第5話 困惑

 昨晩、宿題をする時間が無かったという割に、数学と理科の2教科を見せただけで他の宿題はして来ていた。


宿題を見せるという名目が終わった後も、休憩時間になると、ユンは何かと私に話しかけた。

話が終わらないので、ソジン、デヒョンも仕方なく私たちの所に集まり、行き場の無いジアンとソアも加わった。

私たちは意外と話が合って、前からずっとそうしていたかの様に6人で過ごした。



この男子3人は幼稚園からの幼馴染だそうで、ずっと仲が良いらしい。

同じ高校を選ぶ位なんだから、相当仲が良いんだろう。

それぞれ、違うタイプのイケメンで3人ともが『顔が天才』と言われている。

そんな奇跡の3人はファンが多い。



《シム・ソジン》

誰が見ても男前だと思う程に、整った顔をしている。

塾に通う訳でも無いのに成績はいつも学年トップ。

運動も出来て優しい。

ファンよりリアコが多い印象。

静かに視線を送っている女子がたくさん居る。

初日に書いた自己紹介カードによるとお料理が趣味らしい。

噂では家はお金持ちだそうで、少女マンガから出て来た様な人だ。

欠点などあるのだろうか…。



《カン・デヒョン》

ハーフに間違われる程の、整ったキレイな顔をしている。

話し方は優しいが言動が不思議で『4次元イケメン』と呼ばれたりしている。

彼を好きな女子は世話を焼きたいのか、いつも行動を見守りフォローしようとしている。

表情がコロコロ変わるので見ている女子もそれにつられて表情が変わる。

だからファンは一目瞭然、すぐ分かる。

彼にもファンクラブがあるそうだ。

愛犬の話になると可愛い顔がもっと可愛くなる。

癒し系男子とはこの人の事だ。



《ソン・ユン》

キレイな白い肌とクールな目元で、少しクセのあるイケメン。

もしかしたら、好き嫌いがはっきりと別れてしまうかもしれない。

ファンは「一度ハマると抜け出せない」と言う。

ずっと幼い頃からバスケをしていたそうで、中学でバスケ部だった人はみんな彼を知っている。

この高校はバスケ部の強豪校で、推薦で入学したそうだ。

ソジンとデヒョンは、そんな彼に合わせて入学したらしい。

バスケ部の強豪校だから部員数が半端ない。

なのに、1年からスタメン。

先輩から何を言われても物怖じしない性格で、今となっては何も言われないらしい。

きっとプレーで黙らせたのだ。

一度プレーを見た事があるけど、確かにカッコ良かった。



正直に言うと、女子3人は戸惑っていた。

急にスクールカーストの上位に君臨する1軍の男子と常に一緒に居る事になるなんて。

最初は嬉しそうにしていたジアンとソアも、代わる代わる『噂の2人』を教室まで見に来る生徒の多さに引いている。


そんな居心地の悪さを感じているのを、知ってか知らずか3人のイケメン男子たちは私たちを楽しませてくれた。



(モテる男子は中身もイケメンなんだ。あ?だからモテるのか…?)




唯一、男子3人と離れるのはトイレだけ。

その機会を逃すまいとトイレには人が集まった。



大抵の質問は

「ユンくんと付き合ってるの?」

「いつから仲良いの?」

の、この2つ。


中には

「友達になろうよ!」

「LINEかインスタ交換しよう?」

と言って来る強者も居た。


「インスタしてないんだぁ。LINEもあんまり見ないから返せなくて…だから仲の良い人しか交換してないの…ごめんね(汗)」


今日1日、何回このセリフを言っただろうか…




〝 連絡先交換しよう。

って言ってくる奴が絶対にいるから全部断れよ。

後々面倒だから絶対に断った方が良い。

1人でも交換したら、私は?ってなるから全員断れよ 〟



ソジンのアドバイスが無かったら、私は何人の人と繋がっただろう。

みんなが一斉にLINEを送って来たら?

考えるだけでもゾッとする。



(急に私に近づいてくるなんて…みんな、私の奥に見えるユンくんが目当てなんだ…)



でも、嫌な事を言ってきたり嫌がらせをする人は居なかった。

それは単純にユンに嫌われたくないのだろう。

それほどまでに愛されているのか…

ユンって人は一体どんな人なんだ?



放課後、バレー部は部活が休みという事もあり女子3人でカフェに入った。

朝からずっと6人で居たかや女子だけの会話が出来ていない。




「とりあえず、何でこうなった?」

ジアンが口火を切る。


「始業式の日さ、シャーペンをユンくんに貸したんだ。次の日返ってきて、昨日気付いたんだけど…」


「うん」


「中の芯入れるとこに紙が入ってたの。出して見たらユンくんからの手紙でさ。」


「何て書いてあったの?」


「20時に学校前の公園で待ってる。って」


「え?え?なんで?ってあれ?返って来たのは貸した次の日なんだよね?」

状況が飲み込めないソアが目をキョロキョロさせて困惑している。


「私もさ、1週間経つし居るわけないって思ったんだけど行ってみたら居たのー!」


「マジか…、もしかして告白?」


「そんなんじゃない!LINE交換しただけ。」


「それだけ?学校でやれんじゃん。」


「私もそう言ったけど、女子と交換はしてないから、私と交換するとこ見られたらマズいって事みたい。」


「そうまでして交換したいなんてもう好きじゃん。」


「やめてよ!違ったらどうすんの。」


「いや、私もジアンと同じ意見だな。きっとアミの事好きなんだよ。じゃなきゃおかしくない!?だって、今日ずっと私たちと一緒に居たよね?」


「うーん、それは…急だし変だよね…。」


「やっぱりユンくんはアミが好きなんだよ。分かりやすっ!」


「そんな事言われたら期待しちゃうからやめて…。」


「え?もしかして好きなの?」


「うん…実はね…。明日また一緒に居られるかな…。」


「絶対に一緒に居よ!私ソジンくんタイプ!」


「え!?そうなの?ソアは?」


「私はデヒョンくんかな…。」


「って事はさ??」




この関係を絶対に壊しちゃだめだ!!

でも、ファン達をどうする?

決して1軍では無い私たちには、考える事が山積みだった。

喜びと不安で話は尽きず、カフェオレを2回お代わりしても答えは出ないまま

私たちは別れた。

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