時を超えて （完）

第3話 動き出す2人の時間

ベンチに座り会話の糸口を必死に探る。

どうしてこうなったんだっけ。

「あのさ」

「うん？」

「どうして手紙くれたの？」

「連絡先、交換しようと思って。」

「そんなの学校で出来るじゃん！」

「俺、そこそこ人気あるんだけど。知らねぇの？」

「はい、知ってます。自分で言えるのすごいね。」

「全部断ってるから。女子に連絡先交換しよ。って言われても、全部断ってんの。なのにさ、交換してんの見られたら…お前………」

アゴをグッと上げ横目で私を見下ろす。

「干されんぞ。」

「ひえっ…」

沢山のファンの顔が目に浮かんだ。

連絡先を交換する為にあの日から毎日ここで待っていてくれたのか…。

どうして？

きっとそっけない返事が返って来るだろう。

聞くのをやめた。

１週間という長さを考えると申し訳なくて有り難かった。

だけど、やっぱり何より…

嬉しい！！♡

【LINE】

私：よろしくね。

ユン：おん

学校の有名人と連絡先交換しちゃった！

ちょっと優越感☆

「レンタルビデオ屋行こうよ？キムのおすすめ教えろよ。面白くなかったらタダじゃ済まないけどな」

「ソンくんさ。いちいちそうゆう事言わなきゃダメなの？　ハードル上がるじゃん！」

「ユンで良いよ…。」

「え！？」

「名前で呼んでくれて良いよ。俺はお前の事、アミって呼ぶよ。」

少し顔が赤くなった？

自販機の明かりでは分からない。

「わかった…ユン…くん…。」

互いに顔が見られなかった。

「アミは、なんで来た？歩き？」

「ううん。自転車。」

私を後ろの荷台に乗せて、ユンが自転車を走らせる。

ユンの長い脚では漕ぎにくそうだ。

手の位置に困っていたら、いきなり私の手を掴んで自分のお腹側に引っ張った。

その反動で私の胸と右頬が、ユンの背中に勢いよくくっつく。

心臓が破裂するかと思った。

こんな事した事ないんだもん。

私の心臓の音が、ユンに伝わるんじゃ無いかと思うと余計にドキドキする。

ユンの腰やお腹には、無駄な物は何一つなく筋肉質で

（身体までかっこいいのかよ。）

と思った。

レンタルビデオ店に入り

思いつく限りのおすすめ映画を説明した。

ユンはその中から１本借りた。

「明日は部活休みだし、ここに来なくても良いから…観られるかな。」

「なんかごめんね…無駄な時間を過ごさせちゃって…20時から何時くらいまで待っててくれたの？」

「高校生が帰んなきゃいけない時間まで。」

「！！！！！」

毎日3時間もの間、あの場所で私を待っていてくれた事になる。

「今日まで待っていてくれてありがとう。会えた時すごく嬉しかった…。」

自転車を押すユンの横顔が赤くなった。

繁華街の明かりでそれがわかった。

「家まで送る。帰ろ。」

「うん…ありがと。」

・

・

ゆっくり歩いていたのに、家から1番近いコンビニが見えてきてしまった。

「あのさ、コンビニ寄っていい？スイーツ買いたいんだ。」

「今から食べんの？ヤバいだろ。」

「実はさっきからスマホが何回も鳴ってて…お母さんに謝らなきゃ…」

「なんだよ！早く言えよ！謝りに行くよ。」

「ううん！良いの。良いの。お母さんの好きそうなやつ買って帰ったらヘーキだから。」

「そんなんで大丈夫なの？」

「大丈夫だよ。母と娘なんてそんなもんだよ。」

お母さんに買いたいのも本当だけど、少し時間稼ぎがしたかった。

今夜のコンビニは、いつもよりも品揃えが良くて、どれにしようか迷う程で更に時間稼ぎが出来た。

お母さんのなんと無く好きそうな物を、２つ買う。

ユンはマンションに着くと、自転車を駐輪場の定位置に停めてくれた。

「じゃ、またな。」

「うん。ありがとっ。」

小声のやり取りが、さらに距離を縮めるようで嬉しい。

ユンは私が小さく手を振ると、軽く頷き颯爽と走って行った。

（さ、お母さんに何て言おうかな。）