3-3:馬鹿は休み休み言うべきもので、休み休み聞くべきもの。
「・・・で?話とは何かね。」
なんだかんだで、事務所に通してもらえた。のは良いのだが、男の方も女の方も俺と旭を通すなりむすっとし始めた。まぁ最初からある程度むすっとはしていたのだが。
「お前ら、誰かに雇われて殺人鬼について調べてんだろ?」
「確かに。殺人鬼の事・・・と言うよりかは、君の事を調べとるんやけどね。」
強調してくるように言う。
「その事なんだが。俺は殺人鬼でもなんでもなく・・・」
「誰でも、皆最初はそう言うんや。」
男は立ち上がって言った。・・・流れ的に、また寸劇が始まるらしい。
「俺らが捕まえてきた奴ら皆、最初はそう言うた!せやけどや・・・せやけどや!せやけど、俺らが心を開いて・・・ちゃんと向き合って・・・目を見て説得したら皆!皆がや!皆がちゃんと罪を認めて自分と向き合い、更生への道を歩み始めたんや!」
男の寸劇に続いて、今度は女の方の寸劇も挟まる。
「ウチらの説得で更生の道を歩み始めた人らは・・・今や正義の徒!ウチらと共に、この新世界を守るヒーローに!」
「そんなヒーローを生み出したのが、この俺”
「このウチ”
「「名私立名探偵コンビ、”
2人のキメポーズがキマり、今にでもどこかからかパァーンとクラッカーでも鳴って、どこかからか紙吹雪が舞いそうな空間を作り出した。・・・なんとか言葉にしたものの、この際だからざっくりと言ってやろう。コイツら、相当な馬鹿である。
「・・・もういいすか。」
「おや、君も罪を認める気になったかい?」
「なんやったら、ウチが責任をもって自白の記録とったる!」
「いや、そうじゃなく。むしろ逆で。」
「逆・・・はぁ。君はまだ罪を認めへんのかね。」
「往生際の悪い子やわ、まったく・・・」
と言いながら、女の方・・・もとい、瓜破にため息をつかれた。ため息をつきたいのはこっちである。
「・・・おい、お前ら。」
「おや、君は殺人鬼のお供かな?」
「いや、案外共犯者かも知らへんで、歩くん。」
「・・・確かに。美生の言う通りかも知らんな・・・・・・待てよ?」
男の方・・・こちらももとい、喜連の方が急に考え出した。馬鹿なりに。
「確かに、今回俺たちが追ってる事件の犯人は、銃を使った男の殺害や。せやけど、そこに共犯者がひとりでも居ったら・・・そう考えれば、今まで見た目についてやらの詳細的な情報が流れてなかったのも頷ける・・・」
「つまり・・・?」
「今回の事件は単独犯やなかったんや・・・共犯者・・・そこの女子が、真犯人の顔を知る目撃者を消して回ってたんや!」
「・・・?」
旭が明らかな困惑を顔に浮かべ俺の方を見つめる。目なんか”?”になってやがる。気持ちはよぉくわかる。俺だって今、目が”?”になってるんだから。
「・・・歩くんの言う通りに違いない!そうじゃないと辻褄合わへんもん!うん!」
「つまり・・・君らはアレやろ?」
「アレ、とは。」
「俺の口から言わせるんか・・・君らは今まで犯してきた罪の重さに耐えきれず、俺らの所に出頭してきたんやろ?」
「だからそうじゃなく・・・」
「なぁ。」
と、俺が言い返そうとしたところを旭が俺の肩を叩いて止めた。それはそれは小さな声で。
「ん?」
「まぁ・・・ちょい待っててな!」
喜連と瓜破にそう言うと、旭がガッと俺を部屋の隅っこに引っ張った。
「急になんだよ。」
「あのさ、アタシずーっと思っててんけど。」
「なにを。」
「アイツら、相当なアホやで。」
「今更かよ。」
「特に男の方や。ありゃ頭に虫住んどる。どっか穴開いとんとちゃうか。」
「まぁ否定はしないが。」
「女の方も女の方や。何やねんアレ。歩くん歩くんて。言われるがままやんけ。」
「・・・まぁ否定はしないが。」
「ああいうアホの相手しとったらこっちまでアホんなってまうで。」
「じゃあどうすんだよ。」
「もういっそ罪認めーや。」
「馬鹿言うな、在りもしない罪を、あの馬鹿相手に認める?それだったらお前に殺された方がマシだぞ。」
「どういう意味じゃ。」
「身の潔白の証明をしに来たんだろうが。そしてお前はショバ代の徴収。だろ?」
「・・・せや、忘れてた。」
「主目的を忘れてどうする。」
「いや、なんか目の前でアホがアホしだしたから・・・だから言うてるやん、ああいうアホの相手しとったらこっちまでアホんなってまうて。」
「アホアホ言うな。ゲシュタルト崩壊起こすだろうが。」
「だってアホやねんもん。」
「とにかく、伝えたい事をこっちとしてはどストレートに伝えりゃ良いの。OK?」
「・・・うーん。まぁやってみるけどやな・・・」
と、コソコソ会議していると、その後ろから喜連の暢気そうな声が聞こえてきた。
「もう会議は終わりかなぁ?」
律儀に待ってたのか。・・・確かに、
「お、おい、喜連のアホと瓜破のボケ。」
旭が戻るなりいきなり切り出した。
「お前ら、誰の許しを得てここで仕事しとんじゃ、えぇ?」
「許し?」
喜連が目を点にして首を傾げた。
「そんなん、別にいらんやろ。なぁ、美生。」
「え?まぁ、ここテキトーに渡されただけやしなぁ。誰ぞに許しを得ろなんて一言も言われてないしなぁ。」
と、瓜破も目を点にして言った。コイツらの言葉は本心なのか演技なのかよくわからん。
「しらばっくれんなや!ここはなぁ、萩之組の・・・」
「ん~?君、ヤクザ
「えぇあ?」
喜連の鼻につく様な言い方に、旭が変な声を出してたじろいだ。
「なるほどなぁ・・・組織のお上に言われて、やりたくもなかった殺人の共犯をやらされとったんやろ?」
「あ、アホか!ウチの組長はそんな事・・・」
「苦しかったやろ・・・」
旭が言い返そうとすると、今度は瓜破がまるで捨てられた犬を撫でるかの様に旭の肩を撫でながら言った。
「ヤクザな道に行ってしもて、結局やる事は人殺しの手伝い。ほんまはもっと明るい人生を歩みたかったやろうにねぇ・・・」
「・・・」
旭が今にも泣きだしそうな目でこちらを見ている。頑張れ、旭。俺は遠くから応援してるぞ。遠くから。
「という事は・・・君はやっと罪を認める気になったんやね?」
「いや全然。」
喜連の野郎がまた言い始めたのでキッパリと否定してやった。
「はァ・・・そうか、まだ認めへんか・・・」
「当たり前だろ。殺人鬼は俺じゃないって言いに来たんだから。」
「でもな、君。証拠はきっちり揃ってるんやで?」
「証拠??」
俺が人を殺した証拠だと?ンなもん存在するワケが無い。さしづめ、俺に濡れ衣を着せようとしてる誰かからの提供だろ。
「どんな証拠があるんだよ。」
「ふぅん?飽くまでシラを切り通すんやな?ほなええか、良う聴きや。」
・・・また”よう聴きや”か。聞き飽きてきたなぁ、このフレーズ。
「まずは、指紋や。現場に残ってた壊れた階段の手すりに残っとった指紋があるんや。」
「で?」
「君、指見せてみ?」
「指?」
そう言われたので右手の手のひらを差し出した。
「ほら、良う見てみ。・・・似てるやろ?」
「・・・は?」
いよいよ馬鹿が馬鹿を極め切ったか。”似てるやろ?”じゃねーよ。似てねーよ。そもそも指紋なんて遠目で見りゃ大抵の人のが似てんだよ。
「そんでもう一つ・・・現場に足跡が残っとった。殺された人の血が付いたんやろなぁ。くっきりと残ってある、サンダルの跡や。」
「・・・で?」
「なんか似てるやろ、君の靴のと。」
おう、コイツ殴っていいか?どう頑張ったら鉄板の入ってる安全靴と薄っぺらいサンダルの足跡が似るんだよ。しかもなんだよ、”なんか”って。言ってるお前の中でも曖昧なんじゃねぇか。
「最後に証言や。目撃者・・・いや、被害者とも言うべき人物のな。」
目撃者で被害者なら死んでるんじゃねーのか?
「その男性はこう言うとる・・・”アノトキ、Gunのオト、シマシター!オレ、キゼツ、シテ・・・ソレデ・・・”ってな。」
ガルシアの野郎ォォォ!何テキトーこいてんだアイツゥゥッ!次会ったら殺す!絶ッ対にぶッ殺す!
「これだけ出揃ってんねんで?・・・どう逃れようと思てんねや。」
出揃ってるだけだろうが。何も証明できてねーよ。これでどう捕まえられると思ってたんだお前は。
「あのなぁ・・・」
詳しくワケを説明しようとすると、旭がまた肩をポンポンと叩いてきた。今度は肩を叩く勢いも弱まっている。
「なぁ、東・・・」
そういう旭の隣には、延々と話し続ける瓜破が居た。
「せやんなぁ。旭ちゃんも女の子として生まれたんやもんなぁ。お洒落とかしたいやろうに、赤ジャージてなぁ・・・組長さん、あんま面倒見てくれへんかったんやろ?わかるで、そういう気持ち。見放されるのは辛いよなぁ。あ、ウチのおさがりでよかったら服あるけどあげよか?というかあげるわ。服なんてなんぼあっても困らんからね。まぁおさがり言うよか正直ウチが太っt・・・あ、今のは聞かんかった事にしてな。でな、トップスが何着か・・・」
「アタシ、ちょい表の空気吸うてくる・・・しんどい・・・」
と、旭がやつれた顔で言って、事務所を出た。それに気づかず、瓜破はまだしゃべり続けている。・・・旭の気持ちが痛い程わかる。俺だって、今すぐにここから居なくなりたい。俺だって、こんな馬鹿の相手するのは疲れるんだぞ・・・。
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