ユークロニア

ミコトノリ812

ユークロニア

ここは時間のない国。


何でも揃いすぎている。そのため何もかもいらなくなった国。

私は、トリック・スターとでも言っておこう。


ここは元々いくつかの小国が集まり作られた国で、歴史が進んできた。

歴史が進むごとに自分たちの不安が少なくなりやることもなくなっていった。


人間はますます機械に仕事を任せるようになり廃人になっていく。

しだいに機械は自分たちの力だけで新しいものを作り出すようになり、ますます不要になった人間は少しずつ退化していった。


初めはそれでも幾許かいた『仕事をする』人間も今となっては98%が廃人と化してしまった。


まだ私は仕事をしている。

仲間はもう数えられるほどしかいない。

機械が何もかもをやってくれるから自分たちは遊ぶ。すると筋肉や脳は衰えはじめ認知症にもなっていく。

年々人口は減少していき、2兆人くらいいた人類も500億人程にまで減ってきた。


反対に機械は増加する一方で、ついに人類の2倍ほどの量になってしまった。

私の親はそれを食い止めるために、『レジスト』という反抗集団を作ったのだった。


人間は楽する方に行ってしまうから駄目だ。


自分たちが得になることばかりで、相手のことを考えないのが駄目だ。

人間は嫌なことと向き合うことをやらないから駄目だ。

刻一刻こんなことを言っている間にも人類は死んでいく。


今すぐ向き合えとは言わない。

いや。言えないのだ。


私もそっちの方に行きたくなってしまう。

堕落へと進む人が羨ましいと思ってしまうときがあるからだ。

しかし『それに立ち向かわなければならない』と本能が告げている。


自分の親友だった『アクト』は守ろうとした猫を置いて先に逝ってしまった。


アクトの口癖は

『相手に立ち向かう時には仲間を捨てるんじゃない。自分を捨てるんだ』

というものだった。


最後にもらったプレゼントの中には古いボイスレコーダーが入っていた。

だけどボイスレコーダーを再生しても、うんともすんとも言わない。

認証コードが必要なようだったが、アクトに訊いても一切教えてくれなかった。


しかしヒントに『猫』とだけボソッとつぶやいていた。


何かあるのだろうか。

アクトの口癖だけが脳内でリフレインする。

あの言葉の意味は、自分だけではまだ分からない。

誰かがいない限りは。


その誰かが少なくなっていく中、ふと思う。


あの言葉の意味は何だったのか。

自分に伝えたかった言葉は何だったのか。

ボイスレコーダーをもらった理由は。

アクトの本性はどんな奴だったのかが。


自分のことさえ、分からなくなってくる。


私はそれが悲しい、寂しい。

そして苛立たしさが機械に対して湧き上がる。


そんな感じなのだ。

なんとも言い表せないが、そんな感じなのだ。

一人、また一人と人類が減っていく。

『人間だから仕方がない』そんな考えが通用するかと、アクトは笑い飛ばすだろう。


好きなものに溺れ人間らしさを喪っていくのは決して許されないことなのだ。

欲に溺れてしまった人はもう人ではないと言っても過言ではないと思う。


機械のことがダメなわけでなくて、協力して仕事をすることが必要なのだと。

人間も一緒に働こうということだ。


だが現実はそううまくいかない。


働かなくていいと機械は私たちには言う。

その言葉を鵜吞みにして怠けるこの国は終わっている。

この国はもう、絶望的に終わっている。


この国の外はどうなっているのだろうか。



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そんなことを考えながら数年が経った。

もう人類は10億人を下回った。


徐々に人間への統制は苛烈さを増し、この国から出ることは機械によって許されず、もう機械に政治的にも支配されたとしか言えない。

この国の外。

ふとした疑問はいつしか私の希望になり、どうにかこうにか出るしかないと思うようになった。


そしてレジストは脱出作戦を練りに練った。決戦の時を迎えた。

自分たちは遺書を置いて出ていく。


作戦は

『エネルギーシステムをハッキングし、この国のエネルギーを一時的に停止させる。その時におとり用の機械を使い出ていく方向とは逆のほうにおびき寄せる。そしてそのうちに逃げる』

というものだ。無線で再度確認が入る。


……エネルギーシステムをハッキングする準備が整った。

エネルギーシステムをハッキングしてこの国全体のエネルギーを止めた。

その後おとり用の機械を作動させる。


ここまでは順調だ。


いや。だったの間違いだ。


計算上、ここにいるはずのない警備。

計算でしか動けなかった機械ではありえないことだった。


逃げている途中、偶然周囲を徘徊していた機械と鉢合わせてしまった。

『念のため』ここにきてもいいように、少しばかりの警備を置いといたのだろう。

 


======

捕まった人間の末路。


 脳を解析するために解剖されている。

 人間は機械たちの街でペットにされている。

 人間たちの警戒心を解くために、強欲にさせられて、いいように利用されている。


そんな馬鹿な話、あるわけない。

過去に嘘だろうと笑って誤魔化したことがあったのに。


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そんなやりとりが脳裏によぎる。

これまでの機械たちにあるまじき想定外の出来事に、自分は、目の前にいる大きな機械に立ち向かう勇気を落としてしまった。


自分だけでも逃げようと醜い心が出てくる。


必死に走った。

後ろから仲間の叫び声が聞こえる。耳を必死にふさぎながら走る。


だけど目の前にあったものを見て、私の足は止まってしまった。

目の前にいたのは、あのときの猫だった。


「にゃ~」


見覚えのある鳴き声に、ポケットに入れていた形見のボイスレコーダーが反応した。

流れた音声は、聞き覚えのあるあの言葉だった。


『相手に立ち向かう時には仲間を捨てるんじゃない。自分を捨てるんだ。

なんかこれ言うの恥ずかしいな……。まぁ何事も行動。

【act】ってな。まぁ頑張れよ!』


今ならあの言葉の意味が分かる気がする。私は猫にお礼を言い、元いた場所まで引き返す。走る。


光を超えたようだった。この感覚は忘れないことだろう。

仲間が機械に縛られている。私はポケットに入れていたバタフライナイフを使って思いっきり力を入れて、縄をたたき切った。


そのまま機械の前に立ちふさがるようにして、背中越しに仲間に向かって走って逃げろと叫ぶ。仲間は何も言わず門へと走っていった。


「さようなら……」


そんな言葉を残し自分は捕まってしまう。

牢屋の中に入れられた。


残念だと思う一方で感じる、少しの安堵感。

これで罪は帳消しになっただろうか。


遠くから機械の近寄る音がしてきた。 


少しずつ眠くなってきた。

目の前にアクトとあの猫が見えた気がした。

最後は君も笑ってくれるのか。レクイエムが自分の周りで鳴る。

天使が導いてくれるのだろう。私は目をつぶる。


         


END


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読んでいただきありがとうございます。


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