第44話 Survivor’s Guilt / 生存者の罪悪感

目を開けると、そこは自室だった。

時計を見ると、まだ太陽が顔を出していなかった。

普通であれば、勉強するのだが、何もする気が起きない。

ベッドから起き上がるのすら、したくない。

起き上がるのが怖いからだ。

そうしているうちにドアがするりと開いた。

「やっと起きた?」

ドアからリンが入ってきた。

「ああ、一応な.....」

「話しかけるか迷ったんだだけど....一応話すことにするわ」

.....鏡花のことか。

「ああ。聞かせてくれ」

俺は覚悟を決めて聞くことにした。


リンから聞いた話によれば、やはり鏡花はもう.........。

国枝さんは無事だったそうだ。

俺にその記憶はないのだが、どうやら俺は誰もいなくなったあと、ずっと...体力が尽きるまで、"自然治癒ヒール"をかけ続けていたらしい。

皮肉なもんだ。そんなもん、生きているやつにしか効かないのに......。

"自然治癒ヒール"は簡単に言えば、俺が名付けた和名の通り、体に備わっている治癒能力を活性化させて、爆速で回復させる魔法。だから、冷たくなって治癒能力がなくなっていた鏡花には効かなかった。

ちなみに俺は、1日も寝ていたらしい。


警察も調査をすると言ったらしいのだが、期待はできない。

Aランクの可能性があるためだ。警察はAランクに関しては関与しようとしない。

自分から手を引く。じゃあ、警察は遺族などにどう説明するのか。

簡単だ。まだ見つかっていないなどと言えばいい。

そして、「申し訳ないが....その事件にばかり力を入れるわけにもいかない」なんて言えば、迷宮入り事件と偽ることができる。

警察のように、色々捜査する能力や知識。そして機材なんてものを市民は持っていない。機材があっても、それを使う権力、許可をもらえないのだ。基本的に。

だから市民は警察のことを信用するしかない。

そんな役にたたない穀潰しになんて期待はできない。あのUの強さなら尚更のこと。


「で.....一通り話したけど、どうするつもり?」

「..........一旦、水月邸に行ってくるわ....」

俺は気持ちの整理をするために....わざと行きたくない場所を選ぶ。

......勉強の癖がここでも出るらしい。俺はめんどくさいこと、嫌な問題はさっさと終わらせる。嫌な問題を完璧にできるようにしてから、好きな問題を自分のペースでやる。そんな癖がこんなところでも発揮されるとは。

そんなことを考えながら、家を出た。


「.........」

水月邸に近づいて行く度に胸が痛くなってくる。

この気持ちをどう表したらいいのかわからないが、胸が締め付けられているかのように痛い。親しき友人や親族を失うとこんな気持ちになるのだろうか。

前を見ると、仲良さそうに歩いている姉妹の姿が見える。こんな時間に...。

..........人の気も知らないで.....いや。そんなの八つ当たりで、そんなこと思ったらダメだ。Aランクや犯罪者に大切な人を奪われた奴なんて世界中にたくさんいる。

俺だけじゃない。俺が鏡花と一緒にいる間、大切な人を奪われた人もいるはずだ。

......やめよう。

そう思って俺は水月邸へ走り出した。

———邪念を抱かないために。


水月邸につくと、国枝さんが待っていた。

.....血の匂いは消えていない。この鼻にツンとくる、鉄のような匂いが嫌いだ。

「お待ちしておりました、鈴木様」

いつもと変わらない口調に見えるかもしれないが、たくさん通っていた俺だからわかる。国枝さんもいつもと違うということに。その証拠に、わかりずらいが拳が握られている。

「....お邪魔します」

俺は扉を開けて、広間に行く。

前のように生気に満ち溢れた空間ではなく、物静かで何もない空間になっていた。家具も存在感を溢れ出すなんてことはなく、ただひっそりとしている...そんな感じだ。

いつも入っていた鏡花の部屋の前まで来た。扉に手をかける。その時、俺は少し期待してしまった。今までの物が全てドッキリで、ここを開けたら鏡花やUがばぁ!と出てくるのではないかと。

しかし、この世界は無慈悲なのだ。

そんな甘い展開なんてものはこの世界には用意されていない。ゲームで言えば、ファイルにすら、ボツにもなっていない。つまり、考えもされず作られてもいないイベントを俺は期待しているのだ。

扉を開けてもそこには誰もいない。虚無。それがそこを支配していた。

主人がいなくなった家具たちは、存在感がなくなっていた。

しかし、そんな虚無感に抵抗する、最後の役割を果たそうとしているかのように、存在感を出しているものが二つだけあった。

それは、テーブルだ。その上にあるものを支えている。テーブルにあったものは、

「.......手紙?」

テーブルの上には手紙があった。

裏を見ると、鈴木康輔とご丁寧に漢字のフルネームで書かれていた。

「...俺宛て...なのか」

ゆっくりと手紙を開く。

そこには、今までの鏡花の心境が語られている紙と1つの紙が入っていた。

俺は、先に鏡花の心境、つまり今までに思っていたことが綴られている方から見ることにした。


それは....悲劇のヒロインに抗う、勇敢なるヒロインになろうとするそんな1人の少女の、葛藤が———綴られていた。






———そして、全てを見た後、もう一つの紙を見た時、俺は......

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