第3話 不謹慎トーク。

「梶弟。無理するな、2限目もここに居ていいから」


 俺は情けなくふたりの前で大泣きした。正確にはまだ泣き止んでない。六花先生の甘い言葉がカサカサの心にしみる。


「そうだよ、もうすぐ休み時間だから、その間はベットで隠れてたら、誰にもわかんないよ? ねぇ、先生?」


 そうは言われても、俺の中の何かが許さない。こんな情けない姿、姉ちゃんに見せられない。大丈夫だ、大丈夫。考えないようにしよう。寝取られたなんて考えなければいい。


 今逃げたとしても、明日もある。いつまでも逃げてばっかじゃいれない日が来るなら、最初から逃げなければいいんだ。


 どんなに頑張っても寝取られた事実は変わらない。そう頭では思うけど、現実はそんな簡単じゃない。保健室を後にし佐々木と一緒に教室に戻る。


 教室に近付くと足が鉛のように重い。いくら言い聞かせたところで、心もやっぱり重い。俺は人生において、寝取られた時どうしようなんて考えて生きて来なかった。


「ねぇ、梶。このままさぁ、バックレようか(笑)いいじゃん、たまには」


「ありがとな、大丈夫。1限目もサボり付き合わせたんだから……口の中酸っぱいけど、頑張る」


「もう、無理しなくていいのに……朝はさ、何ていうか梶って裏サイトとか見なさそうだしさ、なんの準備もなく、あの状況に放り込むの可愛そうだなぁって、何ていうの? 母こころよ! なんちゃって。ごめん」


「全然。本音は嫌だけど戻るよ」


「戻るって⁉ 澤北に」


「あっ、教室な? なにを誤解してんの」


「いや、まさかアレ見て澤北とより戻すのかと……ちょっとびっくり。どうするの、実際?」


「わかんない(笑)さっぱり検討もつかないって感じ」


「許す確率は?」


「許す確率か……もう許してるっていうか、もう、そういうのじゃないだろ、アレ見たら……許すじゃないな、諦めるとか呆れるとかかなぁ


「別れる感じ?」


「気持ちでは別れたかな? アレ言い訳されても、なんかしんどい。早く過去形にしたい」


「六花先生が言うのも一理ありだよ」


「六花先生?」


「うん『恋を忘れるのは恋だけ』めちゃくちゃ不謹慎だけど」


「そうかもなぁ。でも、これだけ見事に寝取られたら駄目でしょ、男として見られないだろ。来世に期待って感じ」


 そう答えると佐々木は俺の制服を引っ張って窓際に連れてく。窓を開けたら風で佐々木のきれいなおでこが全開になる。


 金髪でよく見たら青い瞳をしてる。濃い青だから今まで気付かなかった。吸い込まれるような目をしてる。


「不謹慎トーク第一弾。澤北には梶は勿体ない。理由は今ここで言うような女子では私はない! でも断言する。見ての通り慎ましいの私(笑)」


「不謹慎トーク第二弾。私は割りかし梶はだと思ってる。寝取られて泣くのは別におかしいとは思わない、情が深いと思うよ」


「不謹慎トーク第三弾。正直、木田がムカツク! イケメンだから何してもいいのかって感じ悪い! なので、ざまぁをしてやりたい!」


 確かにそれはそうだ。ショックのあまり、そこまで考えが行き着いてなかった。俺が志穂と付き合っていることは、ほとんどの生徒は知っているはず。


 それを敢えて狙うっていうのは悪意しか感じない。しかも、コソコソと隠れるようにラブホに行くってことは、ふたりとも確信犯。


 佐々木が言うようにざまぁをしてやりたいが、実際どうやってやっていいかわからない。木田の彼女を同じように寝取るか? いや、そういうのは向いてないし、俺が出来るとは思えない。


 考えても思い浮かばないので、佐々木に『グー』を作って見せた。


「梶。暴力はダメでしょ、損だよ損! あのふたりにそんな価値ないって。そんな訳で不謹慎トーク第四弾! 私、実は1年の時木田に告られたんだ。三学期だからまだ、そんな前じゃない。もちろん即断った。でも、周りにはまだ執着あるみたいなこと言ってるらしい」


 イケメンの木田と佐々木なら見事なくらいお似合いだ。俺は木田のことはよく知らないが、女子に人気なのは聞いている。ただ、軽薄過ぎて一部の女子から毛虫のように嫌われてると聞く。


「不謹慎トーク最終弾。私と付き合わない? すっごく不謹慎なのはわかってるし、澤北のもう1つの顔も知ってるけど、それ言うと女が廃るので今は言わない。普通に勝負したい、どう?」


「どうって。寝取られるような男だぞ」


「寝取るより寝取られる方が断然いいよ、言ったけど澤北には梶は勿体ないって。傷心につけ込むのもなんだけど……」


「それがざまぁに繋がるのか?」


「繋がるんじゃないよ、繋げるの! 私と梶、結構合うと思うんだけど、みたいなセルフプロデュースしたりして(笑)」


「同情?」


「ノット同情! 機を見て敏ってヤツ。めちゃ恥ずいんだけど、梶のこと狙ってた(笑)絶対澤北のことだから梶大事に出来ないって思ってて」


「それって、女子的には……佐々木的にはどうなの? 捨てられてすぐ次に行くのって、嫌じゃない?」


「まず、ひとつ言うと澤北は梶を捨ててない。舐めてるよね、きっと元に戻れるって考えてる。キープしてるよ、アイツ」


「何のために? 木田がいればいいだろ、イケメンだし」


「見た目はね。でもヘタれよ木田って。心ミジンコだし。その点、梶は優しいでしょ? 優しいってのは貴重なのよ。それで澤北はその両方が欲しい。変わってないわ、まったく」


 中学からそうなんだ……わかんないもんだ。


「復讐に利用する感じになったら?」


「ハハッ、もし付き合ってくれるならふたりの復讐だからね? 復讐の共有! よくない? 私は裏切らないよ~嫌なら嫌って口で言うから(笑)」


 伸るか反るかなら、やってみるか。俺は佐々木の手を取ることにした。









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