第14話 メイド対決

 土曜日になった。

 本日は学校が休みのため、俺たちはてつだいをしていたのだが……今日は一段に父さんが変だった。

 まず、朝の9時になると、瑞希は店に到着する。

 本日から、土日だけこの店のバイトに入ることになったのだ。

 そんな美少女が二人いることに興奮した父さんは奇行に走ったのだ。


「さあ! 二人とも! メイド服に着替えて!」


 父さんは興奮状態でメイド服の二着を取り出す。

 マリと瑞希にそのメイド服を着せようとしていたのであった。


「父さん! メイド服は本気だったの!」

「当たり前だ! 男に二言はねえ!」

「そのセリフ。もっとかっこいい場面に使ってよ!」

「男はな。譲れないところがあるんだよ!」

「絶対、今の状況ではないよね?!」


 俺はそう突っ込むと、父さんはさあさあ、二人とも、この服を着て頂戴、と俺を無視して二人に寄り添う。

 本当に何を考えているのか、俺は父さんをぶん殴りたくなったのだ。


「マリ、瑞希。父さんのことを無視していいよ」

「いいえ。メイド服は可愛いので、着させてもらいます!」

「本気?」

「はい!」


 俺が尋ねると、マリは全肯定する。

 この子の頭はお花畑かな? メイド服だぞ? フリフリとした服装でお客さんの前を奉仕するのだぞ? 嫌にならないのか?

 と、俺はそう考えていると、マリは目をキラキラとしながら、メイド服を父さんから受け取る。


「瑞希はどうする?」

「わ、わたしだって、これくらい着れるわよ。ここでバイトするにはこの服装を着るわ!」


 瑞希は顔を真っ赤にしてから、そのメイド服を受け取る。

 心の中ではどこか恥ずかしいのだろう。けど、バイトをすると言い始めた彼女は今更、辞めるだなんて言えないのだろう。


「じゃあ二人共! 着替えて!」


 父さんは喜んで、そういうと、二人は店の裏に消える。

 店の裏は休憩室になっている。そこは椅子と鏡が一つ置いてあるだけだ。

 小さなスペースだけど、着替えるだけらそこまでスペースを使用することはないだろう。

 しばらくすると、二人がメイド服の姿で出てきた。

 二人のメイド服はあっぱれだ。ワンピースにフリルがたくさんついている。それに、最後はエプロンのようなものが組み合わせている。一般的のメイド服だ。

 マリは胸が大きいため、出るところはちゃんと出ている。

 思わず、俺はその部分を意識して、顔を背けてしまったのだ。

 

「二人共! 似合っているねえ!」

「ありがとうございます! 誠一さん」

「ふ、ふん。わたしにかかれば、こんなものよ!」


 マリは体を翻し、メイド服のフリルする場所を見ると、笑った。

 その笑みはあまりにも美しく、俺をどきっとさせてしまったのだ。


「春樹! 二人の服装について感想はないのかね?」

「え?」


 父さんはそういうと、俺は素っ頓狂になる。

 いきなり話題を振ってくるから、俺は対処しようがなかったのだ。

 ちらっと、もう一度マリの方に目を向ける。

 彼女は上目使いで俺の方を見つめる。

 胸元が見える! 白い部分がちゃんと見える!

 俺は慌てて、顔を背けて、彼女を褒め出すした。


「マリ。似合っているよ。すごく……」

「いやった! ハルキさんが褒めてくれました」


 マリは小さく飛び上がり、喜び出す。

 たゆんたゆんと胸の部分が揺れ出した。

 俺はその目線を逃げて、瑞希の方を眺める。

 瑞希の胸はまな板のようなものだから、安心感が得られる。

 そんなことがバレたのか、瑞希はジト目で俺に感想を尋ねる。

 

「で、わたしの方は?」

「あ。うん、似合っている」

「なんだか、心がこもっていない」

「気のせいだよ」


 俺は口笛を吹き出す。けれど、口笛をしたことがないので、変な音が口から出ただけの仕草だったのだ。

 二人は着替えたところで、仕事はあまりないのだ。

 なぜならば、お客さんがいないのだから。


「で、どうするの? 父さん。マーケティングって、メイド服を着ただけではないと思うよ」

「ノンノン。マーケティングはこれからです」

「どう言うことだよ?」

「二人には大事な仕事があります」

「大事な仕事?」

「そう! それはビラ配りだ!」


 父さんがそう言うと、近くの机から大量のビラをぼんと置いてみせる。

 いつの間にこんなに大量なビラを作ったのだ。


「君たちにはこのビラを配ってもらう」

「ちょ、ちょっと待って。それってメイド服姿で?」

「当たり前だ。店の宣伝を兼ね備えて、ビラ配りだ」

「うちはメイドカフェじゃないぞ!」

「喫茶店にメイドがいてはいけないルールなんてないぞ!」


 逆キレされた。

 一体、何を考えているんだ。このエロカッパは!

 気が重いと感じながら、俺は二人に目線を送る。


「なんだか、楽しそうですね!」

「だろ? 仕事は楽しい方がいいじゃないか」


 マリはなんだか嬉しそうにして、やる気満々ではあったのだ。

 父さんの悪ふざけに付き合う必要はないのにな。

 その反対に、瑞希というと。


「ば、ばかじゃないの! メイド服でビラ配りなんて!」


 と、どこか納得がいかない様子でいたのだ。

 そりゃそうだ。いきなり初日から、メイド服を着せられて、それも店の外でビラ配りだなんて、納得がいく訳がないのだ。


「じゃあ、対決だ!」

「対決?」


 俺は首を傾げると、父さんは何かしらの紙を取ってくる。

 それは長方四角形の紙。なんかのチケットのような長方四角形だ。

 一体、それはなんなのか? 気になった俺である。


「じゃん! 春樹くんを一日独占チケット! 勝者にはこのチケットをプレゼント致します」

「はあ?」


 思わず、素っ頓狂の声をあげる俺がいたのだ。

 おいおい。そのチケット。聞いていないぞ。一体、なんのチケットだよ。俺を独占チケットって、子供じゃあるまいし、瑞希が欲しがる訳がな……


「ほ、欲しいわ!」

「瑞希!?」


 俺は瑞希の声をかけると、彼女はあ、と顔をしがめてからそっぽを剥きながらこう語る。


「べ、別に春樹のためじゃないわよ。覚えておきなさい」


 それは本当に欲しがっている人のセリフだとは思わない。

 瑞希は情緒不安定だな。と、俺はそう思ったのだ。

 はあ、と俺はため息を吐き出すと、マリの方を眺める。

 彼女の瞳は輝いていた。どうやら、そのチケットが欲しいのだろう。

 お前もかよ、と思わずツッコミを入れたかったのだ。

 そんなことは置いておいて、俺は父さんの方に顔を向けてから質問を投げる。


「で、父さん。対決って何をするの?」

「そうだな。このビラを最初に配り終えた人が勝者ということにしよう。丁度100部刷ってあるから一人50部配れば終わる。このビラを人の手に渡すことだ。ポストの入れるのは禁止だ。人で手渡しすることで1カウントになる。それを先に50カウントしたものが勝者だ」


 父さんはビラを2束に分ける。丁度五十枚になっているのが見れたのだ。

 瑞希とマリはそれを受け取りると、ビラを見る。

 そのビラはうちの喫茶店、喫茶店ラッセルの情報が記載されている。軽いメニューと電話番号に住所がちゃんと記載されている。写真もバッチリと載っていた。

 いつの間にこんなものをやっていたんだ? このクソ親父だ。

 

「じゃあ、スタートだ」


 父さんがスタートのあいずをすると、二人は店を後にしたのだ。

 猛スピードに走っていく二人。

 負けてはいけないとという意気込みを二人から感じる。

 けれど、メイド服の格好で駆け抜けると危ないような気がしたので、俺は彼女たちを観察しに行こうとする。


「じゃあ、父さん。俺は二人の状況を見てくるよ」

「あいよ」


 父さんはそ軽く返事すると、煮干しを用意する。

 どうやら、雉丸にご飯をあげようとしているのだ。

 俺は店を出ると、二人を探す。幸い、二人共スマホを手にしているから、二人の位置情報を共有するアプリを開き、二人の居場所を確認する。

 まず、俺が向かったのは瑞希のところの駅前だ。

 そこには瑞希がいる。

 駅前のこの時間は人通りが多く、住宅街を隣接しているからだ。

 特に駅を利用するのは家族連れの人たちだ。

 顔が広い瑞希はそれを狙ってビラを配るのだろう。


「よろしくお願いします! 喫茶店ラッセルです!」


 瑞希は元気よく、愛想良くてビラを配っていた。

 大衆が瑞希を珍しいものを見たかのように彼女を眺める。けれど、ビラを受け取ろうとしなかった。

 きっと、新たな詐欺か選挙のビラだと勘違いされているのだろう。

 どうやら、難航しているな。

 そんなことを考えていると、瑞希はとある人に声をかける。ベビーカーを押した女子だった。


「あ、山田さん。こんにちは!」

「あら、瑞希ちゃん。こんにちは。その制服似合っているね」

「ありがとうございます! あ、これ受け取ってください。わたしのバイト先です」

「あらまあ」

 

 山田と呼ばれたおばさんはそのビラを受け取り、店の情報を眺める。


「あら、こんな近くにこんないい喫茶店があるのね。初めて知ったわ」

「はい! コーヒーが美味しい店なので、よかったら来てください」

「ふふふ。時間があれば行きますわ」


 そういうと、山田と呼ばれたおばさんはその場からさって行く。

 どうやら一人目にしてはいい具合だったのだ。

 この調子でいけば、昼くらいには全部配り終えるのだろう。


「瑞希は心配ないか」


 俺は胸を撫で下ろすと、スマホを取り出す。

 次はマリの位置情報を表示するようにアプリを開く。

 マリは商店街の方にいたのだ。駅の隣接している商店街にマリの位置が表示される。

 俺は急いでその位置へと移動する。

 

「いた……」


 マリを見つける。

 彼女は一生懸命にビラ配りをしていた。

 だが、なんだか雰囲気がちょっとだけ異様なのだ。

 マリがビラを配っていると、一人のおばさんが彼女に近寄る。


「喫茶店ラッセルです。よろしくお願いします」

「あら、マリちゃん。こんにちは」

「こんにちは。上田さん」

「ふふふ。仕事中かい?」

「はい! バイト先でビラ配りをしています」

「あら? 大変そうだね。一枚もらっていくわ」

「ありがとうございます!」


 上田さんと呼ばれたおばさんはそのビラを一枚を受け取るのだ。

 上田さんが去ると、またも一人の少年がマリに気づき、やってくる。


「あ! マリだ!」

「こんにちは。健太くん」

「何してんの?」

「ビラ配りしているの」

「へえ。じゃあ、一枚ください!」

「はい。どうぞ」

「ありがとう! マリ」


 少年はビラを受け取ると、嬉しそうにビラを見ながら去っていく。

 それから、また声をかけられるのであった。以下その繰り返しになる。

 その光景を見ていると、俺は思わず首を傾げてしまう。

 あれ? マリってこんなに顔が広い人だったのか?

 この一週間。一体、マリはどれだけ人の付き合いをしているんだ?

 放課後。俺とマリは別々で帰宅することになっている。その際にどれだけの人付き合いをしているのか、俺にはわからなかったのだ。


「まあ、順調そうで何よりだ」


 俺はそう呟き。帰宅する。

 二人は心配なさそうだ。あとは誰か先に全部配るかを待つだけだ。

 見たところ、マリの方が優勢ではあるが、人通りが多い駅も侮ってはいけないな。瑞希が全部配る可能性もあるのだ。

 そう考えていると、俺は喫茶店ラッセルに着く。


「ただいま。父さん」

「おう。おかえり。春樹」


 父さんは猫じゃらしで雉丸と遊んでいたのだ。

 俺は厨房に入り、コーヒーの準備をする。二人の帰りを待った。

 そして、しばらくすると、扉が開く。


「ただいまです」


 マリだ。

 どうやら、全部のビラ配り終えたのだ。勝者マリだ。

 

「おかえり。マリ。熱いコーヒーでもどうぞ」

「ありがとうございます。ハルキさん」


 俺は熱いコーヒーをマリが座っている席の前に置く。

 マリはそのコーヒーを手にして、ずるずると飲み出す。

 それからしばらくして、すぐに喫茶店の扉が開かれた。


「た、ただいま」

「おかえり瑞希」


 瑞希は汗をかきながら帰ってきたのだ。

 どうやら、走ってきたのだろうけど、間に合わなかったのだ。


「え、わたし。負けたの?」

「そうみたいだね」

「く、屈辱だわ!」


 がーん、と瑞希はそう言いながら倒れ込む。

 と、父さんはニヤニヤすると、春樹一日独占チケットを高く上に上げる。


「勝者! マリくん!」


 勝利者宣言を上げるとともに、父さんはそのチケットをマリへと渡す。

 マリは喜ぶようにはにかむと、お礼を言い出す。


「ありがとうございます。誠一さん」

「おう! あいつをこき使っていいぞ!」

「父さん! 変な日本語を吹き込まないでよ!」


 俺は注意をすると、父さんはワハハ、と笑い飛ばす。

 この人、変な日本語をマリに教えていないのだろうか、と心配になってしまうのだ。

 俺は大きなため息を吐いていると、瑞希はどうやら悔しそうな表情をにしていた。


「ぐ! わたしも欲しかったわ!」


 瑞希は涙を流しながら、机にうつ伏せになっていた。

 え? そのチケット本当に欲しいの?

 俺を一日独占できるチケットだなんて、本人の同意じゃないけど。

 仕方がない。ここは埋め合わせをするか。


「瑞希。よかったら、一日独占ではないけど、休みの時何か付き合うよ」

「本当?」


 目を輝かせて、瑞希は立ち上がてって俺に顔を寄せる。

 顔が近いのだ。


「あ、ああ。瑞希も頑張ったからな」

「おしゃああ!」


 瑞希は何か雄叫びを上げるように喜ぶ。

 何をそんなに喜んでいるのやら。

 俺は疑問に思うが、まあ、彼女が喜ぶならいいだろう。

 

★★

追伸 次回からの投稿は毎晩0.00時です

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