第11話 その日を迎える為に頑張る希

 屋敷中の者がユーファネートは変わったと知り3週間が経っていた。わがままはなりを潜め、それどころかように精力的に学んでいる。


 あれほど嫌がっていたダンスや礼儀作法は完璧に仕上がり、ライナルト王国の歴史や経済だけでなく、他国の情勢や薬草学に錬金術だけでなく様々な言語も勉強をしている。


 言語はユーファネートのスペックを理解している希が、ゲーマー魂に火がつき、どれだけ習得できるか試しているからであった。


 それ以外には魔法学に力を入れており、父親のアルベリヒに頼み込んで新たな家庭教師を雇っていた。この世界では15才になれば教会へ行って、自身の属性を確認するのが普通である。


 そのため属性が分かるまでは、魔法の勉強を後回しにする。アルベリヒはそう伝えて、しばらく待つようにと言ったが、希はゲームでユーファネートが持つ属性と魔力量を把握しており無理を通してもらった。


 そんな希が魔法陣に魔力を注いでいる。


 家庭教師から出された魔力循環をする宿題であったが、希はあっさりとクリアしており、暇つぶしに水の魔法陣に魔力を注いでいた。そして魔力を注ぐのを止めると大きく伸びをする。


「セバスチャン」


「ご用意出来ております。今日のおやつはピーナッツチョコレートです」


 セバスチャンに声をかけた希だが、テーブルの上にはすでに紅茶とチョコレートが置かれており、いつでも飲める適温で紅茶が置かれていた。


「ふふ。ピーナッツチョコレートとは気が利くわね。さすがは私のセバスチャン」


「褒めて頂き光栄でございます」


 希は椅子に座ると紅茶を一口のむ。鼻から通り抜ける香りはフルーツのようであり、一緒に入れたハチミツの甘さと紅茶が身体を駆け巡る。


「うぁぁ。五臓六腑ごぞうろっぷに染み渡るー」


 胃を包み込むような温かさが広がり、希は幸せそうな顔になる。魔力を枯渇寸前まで追い込む事で、魔力量がアップするのを希は知っており、普段から魔力を限界まで使うようにしている。


 だが、ストイックな希の行動はセバスチャンからすると心配でしかなかった。また高熱で倒れたらどうするのか? そう言いたげな視線を希に送っている。


「少しお休みください。今からこんなに魔法の勉強をされるとは、なにかお考えが――申し訳ございません! 私ごときが気にするのは失礼でした。ただ、ユーファネート様のお身体に何かあればと心配しております」


「ふふっ。ありがとうセバスチャン。大丈夫よ。私なりに考えがあってのことだから。楽しみにしておきなさい」


 自分を見上げるように目を潤ませ、全身からサボンの香りを出しているセバスチャンは危険な色気を出しており、希は軽く微笑み問題がないと伝えながらもなんとか自制をしていた。


 希としてはゲームの知識を使った能力向上であり、得意属性のレベルアップに魔力量の増加を出来る限り行いたいと考えている。お陰で魔力は順調に増えており、満足がいく結果となっている。


「心配してくれているのね。本当にセバスチャンは優しい子だわ」


「私はユーファネート様の忠実なる執事で御座いますので当然です」


 顔を赤らめモジモジするセバスチャンとの会話も終わり、希は気分転換にと厨房へ向かう。そこでは来週に来訪するレオンハルトへ提供する料理の献立が考えられていた。


 そんな静かな戦場となっている厨房に、希は気にせずに軽やかに入っていく。突然の部外来訪者に料理長が怒鳴ろうとしたが、ユーファネートだと分かると、満面の笑みに浮かべて出迎えた。


「どうかされましたかユーファネート様?」


「献立は出来た?」


「ご指示のあった薔薇と落花生を中心とした料理を考えておりますよ。それにしてもユーファネート様はこのような調理方法をどこで学ばれたので? 私は落花生を使うなんて思いもつきませんでした」


「本で得た知識よ。まあ、これから色々と献立は思いつくからよろしくね」


「楽しみにしております。丁度良かった。こちらが殿下へ提供する献立です、ご確認頂けますでしょうか?」


 調理台の上に並らぶ料理を見て、希は満足げに頷く。薔薇を散りばめたサラダに始まり、ライナルト侯爵領で特産の肉がふんだんに使われている。また過度な味付けはせず、素材を活かした内容になっていた。


「流石は料理長だわ! ここまで昇華させてくれるなんて」


「ありがとうございます」


 希の賛辞にすました顔で答える料理長だが、鼻の穴は大きく膨らんでおり、嬉しさを隠せていなかった。


 料理には落花生がふんだんに使われており、前菜のサラダは茹で落花生が散りばめられ、各料理には砕かれた落花生が振られ、ピーナッツバターや落花生を砂糖やバターで絡めた物も並んでいる。


 これらの料理はすでに侯爵家の面々に提供されており大絶賛であった。


「家族があれほど喜んでくれたから殿下にお出ししても大丈夫そうね」


「奥様も領都で高級レストランを出店されるとおっしゃられておりました」


「さすがはお母様ね」


 希は母親のマルグレートが事業を始めると聞いて驚くが、即座に行動に移したくなるほど希が考えたレシピは斬新であり、侯爵家の名が高まると認めたからであった。


◇□◇□◇□


 希が行った中古品販売は大盛況であった。その販売額を決めた方法がオークションだと聞いたアルベリヒは、慌てて王都に連絡をする。オークションは許可制であり、無許可は処罰対象になるからであった。


 その為、娘が行ったのはチャリティー事業であると王家には報告し、売り上げの一部は孤児院に寄付される。そして王都に連絡し、不要品の回収事業を始めるよう指示をだす。


 それによってユーファネートの行動は正当化され、また王都で回収された不用品はライネワルト侯爵領へ送られて継続的なオークションが解されるのであった。


「流石はお父様ね。確かに新規事業をするにあたって、オークションの購入は顔を覚えるのには役に立つとは言ったけど……。まさか競って金額をつり上げるなんて思わないじゃない。ゲームではお小遣い稼ぎだったし――」


 希は君☆シリーズの「君と常に儲ける☆ フトコロを温かくするのは誰だ!?」で主人公が自宅の不要品を売るイベントがあったのを思い出したのだ。そのイベントをちょっと借用して実行したのである。


「あのゲームの時は好感度を上げたレオンハルト様が剣を持ってきてくれて『古くから倉庫にあった剣だが構わないだろう』てなって、『それって国宝!』とネットで総ツッコミがあったわよね」


 ゲームの内容を思い出し希は微笑む。オークションのお陰で思った以上のお金が用意出来た。これで事業が始められる。商人達と詳細を詰めており、アルベリヒの了承の元、領地の一部を落花生お試し特区として整備している。


「これで落花生が軌道に乗ったら、もっと色々と展開をしないと。セバスチャンもそうだし、お兄様にも貢ぎたい。それに来週にはレオンハルト様がやってくるわ。もちろんレオン様にも色々と用意しないと。推し活がはかどるわー」


 希の最推しであるレオンハルトとついに会える。早く会いたい気持ちと、気に入ってもらう為に頑張らないといけない。そんな思いで、希はレッスンに力を入れるのだった。

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