第8話 転移ポイント

 ダンジョン内のとある階層にある鬱蒼とした森の中で、ケータとギプスは筋トレサバイバル生活をしながら、じりじりとダンジョン内を移動して行きました。


 そんなある日のことです。大きな大樹を見つけたケータとギプスは、その大樹へと近づいて行きました。


「おおー、なんかでっかい木だなー」

「ハッハー! 周りの木に比べて、ダントツで大きいですネー!」


 その大樹は、いくつかの木々が寄り集まって出来たような、とても不思議な感じがします。


「ん? なんか穴があいてるぞ」

「ハッハー! でっかいうろですネー!」


 ケータ大樹の幹を物珍しそうに触りながら、ぐるりと大樹の周りを回っていると、人が入れそうなくらいの洞を見つけました。


「なんか、宝箱がありそうだな」

「熊が住んでるかもですネー!」


「いやいや、そんな気配は全くないぞ」

「ちゃんと気配を探ってたですネー! その調子ですネー!」


「まぁ、気配を消して潜んでいるかもしれないし、慎重に覗いてみよう」

「ハッハー! 行ってみるですネー!」


 熊の魔物が潜んでいるかどうかは分かりませんが、ケータとギプスは、洞の中を探ってみることにしました。


 ケータとギプスは、警戒しながら、そっと洞へと近づくと、洞の横へとピッタリ張り付きました。


「魔物や動物の気配はないね」

「大丈夫そうですネー」


 2人は、そうっと中を覗き込みました。

 洞の中は、床面が真っ平な部屋になっていて、中央にポツンと1つガラスで出来たような台がありました。


「宝箱は無いみたい ――」

「ヒャッハー! 転移ポイントですネー!」


 ケータの言葉を遮って、ギプスがテンション高く叫びました。


「転移ポイント?」

「イエース! 転移玉にあらかじめ登録していたポイントへ転移できるですネー!」


 ケータが、驚いた様子で目をパチクリさせながら尋ねると、ギプスは、転移ポイントについて簡単に答えて、ふよふよと空中を泳いで中へ入って行きました。


「う~ん、いまいち良く分からないんだけど?」

「ハッハー! 詳しく説明するですネー!」


 ケータも洞の中へと入り、腕を組んで良く分からんというと、ギプスは、転移ポイントについて詳しく説明を始めました。


 ギプスによると、転移ポイントは、ダンジョンの中にある不思議な場所で、帰還玉や転移玉を使うことで、一瞬にして移動が出来るそうです。


 帰還玉は、ダンジョン入口にある帰還ポイントで最大8人を登録することができ、ダンジョン内の転移ポイントで登録済みの帰還玉を使うと、登録したメンバーをダンジョン入口へと転移できるといいます。


 転移玉は、帰還玉とは逆に、ダンジョン内の転移ポイントで最大8人を登録することができ、ダンジョン入口の帰還ポイントで使うと、登録したメンバーを登録した転移ポイントへと転移できるそうです。


 さらに、転移玉は、帰還ポイント以外にも、ダンジョン内の別の転移ポイントで使うこともでき、同様に登録した転移ポイントへ転移できるとのことです。


「う~ん、便利そうだけど、今は使えないよね」


 ケータは、ギプスから転移ポイントの説明を聞いて冷静に言いました。転移玉や帰還玉に登録した覚えはないので、転移は出来ないと思ってのことでしょう。


「ハッハー! 使えないことはないですネー!」

「えっ? どゆこと?」


 ギプスの言葉に、ケータは首を傾げました。


「帰還玉も転移玉も使わずに転移することが出来るですネー!」

「なにそれ? 今までの説明になかったよね」


「ハッハー! 初めて説明するですネー!」

「だよねー」


 どうやら、先ほどまでの説明には無かったようです。


「帰還玉も転移玉も使わずに転移した場合、別のダンジョンへと転移してしまうですネー!」

「えっ、それって、もしかして……」


「イエース! 別のダンジョンへ転移して、ダンジョン出口へ向けて階層を渡って行けば、外へ出られるですねー!」

「おおっ!」


 ケータは、嬉しそうに声を上げました。


 それもそのはず、ケータは、実験体として強制労働させられていた組織に見つからないよう、組織の施設があるダンジョンの出入口とは別の出入口を目指してダンジョン内をジプシーのごとく移動しているのです。


「ただーし、別のダンジョンへ転移することができますが、転移先のダンジョンのどこに転移するかは分からないですネー!」

「えっ? どゆこと?」


 ただしと言い出したギプスの言葉に、喜び顔だったケータは、頭にハテナを浮かべて首を傾げました。


「ハッハー! 転移するのは、別のダンジョンの中のどこかですネー! それは、鬱蒼とした森の中だったり、草原の真っただ中だったり、荒野のど真ん中だったりしますネー!」

「ひょっとして、魔物のすぐそばに転移したりするとか?」


「可能性は、ありますネー!」

「マジかー……」


 魔物のそばへ転移するリスクもあると知り、ケータは、微妙な顔をするのでした。やはり、いきなり魔物と戦闘となると、どういう展開になるか分かりません。強い魔物と相対した時には、下手をすれば殺されてしまいます。


「ハッハー! 大丈夫ですネー! 目の前に突然ケータが現れたら、魔物もビックリしてしまうですネー! その間に、全力で逃げれば、なんとかなりますネー!」


 ギプスが、楽観的に言いますが、ケータは眉を寄せ、微妙な顔をしたままです。

 ケータは、しばし何かを考えてから口を開きました。


「ダンジョンの奥深くに転移した場合、魔物が強すぎて逃げられないんじゃない?」

「ハッハー! 確かにケータの懸念も分かるですネー! だけど、大丈夫ですネー! 転移先は、だいたい同じくらいの強さの魔物が出るところですネー!」


 ケータのもっともな意見に、ギプスは、安心しろとばかりに言いました。しかし、ケータは、なおも眉を寄せたままでした。


「ほんっ当に、同じくらいの魔物なの?」

「あー、ちょっと強いくらいの魔物はでるかもですネー……」


 訝し気に尋ねるケータに、ギプスは、少しテンション下がり気味に答えました。


「ちょっとって、どれくらい?」

「1つ先の階層で出るくらいの魔物はでるかもですネー……」


 さらに、問いかけるケータに、ギプスは、目を逸らしながら答えます。


「それ以上強い魔物は出ないんだね?」

「あー、2つ先の階層で出るくらいの魔物がでることもあるとかなんとか……」


 さらにさらに詰め寄るケータに、ギプスは、全身に汗をダラダラと流しながら言い淀みました。


「はー、危険なことが分かったよ」

「ケータは、転移しないですかー?」


 ケータが大きく溜め息を吐いて危険を理解したことを告げると、ギプスが恐る恐ると言った感じで尋ねてきました。


「今は、転移しない」

「そうですかー……」


 ケータの答えに、ギプスは、しゅんとして残念そうに言葉を零しました。しかし、ケータは続けて言いました。


「もっとトレーニングして、2つ、いや、3つ先の階層で戦えるようになるんだ。そしたらここへ戻って来て、ほかのダンジョンへと転移しような」


 ケータが、拳をぐっと握りしめて、真剣な眼差しでそう言うと、ギプスは、どこか感動したように目をうるうると潤ませました。


「ヒャッハー! ケータ! 目標が決まったところで、張り切って、トレーニングするですネー!」

「おう!」


 ギプスは、いつもの調子を取り戻して、元気一杯、張り切ってケータのトレーナーを務めるのでした。




 【転移ポイント】

 ダンジョン内にある不思議な場所です。あらかじめポイントを登録した帰還玉や転移玉を使うことで、一瞬にして移動することが出来ます。帰還玉も転移玉も使わずに転移することも出来ますが、その場合、別のダンジョンへとランダム転移してしまいます。ちなみに、帰還玉や転移玉は、ダンジョン内の宝箱から入手できますが、帰還玉はそこそこの確率で出るのに対して転移玉は出る確率が低いです。

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