抵抗

第22話 抵抗① side第3歩兵師団麾下第37歩兵小隊長

戦場は異様なほどの静けさに包まれている。長く軍に従軍している俺でも体験したことないほどの緊張感だ。実際一つ陸戦で双方合わせて4万以上が展開していることなど聞いたことがない。


すでに上からの命令による配置は完了していて第37歩兵小隊を含む第7歩兵大隊は何と敵軍の目の前に陣取ることになった。すでにここでの戦闘に備えて塹壕が掘ってあったので十分に戦うことはできるが、それでも被害が多く出てしまう配置だろう。とはいえ俺は一軍人でしかない。命令には従うまでだ。


配置が完了してからしばらくたったころ、しびれを切らした敵前線部隊がようやく動き出した。いくつかの伍が突貫し、それを周辺の部隊が掩護する形で敵は作戦を展開したみたいだ。


「全員、こっちに走ってきてるやつに標準を合わせろ!」


俺の声に合わせて兵士たちが陸軍で広く使われている汎用ライフルTU‐15を構える。そして十分に引き付けてから引き金を引く。そこから先はもう各自の技量に任せるしかない。


俺も塹壕から顔だけ出して敵のことを迎え撃つ。銃はセミオートであるため機関銃なんかと比べたら一回で処理できる敵の数は圧倒的に少ない。それでも少なくない敵がこの短時間で銃に撃たれている。


ふと、塹壕の外を見てみると一撃で絶命したものもいれば手足のどれかが吹き飛んでもがき苦しんでいる敵もいる。こればっかりは長い間戦場に出ている俺もなれない。


ただなれないといえどそれを引きずるほど未熟でもない。突貫してくる敵を一人一人標準を合わせながら冷静に処理していく。


もちろんこちらに被害がないわけじゃない。すでに敵の援護部隊の射撃で数人の隊員がダウンしている。そうなるとだんだんと前線を維持するのも難しくなってくる。


「全員傾聴!第1防衛線を破棄して第2防衛線に向かうぞ!殿は事前に決めていた者たちが入ってくれ!」


俺の合図をもとに小隊全体で一つ後ろの防衛線に下がっていく。そしてどうやら隣の小隊も俺たちが後ろに下がったのを見て呼応するように下がるようだ。


とにかくまた防衛線を張りなおして俺たちは戦闘を続ける。幸いにもだんだんと突貫してくる部隊は減ってきているようで少しずつだが周辺に展開している敵援護部隊へも牽制をすることができる。


ただだからといって俺たちから攻めることはしない。あくまで司令されたのは防衛線の防衛であり敵部隊の殲滅ではないからだ。


少し落ち着いたところで今の部隊内の状況を把握しようと声を上げようとした瞬間、何か木の枝の上で光っているのが視界の端に見えた。そう認識した時にはもう自分の体が崩れ落ちていくのがわかった。

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