第12話 鏡花と康輔

「お待ちしておりました鈴木様」

「国枝さん、お久しぶりです」

俺がそう挨拶すると、不思議そうに2人が俺を見た。

「どういうこと?こうにぃって執事さんと知り合いなの?」

うんうん、とリンも頷いている。聞きたいことは同じらしい。

「そうだよ。国枝さんとは知り合いなんだ」

「お嬢様のために色々して頂いたのは感謝しかないです」

「いえ、俺がほっとけなくてしただけですから」

そう言って横を見ると2人の頭....特に萌音がフリーズしていたので、1から説明することにした。


「まず、俺は2年前....異世界分を入れると4年前だが....」

俺も帰ってきた時はすげぇびっくりしたもんだ。

俺が死んでからまだ1週間しか経ってなかったんだから。

おかげさまで容姿を高校2年生に戻さにゃならんかったし。

「ややこしいから2年前で。....その2年前に俺は鏡花と出会ったんだ」

「2年前って.....もしかしてこうにぃが受験勉強で忙しかった時期?」

「正解だ」

「あの頃、すごく変だと思ってたけど、そういうことだったのね」

「変って何が?」

正直何もしてなかった思うんだが....。

「だって、受験勉強ですごく忙しかった時期の最初の頃は家から学校以外では出ずに毎日勉強してたのに。ある頃から、息抜きとか言って毎日外出してたじゃん。だから変だと思ってさ」

「あ〜」

確かに変に見えるか。

「帰ってきたら、勉強していない時間を取り戻すかの如く勉強していたし.......そうするぐらいなら家でずっと勉強して外出なんてしなきゃいいのにと思ってて」

「ずっと、鏡花のとこに行ってたんだよ」

「どんなところで出会ったのかしら」

「あれは、土砂降りの大雨の日のことだった」




「勉強も疲れるんだよなぁ......」

でもしないと不安だしなぁ.....。

「早く帰って勉強しないと」

帰ろうとした、その時だった。

「ん?」

公園の方を見ると、1人の女の子がブランコを漕いでいた。

「んな雨の日に1人で何やってんだあいつ」

俺はそう呟くと体が動いていた。

「おい。こんな雨の日に何してんだよ」

そう俺は問いかけた。

なぜかはわからなかったが、その少女からは生気が感じられなかった。

顔は下を向いているが、下を見ていない。そんな感じだった。

ただただブランコを漕いでいるだけ。ずぶ濡れなところを見ると、結構前からこのブランコにいたみたいだ。

「........だれ」

そう、今にも消えそうな声だった。

とりあえず、俺は少女を傘に入れる。

「俺は鈴木康輔。何やってんだよお前」

「....なにが」

「なにがじゃないが?こんな大雨の日に1人でなにしてんだって聞いてんだ」

「....ブランコ」

「見りゃわかる。大雨の日にすることなのか?ブランコは」

「.....ほっといてよ」

「ほっとけねぇよ。ほっといたら寝覚め悪りぃし。てか親御さんが心配するだろ」

「.........もういないわ。お母様達なんて....」

「....すまん」

「いいのよ別に」

「なにがあったのか話してくれよ」

「.........」

しばらく黙っていた少女だが、ため息をひとつした後、口を開いた。


それから俺は少女の話を聞いた。


「私の名前は水月鏡花」

「水月って......あの大手企業の?」

「ええ」

「ええってお前.....何でその社長令嬢さんがこんなとこに1人で?」

「......お母様、お父様が死んだの。しかも今日」

「.....ご冥福をお祈りするわ....」

こんな小さい子が親を失うとか想像を絶する苦痛だろうな。

「私が生まれた時はお母様たちはすごく可愛がってくれた。けど、私が物心ついた頃、お母様たちは変わってしまったの」

「変わった?」

「私のことを嫌っていたの」

「どういうことだ?」

「理由はわからない。けど、ある日から私は無視されるようになった」

.....急に....か。何か意図があるかもしれないけど....。

「愛想がつかされたんだと思う。私、無能力者だし」

「そんなことはないと思うがな」

「無能力者の気持ちは無能力者にしかわからないのよ!」

「勘違いしているようで悪いが...」

「?」

「俺も無能力者だぞ」

「え」

「だから無能力者だって事実がすげぇ不安だってこと、俺は痛いほどわかる」

「.....私、勘違いしてた....」

「まぁ、聞かなきゃ話からねぇしなぁ」

しばらくの間沈黙が続く。

「で、その後どうなったんだ?」

「........ずっと毛嫌いされ続けた。けど、今日だけは違った」

「違った?」

「今日だけはお母様もお父様も、私と話をしてくれたの。嬉しくてたくさん話をしたわ」

「......その後に鏡花がここにいた原因の出来事が起きたってわけか」

「ええ.....。今日のお昼にお父様達は仕事から帰ってくる予定だったの。いつもは夜だけど。私はウキウキでお母様達の帰りを待ってた。朝に話をしてくれたから」

なにを話せばいいのかわからない。なにを言っても失礼になる気しかしない。

「けど、いつまで経ってもお母様達が帰ってくることはなかった。それならよかった。仕事が長引いてるだけとかそういう可能性があったから」

まぁ、そう思うのが普通だよな。

「.....訃報が届いたの....」

「..........」

ずぶ濡れな彼女の体は冷たいだろう。

しかし、彼女の心はもっと冷たい。

そう感じた。


それから、鏡花に追い打ちをかけるような出来事が起きたらしい。

それは、彼女の友人に無視されたことだ。

どうやら、鏡花.....ではなく鏡花の両親、財産が目的で仲良くしていたらしい。

両親が死んだ今、鏡花にはなにも価値がないと考えたんだろう。

そうして彼女は家を飛び出した。

ブランコを1人で漕いでいたところに俺がきた.....ということだったらしい。


「何というか.....悲惨だったんだな」

「.........」


気の利いたことを1つも言えない自分が嫌いなる。

こりゃ国語と道徳、0点だな。


「....あなたの話も聞きたい」

「俺の話?」

「....うん」

「俺は普通だぞ?ただただ受験勉強をして、学校に行く。それだけだ」

「.......」

「俺の夢は能力者達をぶちのめすことだな」

「.....能力者を?」

「ああ。なんかむかつくだろ?この社会の頂点みたいに気取ってる奴らがさ」

「......そう?」

「いやだって、能力がもらいもんかもしれないんだぜ?」

「まぁ....確かに」

「まぁそう言うことだから、俺は俺のやり方であいつらを超える」

「......」

「で、俺はもう帰らなきゃだが、お前はどうするんだ?」

「........」

「いつまでも悲しんでたって何もならねぇってことを言っておく」

「........帰りたくない」

「.........<正義は必ず勝つ>そう言われてるよな」

「......え?」

「じゃあ、おまえは悪なのか?」

「.........ちがう」

「だよな」


それだけ言って、俺は彼女に傘を渡し、そそくさとその場から去った。

あとは、あいつがどうするか......だな。



それから次の日、俺はあの公園に向かった。


「.......いない....か」

俺は踵を返し、帰ろうとした.....その時、

「康輔‼︎」

目の前から鏡花が走ってきた。


それから鏡花は前向きに生きることを決めたらしい。

ちなみに鏡花のご両親が他界した話はニュースになっていた。

そのニュースでは、鏡花が<悲劇のヒロイン>となっていた。

「私は悲劇のヒロインじゃないのに.....」

「そうだな」


それから俺は鏡花と遊ぶようになった。



「これが、鏡花との出会いの全てだな」

「そんなことがあったんだねぇ〜」

萌音はお茶を飲んでいた。

リンは......優雅に紅茶を飲んでいた。

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