3.成長

第7話 野生児

 ケータとギプスが、筋トレサバイバル生活をしながらダンジョン内をジリジリと探索し続けて、もうかなりの月日が経ちました。


 今では、ケータの身長はかなり伸びましたが、まだまだ子供の域を出ておらず、これからもっともっと伸びるでしょう。


 身長が伸びると、当然、服は小さくて着れなくなりますが、ダンジョンの宝箱からちょくちょく服が出るので、裸で過ごすようなことにはなっていません。しかし、しばらく靴が出ていないので、わらじを作って履いている状態です。


 今のケータの服装は、長袖、長ズボンの旅人風の服を着ていて、その上に、革の胸当てと、左手に革の小手を着けています。これらは全て、宝箱から出たものです。


 さらに背中には、宝箱から出たバックパックにポーションバッグの魔法を掛けて背負っています。


 足元が自作のわらじなのが何とも言えない感じですが、全体的に見て、動きやすい格好といえるでしょう。


 そして、ケータの武器は、手製の棍棒がメインで、宝箱から出た鞘付きのナイフを腰の後ろに括り付けていて、場合によってはナイフを抜いて戦います。


「魔物……、おそらくオークが1体いるね」

「イエース! 戦闘トレーニングですネー!」


「おう! 奇襲から一気に仕留めてみせるよ」

「頑張るですネー!」


 鬱蒼とした深い森の中、ずいぶんと大人っぽい話し方になったケータが、視線の先に、まだ見えないオークの気配を索敵で捕らえると、奇襲を仕掛けるために動き出しました。


 毎日の筋トレのおかげでしょう、ケータの身体能力は、かなり向上していて、今では野生児のように素早くばねの効いた動きをするようになっていました。


 森の中の移動も慣れた様子で、ケータは音もなく走り、その背中を追うようにギプスが空中をすすーっと音もなく泳いで行きます。


 ケータとギプスが、風下から目標のオークへと近づいて行くと、やがて大きな棍棒を肩に担ぐようにして、のっそりと歩くオークの姿が見えました。


 ケータは、風向きに気を付けながらオークの背後へと回り込み、ギプスは、無言でその後ろをついて行きます。


 オークの背後からある程度近づいたところで、ケータは、一気に走る速度を上げました。そして、一息にオークとの間を詰めると、軽く飛び上がり、手にした棍棒をオークの後頭部めがけて振り抜きました。


 ガコンッ!!!

「ブギャー!!」


 突然、後頭部を強打され、オークは野太い悲鳴を上げました。


「よし! 次ぃ!!」


 ケータは、着地するとすぐに、よろけて膝をついたオークの頭めがけて棍棒を振るいました。


 ガン! ゴン! ガン!!

「ブギィィィ!!」


 ケータは、三連続でオークの頭を殴りつけることに成功するも、オークが雄たけびを上げて立ち上がり、大きな棍棒を振り回してきました。


 ケータは、オークの棍棒攻撃をすっと身を引いて躱すと、少し距離を取って身構えました。


「むぅぅ、残念、奇襲で倒しきれなかった」

「ハッハー! オークは、打撃に強いですネー!」


 悔しがるケータに、ギプスは、冷静にアドバイスします。

 オークは、全身に脂肪が多く、その脂肪分が打撃を吸収するため、打撃系では効果的にダメージを与えられないというのです。


「いやいや、いくら打撃に強いと言っても、頭は別だろ?」

「ハッハー! 石頭ですネー!」


「なんてこったー!」

「さぁ、ここからが本番、頑張るですネー!」


 ケータは、脂肪が少なそうな頭なら棍棒でもいけるだろうと考えてたようですが、オークが石頭だとは考えていなかったようです。目論見が外れたことに悔しがりましたが、ギプスの言う通り、ここからが本番です。


「ブッギィィ!!」


 オークは、怒りに満ちた形相で大声を上げ、棍棒をブンブンと振り回しながら、ドスドスと巨体を支える足を踏み鳴らして迫ってきました。


 ケータは、大振りなオークの棍棒攻撃をひらりと躱し、横薙ぎに振るわれた棍棒を沈みこむようにすっと潜り抜けてオークの懐に入り込むと、腰に着けていたナイフを抜いて、オークの太ももを切りつけ、素早く駆け抜けオークの背後に回ります。


「ピギャァ!!」


 太ももをざっくりと切られて血を流し、悲鳴を上げて立ち尽くすオークへと、ケータは追撃とばかりに、背後から背中をナイフでぶっ刺して、すぐに引き抜き距離を取ります。


 オークは、痛みに顔を歪めながらも振り返り、怒りの形相でケータを睨みつけると再び棍棒を振り回して迫ってきます。


 ケータは、冷静にオークの攻撃を見切り、隙をみて懐に入ってナイフで足を切りつけてゆきます。もちろん余裕があれば、背後から背中やお尻を刺すのも忘れません。


 そうやって、地道に、コツコツと攻撃して、オークの足を中心に数多の傷を追わせていくと、やがてオークは立つこともままならなくなり、ズシンと倒れ込んでしまいました。


「ケータ! 気を抜くのは早いですネー!」

「分かってるよ」


 ギプスの注意を聞いて、ケータは、いつの間にやら放り投げておいた棍棒を拾いに行きました。そして、オークへ頭の方から近づくと、オークの全身を注意深く観察してから、オークの頭めがけて棍棒を振り下ろしました。


 ゴン!

「ブギィ!!」


 ケータの棍棒攻撃がオークの頭部に当たると同時に、オークが棍棒を振り回してきましたが、ケータは、警戒していたため、余裕を持ってすぅっと身を引いて躱しました。


「危ない危ない、慎重にいこう!」

「ハッハー! いい心がけですネー!」


 その後も、ケータは、オークの攻撃を警戒しながら、ナイフよりもリーチの長い棍棒で、オークの頭を何度も何度も殴りつけてゆきます。


 次第にオークの動きは緩慢になり、ほとんど動きが無くなると、オークはボフっと霧となり、魔石を落として消えてゆくのでした。


「ふう、疲れたー」

「良いトレーニングになったですネー!」


「そうだねー。でも、時間が掛かり過ぎだよー」

「ハッハー! もっと筋トレ頑張るですネー!」


 やっとのことでオークを倒すことが出来たケータは、やり切ったという顔をして、オークの魔石を拾いながらも、倒すのに時間が掛かり過ぎだとぼやきました。時間が掛かれば、ほかの魔物がやって来る危険もあるでしょうから、ケータの懸念も妥当なところです。


 しかし、時間が掛かったとはいえ、ケータの身長の倍以上あるオークを倒したのですから、たいしたものです。今のケータであれば、ゴブリンなどは棍棒の一撃で倒してしまうでしょう。それだけケータは成長したのです。


「あー、このわらじシューズも、そろそろダメだなぁ」

「ハッハー! 新しい靴を作るですネー!」


 疲れて地面に座り込んだケータは、自分の足元を見て、ぼやきました。宝箱から最後に靴が出たのは、もうずいぶんと昔の事で、足が大きくなって履けなくなってからは、自分でわらじを編んで履いているのです。


 さっそくとばかりに、ケータは、その辺に生えている下草から、丈夫そうな草を選んで集め、わらじを作り始めました。


 もうかなりの数のわらじを作って来たので、ケータはわらじ作りがかなり上達していました。わらじ職人と言ってもいいほどの腕前で、手慣れた手つきで、あれよあれよという間に立派なわらじを両足分作ってしまいました。


「うん、いい感じだな」

「ハッハー! さっそく筋トレするですネー!」

「おう!」


 新しいわらじの履き心地を確かめて満足顔のケータは、ギプスに促されるまま、上機嫌で筋トレを行うのでした。

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