第9話 高校バスケ・春の大会

待ち合わせの30分も前に駅に着いてしまった。

きっと、推しのコンサートを観に行く感じに似てるんじゃないのかな?

すごく緊張する。

ほんのちょっとお化粧もしちゃった。



「アミ!おはよう!」

「何ちゅう顔してんだ。」

ソアとジアンが同時に私に声をかけた。


「緊張するんだもん!」


「まぁ、そりゃそうよね。」


「差し入れは結局、何にしたの?」


「ゼリー飲料。クーラーボックスに保冷剤も沢山入れたからしばらく冷たいと思う。」


「アミてんさーい|!」

ソアはいつも何でも褒めてくれる。


「さ、行こうか。慌てて行くと汗かいちゃうよ。」

ジアンは私たちのお姉さんみたいで頼りになる。



バスケットボール春の大会、我が『ソウル西校』の男子初戦。

今日勝てると明日もあって、明日も勝つと来週に続く。




[絶対に三連覇するから、最後まで見に来て欲しい。]




そう言われて断る理由なんてない。


ジアンとソアに話したら、

ファンがいっぱい居るのに一人では危なくないのか?

という事で、付いてきてくれる事になった。



会場までは電車で10分、体育館まで少し歩く。


大きい通りに出た時、真正面に体育館右側面が見えた。


自然と視線が右へと動く。

体育館の玄関前には沢山のチームが、等間隔で人山を作っていた。



「わ!どうしよう!ユンくんどこだろう!?」


ジアンの背中に隠れた。


「う〜ん、…ここからぁ…見えるとこには…居な…そうだよ?」

ジアンが背伸びして玄関側の人山を、キョロキョロと見渡す。


「植木が、邪魔ぁ〜!渡ってあっちに行かないと分からないよ。」


「あ!あれ?」


ソアが体育館の裏の方を見て言った。


私もソアと同じ方を見ると西校バスケ部の監督の顔が見えた。

選手達は向こうを向いて腰を下ろしていて顔が見えない。


良かった。

ユンが私を見つける前に、見つけたかった。

居場所はわかった。

あとは近づくだけ。



信号を渡り、体育館前の人山をくぐり抜ける。




「あ。」


先を歩くジアンが足を止めた。


西校の女子がたくさん居た。




「え?ちょっと待って?バスケ部ってやっぱモテるんだね!」


ジアンが目を丸くして言う。


女子が持っているうちわや、応援グッズをよく見ると、ユンと違う名前も沢山あった。


「1年にもまたスターが居るかもだし、3年生も居るからねぇ。」


ソアが頷きながら言った。



でも、ユンの名前が圧倒的に多い。



バスケ部のファン達には私たち3人は異色だったのか、直ぐに気付かれざわざわした。

すると、ユンのうちわを持つ2年生の女子が2人駆け寄って来た。


恐怖で固まっていたら、ニコリと笑って

「キムさん、応援初めてだよね?」

と言った。



(あれ?雰囲気が優しい?)



「うん…初めて…」



「じゃあ、注意事項を教えておくね!体育館のコートはバッシュか上靴が無いと入れないから気をつけてね。選手達も観客席を待機場所に使うんだけど今日は南側の1番奥。通路と通路の間がひと区切りで、西校は2つ分使えるの。私たちも選手の後ろに座れるからね。」


「それから…」 もう一人の女子が続く

「今日私たちラッキーだよ!待機場所の直ぐ下のコートが西校の初戦でしかもベンチがこっち側だから移動しないで見られるんだよ!」



「わ!」

ジアンが声を上げた。


直ぐそばにユンが立っていた。


「あ!ユンくん!今、キムさんに色々教えてた所なの!」


「あぁ、ありがとう。」

ニコリと笑う。


初めて見る笑顔だった。

ファンサービスなのだろうか。

完璧な笑顔。

別世界の人に思えた。


周囲を見渡すとゾロゾロと体育館に人が吸い込まれていた。

一生懸命に説明を聞いていて移動が始まっていた事に気が付かなかった。


西校の選手とファンは少し距離を置いて、玄関に向かい移動を始めた。




「何持ってんの?」


「ゼリー飲料。今飲む?」


「何個もあるの?」


「ある!ある!」


「じゃ、1個ちょうだい。」


ユンは私からゼリー飲料を受け取ると、直ぐに飲み始め小走りで選手の群れに戻って行った。





「キムさん…本当に、付き合ってないの?」


「付き合って無いよ!」


2人は『俄かに信じがたい』という顔をしながら前を進み案内してくれた。



「じゃーあ!選手がここまで座るから!1列開けて、ここから3年選手のファンクラブね!3列位あったら良いかな?んで、その後ろ2年選手ね!」


(こんな人学校に居たんだ。初めて見る…)



「ねぇねぇ。いま、座席を仕切ってる3年生居るじゃん?」


「うん…」


「あの人、ユンくんのファンクラブを作った人なんだけどね…」


「え?3年生が作ったの?」


「そう。去年私たちが入学して直ぐにね。だから2年の時だね。あの人、1番怖い人だから何か言われたら「はいはい」言ってるのが無難だと思う。だから…座席は…」


「私たちは1番後ろに座っとくよ!」


言葉の途中で食い気味に伝えた。

ジアンとソアが私の言葉を聞いて、激しく頷く。

案内係の2人はホッとした様だった。



「室内用ボール早く出してください!」


2人の女子マネージャーが声をかけた。

選手達が次々にマネージャーに向かってボールを投げる。

マネージャーは受け取ったボールを、ボールカゴへどんどんと入れていく。



(なんだこれぇ。カッコいいぃ!)



「早く準備しろ!1年!外用のボール、忘れない様に持つんだぞー。」


「はい!」


(室内用、外用でボールが2つあるからみんな荷物デッカいんだ!なるほどね!)



キャプテンが声をかけると、選手達が一斉に準備を始めた。

それと同時に数人の女子が立ち上がり身支度をしている。


今から何が行われるのか、3人で様子を伺っていると、前に座る2人が振り返り教えてくれた。


「西校の試合は2試合目だから、試合がはじまるまでの間、外でウォーミングアップと練習があるの。みんなで見に行ったら邪魔だから彼女とか、いわゆる“選ばれし者”だけが練習を見に行けるんだぁ。」


「まぁ、暗黙のルールなんだけどね。だから私たちはここで待機ね。」


「あぁ、あの女子達は、選ばれし者ぉ。はぁん…。」

ジアンがつぶやいた。

初めて触れる世界に、3人はまだ順応出来なじめないでいた。


(へぇ…)

と、呑気に眺めていたら、準備を終えたユンが通路を2段飛ばしで近づいて来た。



「アミ、来て。」


「へ?」


「今から外練。来て。」


「う、うん。」




私は“選ばれし者”の仲間入りをした。

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