第10話 焦り

 女性兵の呼び声に焦る二人。


「ヤバい、アオイがこっちに向かって来てる!」

「え~と、君の仲間って事だよね?」


「えぇ、私のもう一人の友人よ!」

 誇らし気に女性は語った。


「このまま帰ったら君は危ないよね?」

「しょうがないわ……言ったでしょう……どっちになろうと地獄って……」

 それは、諦めにも似た表情で力なく笑って彼女は語った。


(彼女のこんな顔を見たくないな……ヨシ!)

 ロキは、ミツキから離れて、地面に落ちている自身の銃で左の胸の下辺りを躊躇いなく撃ち抜いた。


「なッ!?」

 ロキの行動の意味が分からず、驚く彼女。

「大丈夫……命に関わらない所を……狙って撃ったから……これで……君は交戦したけど……ボクを殺したと……思われるはずだ……」


「だ……だからって!」

「ック……!ま……またね!」

「な、なにが『またね』よ……絶対に生きてなさいよ!次に合ったら文句言ってやるんだかね!だから……死んだら許さないから!バカロキ!」

 ロキはその言葉を聞いてニコッと笑って死んだフリをするのであった。


「本当に……バカ……」

 ミツキのそんな小さな言葉は、一陣の風と共に掻き消されたのであった。


 女性兵が銃声を聞き付けて慌てたように走って向かって来るのにそれほど時間は掛からず。

「ミツキ!ココにいたのね!大丈夫?」

「え、えぇ!なんとか無事よアオイ!」


「そう、良かったわ!ミツキが生きていてくれて!」

「心配かけて、ごめんね……」


「本当よ!……それで……その男と交戦したのね?……!?」

 女性兵は、その場の状況を一瞥して瞬時に何かを感じとった。


「えぇ、なんとか勝てたわ……」

「わかったわ、それより、ミツキも足をケガしてるようだし早く戻りましょう!」

「……そうね」


 ミツキに差し出しかけた手が止まり、ナニを考えたのかアオイと呼ばれた女性兵はロキの事を見る。

「……(敵だけと、一応感謝しておこう)ごめんミツキ、ちょっとその前に一応の生死確認はしてくるわね!」


 その言葉に慌てるミツキ。

「そ……そんなことしなくて、イ、良いんじゃないの?」

「念のためよ!」

 ミツキの静止も虚しく、アオイがロキに近づき、小さな声で囁いた。

「キミ、生きてるでしょ!幾つか言いたい事はあるけれど……始めに、ミツキの足の手当てをしてくれて、ありがとう!それと、交戦しても目撃者を殺したって事でミツキが咎められないように自分を撃ったのでしょう……敵であるミツキのことを守ろうとしてくれたことにも感謝するわ!」

 言いたいことを言った女性兵は、立ち上がりミツキの元に戻った。


「死亡確認が済んだし、戻ろっかミツキ!」

「え……えぇ、そうしましょう!?」

(バ……バレてない……よね?)

 アオイの満面の笑みに、戦々恐々になったミツキは、冷や汗をたらしながら彼女の言葉に同意したのであった。



               続く

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