第26話:事件は始まった

 ◇


 場面は戻り、青幻学園ダンジョン内部。


 チャイムの音と共に事務員の声が響いた。


『現在、原因不明の停電、また爆発による入口の崩落が起きています! 生徒の皆さんは、至急ステージのある大部屋に避難してください!』


 しかし、そのアナウンスを聞いた生徒達は安心するどころか、不安は高まっていった。


「おい! 崩落ってどういうことだよ!」

「地上に帰れない……? ダンジョンの中も安全だって聞いたから来たのに!」

「やっぱりこうなるんじゃないか! ここから出して!」


『入口は現在崩落しています! ダンジョン内の生徒は外に出ることはできません! 生徒の皆さんはステージに集合してください! 繰り返します――』


 再度行われるアナウンスにも、生徒達は恐慌状態のまま反論していた。


「ああクソ! ダンガーがあるんだからまずそんなに怖がらなくてもいいだろうに……まずはパニックを納めないことには何もできなさそうだな」


 今回のイベントは、日本の法律に則り、全員にダンジョンライフガード――ダンガーを貸し出している。


 学校側ではもともとかなりの数保有しているのもあるし、今回は青幻大学からの貸与たいよもあって必要数が集まっているのだ。

 探索者免許については一時的に保有していなくても通れるものとして特別な許可を得ているそうだ。


 つまるところ、この場に居る全員が安全の保証はされている。


「『安全』でも、『安心』ができないんだろう。もしかしたら、この先どうにもならない危険が待っているかもしれないしな」


 どこか複雑そうな顔で混乱する生徒たちを見ながら、零夜が言った。


「そうですね、難しいものです――では、ここからは計画通りに行きましょう」


 そう言って天音あまねは三人に向き直った。計画、というのは以前四人で集まって調べたときに決めたものだ。

 事件が起きたときは、生徒の混乱や魔物の出現などが予測される。天音と零夜はそれらの対処に回り、連理れんりと明里は地下に向かうという話だった。


「私は地下に行って元凶を討伐しにいきます。明里あかりさんも、ついてきてくださいね」

「……あっ、そういえばそういう話だったね」


 てへっ、と明里は笑った。


「何忘れてるんですか。ともかく、準備ができたら行きますよ――ここはお二人に任せました。暗いので多少残留する光魔術だけは置いておきますが、後は頼みます」

「おうよ。ま、俺は魔道具の扱いに慣れてるしここの問題もなんとかできるだろ。それに、零夜も魔道具は結構いけるみたいだしな」

「まあ、そこそこはできるが……」


 あまり自信なさげに零夜が言う。


「太陽の如き光彩よ、我が眼前の暗闇を照らし給え――《グロウ・ライト》」


 天音あまねが魔術の詠唱を終えると、その手の中に光の球体が生まれた。


 それを見た数人の生徒がこちらに気づき、振り返った。


「この魔術も数分で消えるはずです。これで大丈夫でしょうか……」


 光の球体に対して眩しそうに手をかざしながら、天音は不安そうにつぶやいた。


「そこまで心配しなくてもいいって。俺なら俺でなんとかするからよ」


 それに対し、連理が自信たっぷりにそう返す。


「――そうでしたね、あなたを信じます。それでは、健闘を祈っています」


 天音はふっと微笑むと、明里に『行きますよ』と声を掛けながらステージの部屋を出ていった。


「今の誰だ……?」

「なんだこの光の球? てかなんで出てったんだ?」


 天音のお陰で辺りには光が灯り、少し全体の混乱が収まったのは確かなのだが――四人の行動は、少し不自然に映るらしい。

 そこかしこから懐疑的な声が漏れていた。


 とはいえ、ステージ全体が照らされたことで、少し混乱が収まったのも事実だ。意味がなかったわけではない。

 だが、それにしても連理と零夜れいやの仕事は多そうだ。


「……はぁー、これでもダメなんだな。まあいいや。まずはこれでも使うか」

「そうだな」


 連理はメガホンを肩にげていたカバンから取り出した。しかしそのメガホンの声を当てるところには、緑色の宝石のようなものがついており、取手には紫色の水晶がついていた。

 これは、以前の会議にて用意したもので、機能は見た目通り拡声器だが――魔力で動く拡声器だ。


 つまり、今のような状況にはうってつけというわけだ。


 ◇


 一方、天音と明里は、地下に向かう途中であることに悩まされていた。


「どうしてっ――こんなに魔物が多いんですか!」


 それは、ダンジョンの中に異常なほど魔物が出現していたからだった。

 天音は、すばしっこいウサギ型の魔物の攻撃を避け、魔術銃まじゅつじゅうのノーマル射撃で仕留めながら悪態をいた。


「これも魔道具が止まったせいだろうね! スポーン抑制が効かなくなって、一気に溢れたってトコでしょ!」


 明里も叫びながら、飛んできたウサギを刃のついたグローブで殴り飛ばす。


 周りは案の定というべきか、混乱した生徒達が大勢居た。

 あちこち走り回ったり、あるいは腰が抜けて座り込んだり、ただただ狼狽ろうばいしたり。


「魔物だ! 逃げろ! 殺されるぞ!」

「安全なんじゃなかったのかよ!」


 二人でもある程度は処理ができるが――それでも限度というものがある。


「きゃー!」


 その間にも、一人の女子生徒が今度は雷をまとったコウモリのような魔物に襲われていた。

 しかし、そこに明里が飛び入り、ショットガンの引き金を引いた。


 散弾が光と共に散り、コウモリは撃ち落とされる。


「アナウンスは聞こえてたよね? 早くステージの方に逃げて――それじゃあ、気をつけてね」

「あ、ありがとうございます……!」


 立ち上がった女子生徒が頭を下げるのを見てから、明里は笑ってその場を立ち去った。

 それから、混乱の満ちる周囲を眺めて明里はつぶやいた。


「それにしても、これじゃあキリがない――」


 そう言いかけて明里は、視界の中に本来ここには居ないはずの魔物が見え、目を見開いた。

 生徒立ち入り禁止エリアの向こう側、遠くの通路から、それは優雅に顔をのぞかせていた。


 全体のシルエットはユニコーン。しかし、そのだいだい色の体は燃えたぎる炎に包まれていた。


 もっと下層――それもボス部屋に存在するはずの魔物が、なぜかここに居たのだ。

 その魔物は炎の球体による攻撃を準備しており、それは天音の居る場所を狙っているようだった。


 この場で誰を最初に仕留めるべきか、理解しているのだろう。

 さらに言えば、このままでは周りの人間も巻き込まれてしまう。


 しかし、当の天音は他の魔物や生徒の混乱の影響で、それに気がついていない。


「――天音ちゃん! 後ろ!」


 明里が叫ぶと同時、炎の球体が射出された。


〜あとがき〜


 少ない文字数の隔週更新からこんにちは、空宮海苔でございます。

 ……こうやって作者が自我を出すのは作品だけを楽しみたい読者の方や、余韻を楽しみたい方にはあまり好ましくないのは理解しているのですがね。

 どうもやめられませんね。おしゃべりすぎるのがすべての原因です。


 さて、まずは先週の更新をお休みしたことのお詫びと、休んだくせに3000文字弱しか書けていないことへのお詫びですね。 

 本当に申し訳ない……


 主にメンタル不調が原因で更新が滞ってしまいました。そのため、近況ノートの方でもお話したのですが、先週だけはお休みしていました。

 これからは通常通り更新する予定です。


 そういう意気込みです。


 ……というか、何より私はこの作品に対して謝らなければならないのですがね。2月中には完結、といっておきながら、もうすでに2月が終わろうとしています。時の流れというのは恐ろしいものですね。

 来週で全ツッパすればどうにかならないこともないですが、そこまで執筆が進むでしょうか……


 ということで、来週もまたお会いできたらと思います。最後までお読みくださりありがとうございました!

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