そうか。そう言うと思ったよ。」


ヒョヌ教授は手を揉みながら嬉しそうに笑った。


「で、今日17時から顔合わせがあるから行って来てくれ。」


「今日!?」


「今日は月曜日だから大丈夫だろ?確か月・水・金はバイトないだろう?」



私たち4人は撮影や編集を一緒にする為にバイトのシフトを合わせている。

教授もそれを把握していた。




「で、どこに行くんですか?」


「ソウル体育大学だ。」


(!!!!!!)


「ソウル体育大学のバスケ部に会ってきてくれ。」


(バス…ケ…部…?)


「撮影をするのは学年代表の選手5人が中心になる。今日の顔合わせは5人と監督と理事が来る。そこで撮影スケジュールを組んで来て欲しい。君達のバイトや、あちらさんの都合もあるだろうから。納期は1月末だから撮影にあまり時間は使わない方が良いな。」


「名前を教えておくから失礼の無い様に覚えって行きなさい。」


「友人である理事は“ミン・ハンギョル”、 監督“ユ・スヒョン”、4年キャプテン “イ・シオン”」


(ん??)


「4年、副キャプテン “キム・ジホ” 」



「3年 ソン・ユン …」




全身の力が抜けていく。

後の2人の名前が耳に入らなかった。

気が遠くなる。




――ガタンッ


「キャー!」

「アミちゃん!」




気が付くと倒れていた。



「アミちゃん大丈夫?頭打ってない?」


「うん、だい、じょぶ。」


「キム・アミ。どこか痛い所は無いか?」


ウソクと、教授が抱き抱えてソファーに運んでくれた。


「あの、ごめんなさい。顔合わせは3人で行って来て。」


「うん、わかったよ。アミちゃんどうする?」


「キム・アミは回復したら私が家まで送ろう。」


「宜しくお願いします。」


「君達はサークルの車を使って良いから。」


「分かりました。行ってきます。」



ウソクとハミンは1年の夏休みに自分の田舎でそれぞれ運転免許証を取得していた。

ヒョヌ教授が車を買い換える時に、それまで使っていた大きなワゴン車を、サークルの車として寄贈してくれた。

カメラや機材を運ぶのに重宝している。




ソファーに横になりながら恐怖に震えていた。

どうして今になって…。

何が怖いのか。

何が不安なのか。

答えを出してはいけない気がする。


――逃げたい。


この運命から逃げたい。




「先生…」


「もう、大丈夫か?帰れるか?」


「はい。ありがとうございます。あの…」


「うん。」


「今回、このチームから外して貰えませんか?」


「何を言っているのだ。怖気付いたのか?」


「………」


「私が監修でついているのに失敗はありえん。自分の名前が制作者として刻まれるのだよ?対価まで手に入れられる。君の目指している事だろう?」


「はい…。」


「君には1番期待しているのだ。1番信頼もしている。君らしく伸び伸びやりなさい。今の話は却下だ。」


「…分かりました……」


「じゃあ、帰ろう。」



教授の運転する車の後部座席で考えていた。


私は今、ウソクの事が心底好きだ。

今更ユンに会ったところで何だと言うのか。


ウソクに異性の友達を作る事を禁止されている。

撮影が終わればまた永遠に会わなくなる。

数日間撮影するだけ。

大丈夫。


大丈夫…。



(キャプテンのイ・シオンって高2の時のキャプテン…またキャプテンやってんだ。すごいな…。)

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