4-1:こんな所でマトモな娯楽を求めるな

 俺に濡れ衣を着せようとした奴が玉猪龍ユーズーロンの下の奴だと判明してから数日。相も変わらず、恵美須屋に依頼は来ない。今の所、件の奴に関しても進展は無し。今の状況をありのまま言うのなら、死ぬ程暇なのだ。

 本来の俺みたいな歳の奴がやる事と言えば、勉強なり進路決定なりと色々あるのだが、正直言ってその辺に関してはもうこの際どうでも良くなってきた。だって、そもそもどこの大学に行きたいとかが決まってるワケでも無いし、かといって、無難に企業に就職したいと思っていたワケでも無い。むしろ、非刺激的だった日常が、一転して刺激過多な日常になったと言ってもいい。が、その刺激過多が日常になりすぎた結果、こういう時に生まれる暇というと、そこらで暴力騒ぎでも起こらないかなぁ、とよろしくない事を期待しちゃうくらいの暇なのである。

 恵美須さんも件の奴の情報収集で色々とあたっているらしい。電話をかけまくっている。・・・ん?電話?そういや俺スマホ持ってるけど、なんで新世界に来てから使えないんだ?目の前で思いっきり電話かけてる人が居んのに。

「・・・なんや東、暇そうやな。」

「ん?なんだ、旭か。」

 はて?と思っていた俺に旭が声を掛けてきた。俺は恵美須屋の2階に住まわせてもらっているが、旭は別で個人部屋をもっているらしい。

「丁度いいとこに来たな、お前。」

「なんや丁度て。なんか進展でもあったんか?」

「いや、特に。」

「ほななんやねん。」

「俺さ、ここに来てからずっと自分のスマホ持ってるのに使えないんだよ。ホレ。」

 といって、スマホの画面を見せる。何とか充電は切れずに済んでいるが、電波に関しては”圏外”と書かれているだけである。

「あぁ、知らんのか、お前。」

「知らないから訊いてるんだろうが。」

「まぁそうか。」

 旭があくびしながらそう言った。他人事だと思ってテキトーに返事しやがって・・・


新世界ここの特異性は、恵美須さんからも聞いてるやろ?」

「あぁ、地下に広がる、いわば異世界の様なもんだとは。」

「まぁまず、シンプルに考えて、ひとつの世界から、もう一つの別世界へ電波引いとる奇特な携帯会社は無いわな。」

「そういう理屈はまだわかるんだが・・・あんな風に、この世界でも電話を使ってるの、フツーに見るんだが。」

 と、俺が恵美須さんを指さして言った。すると旭が「アホやなぁ」と笑いながら言ってきた。旭のこういう言葉には慣れてきた。

「ンなもん、さっきの理屈わかってんねやったらアレもわかるやろ。」

「・・・とすると、新世界には新世界で独自の電波がある、と。」

「そういうこっちゃ。ちなみに、表の世界から来たお前みたいなビジターの携帯は新世界では使われへん。仮に、ここの電波を借りたとしてもや。」

「それはなんでだ?」

「なんぞのはずみで情報が洩れるかも知らんやろ?せやからまぁ、いわゆるジャミングいうやっちゃな。そういうのがかかっとんねん。ここで連絡取りたかったら、ちゃんとここの携帯会社で借りるこっちゃな。」

「あるのか、携帯会社。」

「あるよ。・・・マトモなとこはないけどな。」

 そんな事だろうとは思ったよ・・・。

「シュコー・・・なんやお前ら、暇そうやんけ・・・シュコー・・・」

 連絡が終わったのか、恵美須さんがこっちの会話に混ざってきた。

「まぁ暇っすね。」

「ついでに言うとアタシも暇や。野暮用やったらあるけどな。」

「野暮用?」

「あぁ。”コレ”の用事でな。」

 といって、旭が指で銃の形を作った。どうやら、先の件を受けて作ってもらってるらしい。・・・抜かりないんだか、なんなんだか。

「シュコー・・・まぁ、お前はそっち優先してええで・・・こっちもそない・・・シュコー・・・進展はないからな。」

「おっしゃ、わかった。ほな行ってくるわ。」

 と、旭が息を弾ませて行った。去り際に、「仮に依頼が来ても東に任せといてー!」と叫んで。一任されてもなぁ・・・。

「・・・で、依頼はあるんですか?」

「シュコー・・・・・・・・・・・・・・・無いよ。」

 無いのか。勿体ぶらせやがって、無いならそんなに溜めて言う事も無いだろ。

「・・・じゃあ、何して過ごしましょうかね、俺。」

「ンなもん・・・シュコー・・・自由や。」

「自由・・・?」

 なんだかんだ、新世界にきて初めての自由じゃないか?

「まぁ・・・シュコー・・・これを機に・・・新世界の地理を把握しとけ・・・」

 確かに。歩き回ったりするのも良いだろう。だが・・・

「そうしようとは思うんですが、それだけだと面白くないので・・・」

 やっと新世界を見て回れるんだから、色々なものを見ておきたい。・・・観光名所とか。無いと思うけど。

「なんや・・・シュコー・・・正直に言いや。」

「正直に・・・というと・・・?」

「遊びたいんやろ?・・・シュコー・・・・・・まぁええやろ。」

 お、恵美須さん話がわかるぅ!

「・・・こんだけやで。」

 と、1万円が6枚、巻かれて輪ゴムで留められたのを手渡された。こんだけ・・・って、6万もあるじゃないっすか。


「・・・ちなみに、オススメとか・・・?」

「あぁ・・・シュコー・・・せやなぁ・・・・・・シュコー・・・」

 俺が訊くと、恵美須さんが考え出した。

「・・・・・・そんだけ持ってるんやったら・・・シュコー・・・丁度良え・・・”アソコ”は行っといて損は無いか・・・シュコー・・・」

「アソコ?」

 お、新世界にも観光名所があったか。ではでは、俺はそこに・・・

「パチンコ行ってこい。・・・シュコー・・・・・・」

「パ!?」

 今恵美須さん、なんつった!?パチンコ!?パチンコってアレだよな?”玉撃つヤツ”じゃなく、”玉打つヤツ”の方だよな?この場合。

「なんやお前・・・シュコー・・・パぁ抜いて下ネタか。」

「い、いや、そうじゃなく!俺、まだ18で!」

「18やったらええやんけ、別に・・・シュコー・・・どこ行くにしてもなにするにしても・・・シュコー・・・自己責任じゃ。」

 そんな投げやりに言われましても・・・。

「というより、新世界のパチンコ屋ってマトモなんです?」

「シュコー・・・ンなワケあるかい。」

 じゃあ薦めるなよ・・・もっとあったろ、選択肢・・・。


「じゃあなんでそこを薦めたんですか。」

「こっからもっと西の方・・・シュコー・・・”ごったがい”って所に・・・一軒、大きいのがある。・・・シュコー・・・そこの元締めは・・・”玉猪龍”や。」

「!」

 ここに来てその名前が出てきたか、玉猪龍。にしても、”ごった街”、ねぇ。

「ここに来てもギャンブルに溺れる奴は・・・シュコー・・・皆ごった街に行きよる。あそこには・・・シュコー・・・違法やろうがなんやろうが・・・関係無しのカジノなりがあるからなぁ。」

「だからと言って、俺を薦めても仕方ないのでは・・・?」

「ちゃうやんけ。・・・シュコー・・・まだお前は、玉猪龍の事を毛ほども知らんやろ?せやから・・・シュコー・・・ちょっとは知っとけ言う話や。」

 なるほど、確かに一理ある。玉猪龍の経営状態を見てみれば、どんな風に金が回ってるのかもわかる・・・かも知れないしな。

「・・・で、その店の名前は?」

「”カジノパーラー・クリーナー”や・・・シュコー・・・まぁ十分気ィつけて行って来い。」

 く、クリーナーって・・・こっちの財布を綺麗にしますよ、ってか。嫌味な名前だな畜生め・・・。

 でもまぁ、今の所そこに向かうしか無さそうだよな。他にやる事無いし。・・・パチンコは打たないにしても、まぁ見て回ってみるか・・・。

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