早く好きになってくれないと、死んじゃうんですが!?

とうふ

第1話:私が告白し続けるワケ

私、ロザリンド・アスールはこの物語の「」である。



生まれながらにして、一つ一つ綺麗に手入れされ輝く漆黒の髪の毛、目が合ったものを一瞬にして虜にしてしまうと噂の緋の瞳を持ち合わせ、万人を魅了する。

おまけに、幼いころから勉学・運動・教養、すべてにおいて成績トップクラス。

男女年齢問わず人望も厚く、先生方からの覚えもいい。




こんな完璧な人間を「」なんてどこにいるのか。




今日も今日とて、学校に登校するや否や、尊敬のまなざしの数々に痛みすら感じるほどである。

最近は日差しも強くなってきたというのに。

(私ってば、大変すぎるわ...)

ファンからのプレゼントで部屋の一部屋が埋まってしまったから今年からは断らないと。6年制の学校で1年次からこのありさまなのだから、2年次になった今年はどうなることやら。




そう思いを巡らせながら、迷うことなく足を運ばせたのは学校の人気のない裏庭。

別に学校をさぼろうなどとそんな理由ではない。断じて。

(この私がそんなことするはずがないでしょう。)










理由は簡単。私に本日、「恋人」ができるから。









まぁ、正確にはだし、いずれは婚約者・旦那様だけれど、そう違いはない。

あとやることと言えば、彼が来たら、告白して返事をもらうくらいである。



一歩一歩歩みを進めるたびに、きれいに手入れされた草花が上下に揺れる。

まるで私に祝福を与えてくれているとすら思えた。



足元に気を取られていると、そこに愛しい影が落ちた。

(彼だわ...)

瞬間的にそう感じた。






「今日は何用でしょうか、アスール嬢。」





少しハスキーの混じった、低く穏やかで心地よい声が私の耳を撫でる。

視線をあげた先にいた彼は、何度見ても美しいと思わざるを得なかった。

彼の名はヴォルフ・セーウ。この国の王太子だ。

何物にも染まらぬ美しい白髪に、すべてを見通してしまうようなまっすぐな翠の瞳。

強く気高く、しかし優しく穏やかな眼差しに何人の人が何度堕ちたことだろう。






「好きです!!!!!!!!!!!!!!!!!!」






「.............」






想いがどんどんあふれ出てくる。

この私が緊張しているのか、ときめいているのか、彼のつぶやきを聞き逃しそうになるほど、心臓がうるさい。






「私、殿下のことをお慕いしております。どうか、私とこいb「嫌だ」」












(........)

(........)






「こi「嫌だ」」



「え.....?」








「え?じゃないよね。もう何回目かなこれ。

さすがに僕も時間がそう取れない人間でね。何度も何度もやめてほしいのだが。特に最近は本当にたちが悪い。僕がただの告白の呼び出しには応じないことが分かったからか、周囲の僕への用事を全部引き受けて、それを伝えるついでに告白をしてくる。本当に何なんだね君は。」



彼はため息をつき、呆れを隠そうともしない。


まずい。いや、まずいとも思わずともすでに気づかれているとバレバレのものだっただろうが、ここまできちんと指摘を受けると本気で怒らせてしまった感がすごい。少し手が汗ばんできた。



「い、いやぁ...あのですねぇ...」

「そこで言いよどむのだったら、もう本当に君に言うことはないんだが。はぁ...。早く本題に入ってくれ。」

「......」



私の中ではむしろここまでが本題だったのですが。



「アスール嬢。」

「....っ。はい。すみません。」



仕方ない。諦めるしかない。



「先日の乗馬訓練で数人がけがをしたようです。幸い大事には至らなかったようですが、早急に先生方が対策を取りたいとのことで、殿下に意見をお聞きしたいとのことです。

また、数か月後のオータムパーティーにおける計画をそろそろ進めたいと複数のクラスの学級委員から伝言を預かっております。加えて___」



私は昨日の夕方から朝まで、できる限りの情報網を駆使し集めたものを殿下に報告していく。

殿下は生徒会長を担っているということもあり、毎日が多忙だ。

自身の用事のほかに、周囲の沢山の仕事を請け負ったり、相談に乗ったりしている。

私はここ最近それをというわけだ。



「以上が報告となります。」

「.....................すまない。すまないよ。先ほどは適当にあしらって悪かったね。君の情報収集力、マネジメント力は本当に優秀すぎるよ。なぜ、なぜなんだ。あの意味わからない告白がなければ多分僕は君を側近の一人として考慮に入れてるよ。」



先ほどの呆れた表情とは打って変わって、というか呆れを通り越してうなだれた表情になってしまった。

殿下は告白を受け入れようとしないものの、私の能力を褒めてくれることは多かった。今回は殿下のお仕事の何不自由なく遂行するため(という名目で告白するため)に、皆に聞き込みをしてまとめただけだ。

存在が惜しいと言われるほど(そこまでは言ってない)、褒められるとさすがに照れる。


(ほ、褒められた!嬉しい!しかし、ここでそのことを前面に顔に出しては淑女の風上にも置けません。ましてや、殿下はマナーや礼儀を重んじる方。嬉しくても絶対に顔に出してはダメよ!ロザリンド!

冷静に。冷静に反応するのよ。

褒めてもらう中で自然とYESの返事を引き出しましょう。)




「殿下。違います。何度も言っているじゃないですか、欲しい言葉はお褒めの言葉ではありません。私はあなた様の恋人に「嫌だと言っている。」」

「...........。」

「.......................................そんな上目遣いをしてもだめだ。」

「....チッ」

「聞こえているぞ。」



キーンコーン



朝のホームルームの始まりのチャイムだ。



「では、授業が始まってしまうので、僕はここで失礼する。先ほどの報告、一つ一つ細かく内容を把握したいので資料があればo「資料作成しておりますので、後ほど生徒会室に持っていきますね」」

「..........................あぁ、よろしく頼むよ。」



再び呆れた表情に戻ってしまった殿下は、目につきそうな長めの前髪をかきあげながら、少し急ぎ足に去っていった。

ロザリンドはその後姿が見えなくなるまで、その場に立ち尽くしていた。




(.........今日も、ですわね。)





ここまでくるともうお気づきの人もいるかもしれないが、

ロザリンドはここ5年程、ヴォルフ・セーウに対して毎日告白し続けている。


彼は容姿はもちろんのこと、誰にでも優しく決して人を見た目では判断しない崇高な人物だ。しかし、決して優しいだけではない。この国は長く後継者争いが続いており、昔ほどではないがその争いが残っている。彼の信念やルール、礼儀に反するものは必ず罰してきた。時に人を殺すこともあっただろう。

しかし、私はその、どんな逆境であろうと信念を貫こうとする姿が好きだった。尊いものだった。

彼は私の憧れであり、大好きなひとだった。


したがって、ここ数年こうして通い詰めているわけだ。

彼が大好きだから、彼とお付き合いしたいから、彼に振り向いてほしいから。


まぁ、ここまではあのお方に思いを寄せるその他多数の人たちと同じだろう。

私は他の方々とは全く違う重いそれはそれは重い感情を抱えているつもりだが、本人には見分けのつかないくらいの差、どんぐりの背比べだろう。




しかしながら、私とその他多数の人達を分ける決定的な理由が実は他に一つある。

それは、



「ヴォルフと付き合えなければ死ぬ」



ということである。

正確には「推しと付き合えなければ死ぬ」というものだ。






この話をするにはロザリンドが、ロザリンド・アスールではなかった時代の話、彼女の前世であるだった時代のことから話す必要がある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

早く好きになってくれないと、死んじゃうんですが!? とうふ @tsuka14

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ