第25話:ステージ公演、そして異変
◇
ダンジョンの中、ある大きな空間の中に、ステージが建っていた。
この空間の床は人工のパネルが敷き詰められており、かなり歩きやすくなっているようだ。
さらに、その上に椅子がいくつも置かれており、多くの生徒がそこに座っていた。
すでに公演は始まっており、ステージの方ではあるクラスの劇が行われているようだった。
ただの劇ではなく、魔術を使った派手な演出も行っていた。時折色とりどりの炎のようなものが巻き上がり、そのたびに生徒の感嘆の声が聞こえてくる。
そんな折、連理は舞台裏に入っていた。
「すいません、ダンジョン探索部の者で、ちょっと道具の点検に来ました」
その言葉は半分嘘で、半分本当だ。
探索部による点検は確かにあるが、公演中に行うわけではない。
「えっ、そんなのあったんですか」
おそらく公演中の舞台の裏方をやっているのであろう生徒が疑問の声を上げる。
「そうなんですよ、やっぱりダンジョン内って色々ありますからね」
「へぇ、そういうもんなんですね……じゃあどうぞ。あっちに色々あるはずです」
怪訝そうな顔で連理を見ながらも、彼は連理を奥へと招待した。
「ありがとうございます!」
なるべくの笑顔を見せながら、連理は奥へ向かった。
文字通り、舞台の裏。
壁に隣接した構造ではないため、このステージはハリボテになっている。その裏には、天音から事前に話を聞いていた通り、様々な魔道具が置かれていた。
すべてどこかの公演で使うものらしい――そう、ほんの一部以外は。
(――これか)
連理は赤色に光る正三角柱のような形をした水晶の底面に、持ちやすい取手がついた魔道具を見ながら思案した。
これが例の『爆発を起こせる魔道具』だそうだ。
この話を聞いたとき、連理は真っ先に思いついたことがある。
彼の持つアーティファクトの中には、魔道具の機能を一時的に制限するものがあったのだ。
(接触させないと使えないせいで、トラップ解除とかには使えなかったが――こんなところで役に立つとはな)
連理は、握力計の先にスタンガンがついたような構造のアーティファクトを取り出し、魔道具にかざした。
持ちての部分をぐっと引くと、小さな光と音とともに火花が散った。
すると、プリズム状の魔道具の光が消え去った。
「……よし、これで大丈夫だな」
「あ、終わりましたー?」
先程の生徒の声が聞こえ、連理は思わず肩が跳ねる。
「お、おう! もう大丈夫ですよ。一つだけ問題があったので対処しましたが、それ以外は大丈夫です」
「え、そうだったんですね。ありがとうございます」
「いやいや、これも仕事ですからね」
はっはっは、と笑って連理はそこを去ることにした。
(本当ならもう一つあったんだが――そっちはできなかったな)
連理は名残惜しそうに後ろを見ながら、舞台裏を後にした。
そこには天音から外見を伝えられていた、緑色に鈍く光る絢爛な装飾が施された球体があった。
◇
劇が行われているステージ空間の中、連理は椅子の間をくぐり抜けながら三人が居る方角へ向かった。
それから、天音が居る場所を見つけ、隣に座ると小さな声で話しかけた。
ある程度の声は、劇で流れている大きな効果音や音楽にかき消されて、周囲には聞こえないため問題ない。
それから、連理は天音に近づいて耳打ちした。
「言われた魔道具のうち、爆発させるヤツだけは無効化してきた。もう一つは無理だったが、これでいいか」
「はっ、はいっ! ――コホン、それで大丈夫です、ありがとうございます」
唐突な耳打ちに体が跳ねる天音、心なしか耳も赤いように見える。
「? どうかしたか?」
「……いえ別に、とにかくありがとうございました。もう片方のものについては残念ですが――しょうがないでしょう。諦めます」
天音はそう言ってステージの方に向き直った。
「最善は尽くしました。後は座して待つのみです」
「おお、なんかカッコいいこと言ってる……」
先程まで一人で劇を見入っていた明里が、横から口を挟んだ。
「……それはいいのですが、なにか起きたらすぐ動ける準備はしておいてくださいね?」
天音は小さい声で言った。
「もちのろんよ」
それに対し、明里も小さな声で言いながらドンと胸を叩いた。
「大丈夫にはあまり見えませんね……」
「いやいや、大丈夫だよ。いい? こうやって普段はふざけて、本番はキリッとやるのがカッコいいんだから」
「普段でも、本番でもふざけるのが明里さんでしょう?」
あざけるような笑みを浮かべ、天音は言った。
「な、なにおう!」
それに対し、明里が食って掛かる。
「でも、そういうところも好きですから。気にしないでください」
しかし、天音はそう言ってくすりと笑った。
「きゅ、急に褒めるじゃん……」
「思ったことを言っただけですが?」
明里の言葉の意図を理解できなかったのか、天音は聞き返す。
「あーもう、そういうとこ急に天然になるんだから」
「別にさほど恥ずかしいことでもないと思いますが……」
「はいはい、イチャイチャしない。流石にそろそろ周りの人にも迷惑だからやめようか?」
すると、連理が横から入って二人を
「……イチャイチャじゃないし」
「……イチャイチャじゃありませんし」
二人はほぼ同時に言った。
否定するところまで息ピッタリのようだ。
(仲がいいなぁ)
その傍ら、零夜はそんなことを考えながら遠い目で劇を眺めていた。
と、そのとき。
先程まで劇を行っていたはずの空間が、一気に暗闇に包まれた。
「えっ」
「なんで? 停電?」
「てかダンジョン内なのに停電とかあるの?」
ダンジョン内の照明が、すべて消えたのだ。
こんなことができるのはそう――例えばあのステージの裏に置いてある魔道具くらいなものだろう。
「クソッ、そっちが本命かよ……!」
連理の押し殺すような叫びが発端となるかのように、辺りからはぽつりぽつりと不安の声が上がる。
その混乱は人から人へと伝播し、さらに大きな混乱を呼ぶ。
「運が悪かったですね……まずはあの魔道具を止めましょう。次に、どこで彼らが動いたのかを突き止める必要があります――それと、これを皆さんにお渡ししておきましょう」
どよめきが大きくなる中、天音は冷静に三人に声を掛け、
それは四片の割れた青色の宝石だった。そう、この前手に入れた通信が可能になるというアーティファクトだ。
一般的にダンジョンから産出した魔力あるいは未知のエネルギーで動くアイテムをアーティファクトと呼び、人間が製作した魔力で動くアイテムを魔道具と呼ぶ。
「まずは、皆さんこれを持ってください。宝石をしっかりと手に握り、通信したい相手の顔を強く思い浮かべれば、宝石が光って通信がつながるはずです」
「了解した――はぁー、それにしても本当に事件が起きてしまうとはな。密かに何も起きないことを願ってたんだが」
零夜は諦め気味に苦笑しながら、それを受け取った。
明里と連理も同じくそれを受け取る。
「私も同感ー。どうせなら楽しいイベントで終わって欲しかったね」
周囲の混乱を険しい顔で眺めながら、明里は言った。
「そうですね――それで、ここからは別行動になります。明里さんと零夜さんは地上に――」
天音が言い切る前に、ダンジョンの中に爆音が鳴り響いた。
その音は、ダンジョンの入口の方から鳴ったようにも聞こえる。
さらに、その爆音と同時に、多くの生徒が悲鳴を上げる。
「ねぇ! これどういうこと!」
「停電したばっかなのに……今度はなんだよこの音!?」
「どうなってんだよ……演出にしてもやりすぎだろ!」
不安と焦燥の交じる叫び声が辺りから聞こえてくる。
辺りが暗闇に包まれていることもあり、恐怖は増幅され、すでにほとんどの生徒に広がっていた。
「おいおい……その魔道具は停止したはずだろ!?」
その傍ら、連理は頭を抱えていた。
(今の音――まさか入口を?)
天音は最悪の予想が頭に思い浮かび、額に冷や汗が垂れる。
◇
ある、SNSにて。
『青幻学園の方から爆発音したんだけど、これなに?』
『青幻鳥里学園交流祭の映像を配信してた子が居たんだけど、急に大きな音が鳴って配信停止した……どういうこと?』
『学園交流祭で何か起きてるっぽい? 情報求ム #拡散希望』
『あのアオバって配信者の人は大丈夫なんだろうか。確か青幻学園所属だよな』
『学園交流祭、なんかヤバそう? アオバって子が配信してくれたら分かるんだけど……』
『青幻学園で火事起きた……のかな? 通報した方がいい?』
――
――――
〜あとがき〜
最近、文字数少なめの更新になってしまっており申し訳ない限りです。ただでさえ推敲があまりできていなくてクオリティを高められていないのに……
いやしかし更新期限を伸ばしたとて怠けてしまうだけであり……ぐぬぬ。
そんな風に悩みながらも、今週もなんとか更新までこぎつけました。
さてさて、それはそれとして、物語が動き始めましたね。
物語もいよいよ終盤。なんとか完結まで走り切るぞ、と気合を入れて書き進めようと思います。
そんな本作を面白いな、なんて思っていただけた方は、作品のフォローや、下のハートマークでの応援、星での評価などをぜひぜひお願いいたします。
コメントなんかでちらっと「よかった」程度の感想を言ってくださるだけでもとても嬉しいので、そちらの方もよければお願いします!
今回も最後までいただき本当にありがとうございました! それではまた来週!
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