(2)

 どどどどどどど……。

 そんな漫画チックな擬音でも聞こえて来そうな状況だ。

「何で? 何で? 何で? 何で?」

 連れが転んで倒れたのにも構わず、1人、走り去った女性がそう叫びながら、後ろ向きに走っていた。

 明らかに、前に向かって走る際の足の動かし方なのに、まるで、フィルムを逆回転したように……とんでもない速さでで後退を続けている。

「ぎゃあッ‼」

 床に転んだまま立ち上がれない女性の上を走る。

 ゴギャっ‼ ゴギャっ‼ ゴギャっ‼

 踏まれた女性の体から嫌な音が何回も響く。

 後退し続けている方の女性は……白目をむき、口から泡を吹いていた。

 どうやら、気絶しているのに、立ったまま後退だけは続けているらしい。

 それも、特に普段はスポーツなどをしていない人間が全速力で走るよりも速い速度で。

「怪我人です。救急車をお願いします……場所は……」

 笹塚は、ようやく、無線で連絡。

 後退している女性の様子は……手足をゆらゆらと動かしている……にも関わらず、とんでもない速度で後退を続け……。

「うわあッ⁉」

 たまたま近くを通りかかった、総理大臣と、それを囲むぶら下がりの記者達の一団が何かにぶつかったようにふき飛んだ。

 ただし「見えない何か」に。

 ……ぶつかった「何か」は不明。

 そして、空いた人込みの隙間を気絶した女性が後ろ向きに通り過ぎていった。

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