第19話 つかの間のデート

「はぁ、はぁ、はぁ、はや、い、(ごくん)早い、よ、はぁ」


「はぁ、はぁ、お前、が、遅え。」


呼吸を整えるのにしばらくかかった。

かなりの距離を走ってしまった。



「良いの? はぁ、こんな事、して…」


「怖かったら、戻ろう。俺が…アミと…居たいって思った…だけだから。」


「今なら…戻れるよ…」


「ううん…私も、ユンくんと…居たい。」


「じゃ、戻らなくてもいい?」


「うん。」


私の返事を聞いて、安心したように微笑んだ。



(あ…)


左手首を掴まれたままになっている事に気が付いて視線を落とした。

ユンもその事に気が付いた。


(気付いちゃったら、やっぱり離しちゃうよね…知ってる。)


一瞬寂しい気持ちになったが、ユンは予想外の行動をとった。



私の手のひらを手繰たぐり寄せると、握りしめた。



(え…。良いの?)



目で訴えニコリと笑うと、ユンも笑って応えてくれた。




「どこ行く?」


「まず、ここがどこなんだろうね?」


「地図見ないと分かんないや。」


「あそこ!地図あるよ。」


「かなり遊園地寄りだね。」


「ここ行く?」


・ 


――――――――――――――――

ユンが地図を指先した所は、お化け屋敷だった。



「怖くないの?」


「全然?作り物だし人間だから。」


「怖くていっぱい触っちゃうかも。抱きついたりしたらごめんね?」


「お前バカだろ?それ…嫌がる奴いねーから。」



――――――――――――――――

ユンの腕にしがみつき、ちょっとずつ進む。

恐怖度は、誰もがリタイヤぜずにゴール出来るレベルらしい。



「きゃー!何!?」


「まだ、何もないって(笑)アミの声が怖いからやめろっ。」




「きゃー!!!」

「うわあぁ!」


・ 

血まみれのすごい顔の女の人が後ろから走って来た。

次の部屋に逃げた。


「も、はぁ?怖かったぁ。(泣)」


「わ!!」


「なに!?え? 布が風で揺れただけだよ!」


「くっくっくっ」


ユンが情けなさそうに笑っている。


「何よ怖いんじゃん!」


「怖くねーしっ」



――――――――――――――――

何とかリタイヤぜずに出て来れた。

叫んだり爆笑したり忙しかった。

抱きつく事はなかったけど、なんでそうなったのか繋いでいた手が、

今は、いわゆる “恋人繋ぎ” になっている。



「はぁ。疲れた。あは、あはは。」


「喉乾いたぁ。」


「うん。喉乾いたね。」


「飲み物買いに行こ。」



――――――――――――――――

お土産屋さんの前の自動販売機で飲み物を買った。



「そうだ。何か、お揃いの物買わない?」


「あぁ…良いよ?」



中にはたくさんの物があって、選ぶのが大変だった。



「こうゆうとこって、どこで使うんだよって物が多いよな(笑)」


「カチューシャとかね。着けて帰ったら皆んなどんな顔するだろうね(笑)」


「着けて帰んなくても凄い顔してるよ。」


「確かに!」


「なぁ、これは?」



可愛いマンボウが乗っているボールペンだった。

マンボウが大き過ぎて、ふで箱には絶対に入らない。



「私のこと、本当にマンボウに似てると思ってるの?」


「うん。」


「ユンくんなんて、ホッキョクオオカミのくせに。」


「ほっきょくおおかみ?」


「真っ白なオオカミ知らない?」


「知らない。」


「良いよ?これ買う?」


「学校で使ってな?(笑)」


「持って行くの大変だからヤダ(笑)」



ボールペンを買って、水族館方面の出口から出ようとした時、海の生物と写真が撮れるプリクラがあった。

フレーム例の中にマンボウを見つけたユンが


「撮ろうぜ(笑)」


と言うので撮ることに、してあげた。



プリクラに備え付けてあるハサミで2つに分けた。

プリクラをカバンにしまって、どちらからともなく手を繋いで歩き出し、水族館エリアに入ったところで…



「お前たち何してんだ!?班も違うし活動エリアとは違うだろ!」


担任のナムシン先生に見つかって、楽しい時間は終わった。



――――――――――――――――

朝、集合したのと同じ駅前広場に着いて、生徒達が解散した後

「今日、お家に電話しておくから。明日の放課後、反省文を書きなさい。」

と、言われた。



憂鬱だった…。


私が怒られる事では無い。

明日、ユンは部活を休み反省文を書く。

もし、キャプテンになるための選考でこの事が引っ掛かるとしたら?

そんな事になったらユンの両親は?

申し訳ない気持ちでいっぱいになった。




「ごめんね」

「ごめんな」


「何でアミが謝るの?」


「ホントにごめん…」


申し訳なくて泣けて来た。


「もしかして…ホントは嫌だった?」


「ちがう。嬉しかったよ…。だから戻りたくなかったの。楽しくて…。ホントにごめんね。」


「俺も楽しかったから良いじゃん。明日反省文ごめんな。」



「とりあえず帰ろ。やっちゃった事はどうしようも無いんだからさ。」


とジアンが言うと

ソジンも続けた。


「そうだよ、早く帰ろうぜ。お前たちのイチャイチャなんか興味ねーのよ、こっちは。」



帰りのバスで、ジアンとソアが私の気持ちを余所よそに盛り上がっている。



「ユンくんとアミが脱走したって聞いて爆笑したからね、私(笑)」


「私は耳を疑ったよー。それからはもう、気になって気になって仕方なかったぁ(笑)」


「で?付き合うの?」


「え?」


「話し聞いてた?」


「何て?」


「だから、付き合うの?」


「何でそうなるの?そんな話にはなってないよ。」


「あぁ!焦ったい!もう、アミからでも良いじゃん!言っちゃいなよ。」


「まだ、いいよ。今、すごく楽しいもん。」


「はぁ、そうですか。ならいいですよ!」





最寄りの停留所から自分の家に着くまでの間、自分の言い訳よりもユンの事を考えていた。

どんな風に怒られるのか想像が付きそうで

ため息が出る。

それでも、ユンとの楽しい時間を思い返すと笑みがこぼれ、そんな自分にもやっぱり


ため息が出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る