第18話 遠足

 1学期の最大のイベント『遠足』

高2にもなってソコかよ。

と、文句を言う人が多かった……ソジンもその1人。

でも私は、密かに楽しみにしていた。


行く場所は遊園地と水族館を合わせた様な大きな娯楽施設で、主に水族館側が遠足の活動エリアだった。


遠足の密かな楽しみの1つは何と言っても、男子の私服!

学校は制服だから私服を見る機会がない。

私服で活動出来る遠足で、初めてセンスがわかる。

ソジンとデヒョンはバスケの大会で見ているから知っているけど、ユンの私服はまだ知らない。

会う時はいつもジャージかバスパンにTシャツで、部活中と全く変わらない。


ソジンとデヒョンは、それはそれはまあオシャレで、私服の方がカッコ良く見える位だったからユンへの期待値はかなり高い。




遠足で1つ残念な事があった。

ユンと同じ班になれなかった事。

クラス39名、6人と7人で6班を作った。

私たち6人は、ユンとソジンが同じ班でそれ以外は全員バラバラ。

休み時間など5人とばかり居るせいで、正直5人以外のクラスメイトの事をあまり知らなかった。

遠足までの短時間で仲良くなる必要があったが、ミンジュンの言う様に私は人見知りしないので難なくクリアした。


・ 


――――――――――――――――

電車に乗って行くため、駅に集合。

女子3人と一緒に駅に向かった。

駅までのバスに乗りながら話すことはただ一つ…


「ユンくんの私服楽しみすぎる!」


「それな!」


ソアがキラキラの目で答えた。



「毎日会ってて私服知らないんでしょ?」


「うん」


「実はダサいんじゃない?」


ジアンは時々嫌な事を言う。

ソジンとピッタリだと思う。



「そんな事があってたまるか!!」


「私は違う意味楽しみだよ!」


「くっそー!」



どうしてこんなに緊張しなくてはならないのか。

ジアンのせいでハードルが高い。



「あ!」


3人同時に声が出た。

学年1のイケメンが3人揃っていれば目立たない訳が無い。


「ね、私、目!ハートになってない?」


「あんたはいつも目がハートだからわからん!」


「え?そうなの??」




「おはよ」


ユンに声をかけられて慌てて顔を合わせた。


「お、おはよ」



(なんじゃこりゃー!!)



頭の中の私が大暴れしている。


超スリムの薄い色のダメージジーンズに、前後の長さが違ういびつな形の大きめの白のロングシャツを上手く着こなしていて、極め付きの黒のハイカットのスニーカーがオシャレ上級者を醸し出していた。


(白い肌の人が白シャツ着るとか反則だから(泣))


普段の姿が思い出せないくらいだった。

普段だって充分カッコいいのに…


ジアンとソアも驚きを隠せない様子。


(この3人はやっぱり異常だ…)



――――――――――――――――

私の班は1番騒がしい。

男子はひょうきんな子ばかりで面白かった。

驚く事に、女子2人よりも男子3人の方がソジン達に憧れを持っていて質問責めにあった。

男子バスケ部の部員はユン以外に3人いるが、その3人も班が違った為に私に聞くしか無い。


「あの3人ってどんな話ししてんの?」「通信ゲームとかしてるかな?」「してたらID交換出来るかな?」「どうやったら友達になれるかな?」


答えるのが難しい質問ばかりだった。

私達だって未だに仲良くなった理由がわからない。

上手くアドバイスが出来なかった。


――――――――――――――――


(ユンくんと一緒に行きたかったな。)


時々、ユンとソクジの班を見かける度にそう思った。

一緒の班の女子が羨ましかった。

顔がキラキラと嬉しそうにしているのを見ると尚更羨ましかった。

ため息が出そうなのを抑えた。



(あ!ユンくん!このまま行けばすれ違う!話しかけてくれたら良いのにな。)



「おー!マンボウ!」


「ん?」


「あ、違うわアミだ。」


「はぁ?何?」


「さっきマンボウ見てアミそっくりだったから間違えたわ。」



それ以上の事は言わず通り過ぎて行った。



「は?」


後ろ姿を睨む私に、同じ班の人達が矢継ぎ早に質問責めにした。


「ソンくんってそんな事言うの?」「もしかして怖い人では無いの?」「冗談言うタイプだったんだ?」「何でそんなに仲良いの?」

などなど…


歩きながら1つずつ答えた。



――――――――――――――――


この遠足の学習テーマは、

班ごとに決めた展示物をいかに計画的に時間内に見て回れるか。

計画性とチームワークが必要だった。

お昼休憩は12時から13時と決められている。


午前中は順調。しおりの前半部分は全部スタンプが押せた。


「もう、今からレストラン街に行かないと12時からの休憩に間に合わないと思うよ。1時は絶対に過ぎない様に出よう。」


しっかり者の女子がいて助かっている。

レストラン街に行く事にした。

大きい施設でレストランの種類もたくさんあった。


「ここにしよっか。」


「値段もいいね。」


「色んなのあるから選べて良いんじゃ無い?」


「じゃ、ここにしよ!」



店内に入ると、ソジンとユンの班も居た。

メニューを見ていてまだ注文は済んでいない様子だった。


男子3人に近づき聞いてみた。


「ソジンくん達と仲良くなりたいんでしょ?隣座らせて貰う?」


「えっ。大丈夫かな?」


「上手く行かなかったらごめんだけど。何とか仲良くなれるかやってみようか?」


「良いの?」


「聞いてみてあっちの班の人達が嫌そうならやめとこうね。」


「うんうん。無理に近づくのはやめよ。」


男子3人とコソコソと話しをしている私のことを、ユンが怪訝そうに見ている事には気付いていたが、ここは致し方ない。



「あのう。隣のテーブルに座っていい?一緒に食べない?」



ソジンとユン以外の5人は、自分の班の人の様子を伺って顔を見合わせた。

ソジンはその様子に気が付いているにも関わらず。


「あぁ、良いよ。テーブルくっつけようか。」


と、言ってくれた。


「ありがとう。みんなごめんね。」


と、私が言うと同じ班の人達も口々にお礼を言って席に着いた。



注文が済み、男子3人が期待を込めた目で私を見る。

何て大役を買って出てしまったのだろうか。

後悔しそうになった。


勇気を出して、隣に座るソジンに話しかけた。


「ソジンくんって今流行ってる通信ゲームやってるの?」


「あぁ、やってるよ。」


男子3人の顔が輝く。


「このみんな、やってんだって、上手いらしいよ。」


「そうなんだ。レベルなん?」


「あ、俺は、い、今、63。」


「えっ、やば。おれ41だわ。」


「こいつらも60台だよ」


「そうなんだ?武器交換とかレベル上げ一緒にやれる?」


「やれるよ!ID交換…する?」


「おー!しようぜ。LINE交換しといたらいっか。LINEで教えて。」


「うん!」


「あ、俺も良い?」


と、ソジンの班の男子も1人加わった。

男子5人があっという間に意気投合し、盛り上がった。


(こんなに上手く行くとは!にしても3人の嬉しそうな顔!良かった良かった。)



――――――――――――――――

会計を済ませ13人でレストランを出た。

班に分かれ、じゃあねと言い合い歩き出す。


数歩、歩いたところで

左の手首を掴まれ、驚き振り向いた。




ユンだった。




「え?何?どうしたの?」


「行こっ」


「どこにっ?」


「いいから行こっ」



ユンは私の手首を握ったまま走り出した。

私は抵抗する事なく一緒に走った。




「お前たちどこ行くんだよ!」


後ろの方でソジンが叫んでいる。




私達は無視して走り続けた。

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