第32話 壮絶な戦い

 マダラ模様のホブゴブリンは、ダイヤモンドブレスのリーダーであるバルモアに対して下卑た笑みを浮かべて弱者へ向ける見下した視線を投げつけてきました。


 不思議と周囲の隈付きゴブリンは、ダイヤモンドブレスのメンバーを襲うのをやめ左右に分かれて、バルモアとマダラ模様のゴブリンとの戦いを観戦していました。


 その隙に、ダイヤモンドブレスのメンバーは、手ひどくやられた盾役の男を守るように陣形を組み、ポーションを使って治療をしています。


「アガクノハ、モウオワリカ? ヨワイニンゲン」

「ちっ、リーダー同士の一騎打ちってか? 上等だよ!」


 下卑た笑みと見下した視線を向けて煽るマダラ模様のホブゴブリンに対して、バルモアは周りのようすをチラリと確認して舌打ちすると、1対1の戦いに応じて攻撃を仕掛けました。


「うおぉぉぉぉぉ!!!!!」

「グハハハハハハ」


 バルモアは雄たけびを上げながら両手で槍を握りしめ、激しい突きを繰り出しますが、マダラ模様のホブゴブリンは下卑た笑い声を上げながら、多少の傷は厭わないとばかりに棍棒を振り回してきます。


 バルモアは、槍の長さを生かして、マダラ模様のホブゴブリンの腕を狙い、正確な突きを繰り出す作戦に出たようですが、相手も上手いもので、大きな傷を負わないように立ち回っていました。


 マダラ模様のホブゴブリンが、槍ごと吹き飛ばさんとばかりに棍棒を横薙ぎに振るうと、引いて躱したバルモアの足が縺れてよろめいてしまいました。


「グラァァァ!!!」

「ぐぅっ!!」


 隙は逃さないとばかりに、マダラ模様のホブゴブリンが、大きく踏み出し豪快にすくい上げるように棍棒を振るうと、体制を崩していたバルモアは、躱すことが出来ずに辛うじて槍で受け止めたものの、大きく吹き飛ばされて背後の木に激突してしまいました。


「バルモア!!」

「くぅ……」


 仲間の叫び声を受けて、バルモアは、よろけながらも立ち上がりました。


「グハハハハ、ヨワイ、ヨワイナ、ニンゲン」

「「「ゲヒッ、ゲヒゲヒッ」」」


 マダラ模様のホブゴブリンと隈付きゴブリン共は、バルモアの無様なようすを嘲笑います。どうやら、すぐに止めを刺さずに遊んでいるようです。


 バルモアは、槍を杖代わりにして立ちあがり、目の前の敵を睨みつけ、そして、チラリと仲間のようすを窺いました。


 ダイヤモンドブレスの仲間達は、盾役の怪我が随分と回復したようですが、みんな戦意を失っている目をしていました。


「ちくしょう……、みんな、引くぞ、撤退だ……」


 バルモアが、マダラ模様のホブゴブリンを睨みながらも呟くように指示を出すと、ダイヤモンドブレスの仲間達は、小さく頷き、じりじりと下がり始めました。


「グフフ、ニガストオモウカ? グギャグギャラァァァァ!!」


 マダラ模様のホブゴブリンが、口角を上げ、意味深な言葉を投げると、大きな声で何やら叫びました。


「くそっ! 何をする気だ!?」


 バルモアが、額に汗を滲ませながら辺りを警戒するも、何も変化は見られません。ダイヤモンドブレスの仲間達は、得体のしれない恐怖に顔を青ざめさせながらも何とかパニックに陥らずにじりじりと後退してゆきます。


「グハハハハ、ナカマ、ヨンダ。ニンゲン、ニガサン、コロス」

「ゲヒャヒャヒャヒャ」

「ゲヒ、ゲヒッ」


 マダラ模様のホブゴブリンが、仲間を呼んだと下卑た笑みで告げると、隈付きゴブリン共が下卑た笑い声を上げました。


「ちっ、周囲に気を付けろ!」


「ゲヒャッ、ゲヒャッ」

「ゲヒヒッ」

「……???」


 バルモアが、苦い顔をしながらも仲間に警戒を呼び掛ける間も隈付きゴブリン共の下卑た笑いは響きます。しかし、マダラ模様のゴブリンは、様子がおかしいと首を傾げました。


 そこへ、ダイヤモンドブレスの背後から姿を現したのは、ジャガー警部達即席パーティーメンバーでした。


「バルモア! 背後のゴブリン共を倒して退路は確保したぞ!」

「ジャガー警部か、ありがたい」

「グムゥゥ……」


 ジャガー警部とバルモアとの短いやり取りに、マダラ模様のホブゴブリンは、眉根を寄せて唸りました。そして、すぐにダイヤモンドブレスのメンバー達が逃げ足を速めます。


「ニガサン! グギャギゲェェェ!!」

「「「ギャギャッ!!」」」


 マダラ模様のホブゴブリンは、人間達を逃がすものかと、何かを叫ぶと、配下の隈付きゴブリン共が、人間達へと駆け出しました。おそらく、配下の隈付きゴブリンへと追撃の指示を出したのでしょう。


「来るぞ! なるべくゴブリンの数を減らせ! ホブの足止めは俺がする!」

「分かった!」

「了解っす!」


 襲い来る隈付きゴブリンを前に、ジャガー警部が指示を出し、ジェニファーとスコットが返事を返します。撤退するにも敵の数をなるべく減らし、強敵は足止めに徹して時間を稼ぐ作戦でしょう。


 マダラ模様のホブゴブリンは、迎え撃つ人間達を見てニヤリと口角を上げると、自ら人間達を葬り去ろうと1歩前へと踏み出します。


「ニンゲン、コロ―—」


 マダラ模様のホブゴブリンが、そう言いかけた、その時です。

 死角から飛び出してきたケータが、手にした棍棒で、マダラ模様のホブゴブリンの着地する足元を思いきり払いのけました。


 ズシーン!

「グゥッ!?」


 足元を掬われて倒れるマダラ模様のホブゴブリンは、何が起こったのか分からないような顔で、倒れ込みました。


「とりゃぁ!!」


 ケータが、勢いよく棍棒を振り下ろして、倒れたマダラ模様のホブゴブリンの頭へと叩きつけました。


「グギャァッ!?」


 マダラ模様のホブゴブリンは、頭を強く殴られながらも僅かに首を捻ってケータの顔を視界に収めると、目を見開きました。


「うおおおぉぉぉ!!!」


 間髪入れずに、ジャガー警部が、手にした大剣をマダラ模様のホブゴブリンの首元へと振り下ろしました。


 ブシャーッと、マダラ模様のホブゴブリンの首筋から、青い鮮血が勢いよく吹き出しました。


「ぐっ、硬い!」


 ジャガー警部が、悔しそうに顔を歪めて、そう零しました。

 見れば、大剣が、マダラ模様のホブゴブリンの首を断ち切れずに、途中で止まっていました。


 マダラ模様のホブゴブリンは、無言で大剣をガシッと鷲掴みにすると、力任せに引き剥がして、ジャガー警部もろともぶん投げました。


「うおおっ!!」


 ジャガー警部は情けない声を上げて地面に転がりました。

 一方、ケータは、少し距離を置いて、マダラ模様のホブゴブリンのようすを観察していました。


 マダラ模様のホブゴブリンは、のっそりと立ち上がると、ケータの方へと視線を向けて、何だか嬉しそうに口角を上げて見せました。その首元のざっくり切られた傷口は急速に塞がってゆきます。


「ミツケタゾ、ニンゲン……」

「……」


 首元の傷が回復したマダラ模様のホブゴブリンが、喜色を浮かべてしゃべりましたが、ケータは無言でその動向を静かに見つめています。


「グフフフフ、オマエヲ、コロスタメ、ツヨクナッタノダ」

「なに言ってんだ?」


「オマエニ、ナグラレタコト、ワスレナイ」

「……もしかして、あの時のゴブリンか? 何だか似たような気配だとは思っていたけど……」


 マダラ模様のホブゴブリンの片言の言葉から、ケータは、目の前の魔物が、転職神殿へ行く際に遭遇したマダラ模様のゴブリンだという推測に至りました。少し気配が変わったのは、上位種のホブゴブリンになったからだと思われます。


「グフフフフ、コロス!!」


 マダラ模様のホブゴブリンは、目を見開いて叫ぶと、ケータを殺すべく嬉々として襲い掛かって来るのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る