3-2:恵美須屋コンビVS私立探偵コンビ
「よっしゃ、東。これからアタシらはコンビや!ちなみに、アタシが上でアンタが下!ええな?」
ダメだ。完全に俺の意見は聞いてくれない流れだコレ。旭涼子・・・そりゃ名前だけ聞きゃ女の子らしいさ。だがな、コイツは俺からしちゃ前科一犯なワケだ。その上、その前科をあろうことか、俺になすりつけようとしている、ふてぇヤツなのだ。そんなヤツと今からコンビ?ンな馬鹿な話が通ってたまるか。
「シュコー・・・まぁ、良え機会やろ。」
「何が良い機会なんですか。コイツ、俺に罪をなすりつけようとしてるんっすよ?」
「・・・あ?罪?」
旭が怪訝そうな顔で・・・というか、眉間にシワを寄せて、思いっきりガンを飛ばしながら俺の顔を覗き込んだ・・・というか、睨みつけてきた。
「しらばっくれるな。お前のこの前の玩具のせいで、俺は今殺人鬼扱いされてるんだぞ。」
「・・・そーなん?恵美須のおっさん。」
「シュコー・・・せや。」
なんだコイツ、自覚なかったのか、罪をなすりつけてるって。
「せやから・・・シュコー・・・東に対して、お前が身の潔白を証明する・・・シュコー・・・良え機会や。」
「なるほどなぁ。まぁ、確かに話題にはなってたっけか。」
「話題?」
旭が腕を組んで納得した。それに向かって、俺が訊く。
「せや。ここ最近この新世界西部あたりで起きとる殺人があんねや。犯人が男で、凶器が銃やいうことはわかってんねんけど、それ以外の詳しい情報は殆ど誰も知らんのや。まぁ・・・ガルシアの奴が逃げ込みよったあっこらへんも前に事件が起きた場所やったからなぁ。・・・アンタ、不幸やねぇ。」
「いやお前のせいだろ。」
「アタシは知らんわ。だってアレ、玩具やもん。」
誇らしげに”玩具だ”って自慢してんじゃねーよ・・・そもそもその玩具のせいで俺に疑いの目がかかってるんだろうが・・・
「・・・シュコー・・・・・・まぁ、今やれる事はひとつや。」
「やれる事?」
「・・・”探偵どもをどうにかする”・・・それしかないわな・・・シュコー・・・」
「・・・ん?」
恵美須さんの言葉に引っかかる。探偵”ども”?
「あの、もしかしてなんですけど、
「シュコー・・・せや。この辺で急に商売し始めた・・・シュコー・・・ド素人2人組や。」
・・・2人か。このカオスな新世界の事だから、10人くらいが狙ってきてるのかと内心焦ったぞ。
「・・・しかし、素人2人組が相手なら、こっちとしても大体互角ってワケですか。」
「おい待て東、お前今アタシをさらっと素人扱いしよったな?おい。」
「間違ってねーだろ。」
「
「へッ。」
「鼻で笑うなや!」
「・・・シュコー・・・・・・どんぐりの、なんちゃらかんちゃら、やな。」
「おっさんもかい!・・・なんやアタシ、えらいナメられてるよなぁ。」
そりゃあな。俺なんかナメにナメまくってるぞ。お前が散々言う”素人”に、自分の玩具のトリックが見破られたんだから。それで負けを認めた時点で、お前は俺と同じ、素人なんだから。
「・・・で、恵美須さん。その探偵2人の事について、なんですけど。」
「・・・”
喜連に、瓜破。・・・まぁ、下の名前では無さそうだよな。多分苗字なんだろうけど。
「ンな私立探偵知らんわ。誰に許可もろてやっとんねやろなぁ。」
「シュコー・・・まぁ、そのへんもひっくるめて、お前らがどうにかして来い。」
「・・・あの、どうにか、というと?」
「・・・シュコー・・・この際、手段は問わへん。東の潔白と、このへんで商売するのはどういう事か、教えて来い。」
「今、手段は問わへん言うたよな!?」
旭の奴が身を乗り出して恵美須さんに訊いた。あからさまに、”ワクワクしてます!”という顔をしている。
「・・・シュコー・・・・・・ただしまぁ・・・銃とかそれに準ずる
「・・・ちぇ。」
図星を突かれて、あからさまに”ガッカリしてます!”という顔をしている。・・・語勢もうるさければ表情もうるさいのか、大阪人ってのは。
「その喜連と瓜破って、どこに居るんです?」
「あぁ、アイツらやったら・・・」
「この辺りに居るらしいけど。」
渋々ながら、恵美須さんが言った場所・・・新世界西部の、あまり人目のつかない裏通りに来てみた。周りはシャッターのしまった店だらけ・・・時々、目が変な事に(恐らくいわゆるクスリのせいなんだろうが)なってる奴が迷い込んできたり、たらふく飲んだんだろうか、完全にダウンして道に寝転んでる奴まで居る。
「なるほどなぁ。まぁ、こんな暗いとこでやってりゃ、そりゃ誰にも気づかれんわな。それこそ、萩之組でも見逃すやろ。」
「まぁ、事実見逃してたんだろ?」
「うるさいなぁ。
「事実を言っただけなんだが・・・」
「やかましいわい。」
旭に背中を小突かれる。もう小突かれたりど突かれたりにも慣れてきた。そもそも来たばっかの頃にあれだけど疲れたんだから。
「んー・・・」
辺りを見回す。影で暗くなってるからか、ビル(らしい違法建築)の看板もよく読めない。
「本当にここに居るのか・・・?」
と、俺が首を傾げていると、後ろで旭が「おっ。」と言うのが聞こえた。
「なんか見つけたのか?」
「コレ。」
と、差し出してきたのはチラシだった。曰く、”名私立名探偵、喜連瓜破に全てお任せ!この裏通りのアバラビル3階にて!”と書いてある。
「名私立の、名探偵、ね。」
文面を見る限りでは、このチラシを作った奴・・・喜連と瓜破は余程の馬鹿らしい。
「どや、大発見やろ。」
「まぁな。」
旭が”ふんす!”と鼻息をたてながらふんぞりかえるのをテキトーに流して、チラシに書いてあったアバラビル・・・丁度数メートル先にあるビルへと向かった。
「・・・テキトーに返すなや!」
逆にどう返せと。
アバラビル3階に向かってみると、明らかに異質な雰囲気を放つ一室があった。他の部屋・・・テナントと言った方が正しいのかもしれないが、どれもこれもシャッターで閉められてたり、そもそもドアが無かったりと、どれだけこのビルに人が居ないかを物語っている惨状なのだが、突き当りの所だけ、妙に小綺麗な木製のドアがちゃんと着いてある。しかも、ドアについている窓ガラスはステンドガラスと来た。
「どう考えてもここだよなぁ。」
「ふむ。・・・変に金だけは持っとるみたいやな。」
俺がドアをノックすると、中から”はぁ~い!”という間抜けそうな声が2つ、聞こえてきた。しばらくしてからドアが開く。
「ようこそ!我らが私立探偵喜連瓜破の事務所・・・へ・・・」
「どうも。」
声高にそう言ってから俺を見て、青年男性・・・俺よりひとつかふたつ上だろうか。ソイツが呆気にとられた顔でこっちを見つめてきた。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・あの、なんすか。」
しばらく見つめ合った後、今度は中から変に声の高い青年女性・・・こっちも、俺よりひとつかふたつ上だろうか。が、寸劇でも演じてるかの様に現れた。
「どうしたのん?急に静かになって・・・わぁぉ・・・」
”わぁぉ”じゃねーよ。どうすりゃいいんだよこっちは。
「・・・落ち着くんや、。落ち着いて、マスターに連絡するんや!」
「わ、わかったわ!」
「ま、待て待て待て、話を聞け!」
「せや!こっちにはちゃんとした用事があるんやぞ!」
俺と旭とで必死に声をかける。
「知るか!ノコノコとまぁ、
「だから、俺は殺人鬼じゃなく・・・」
「言い訳無用じゃ!連絡はまだか?」
「い、今かけてるんよ?でも、出はれへんくて・・・」
向こうの会話がそれきりピタッと止まった。その隙を突いてみる。
「だから、こっちの話を聞けっつってんだろ。」
「そうじゃそうじゃ!もっと言え東!」
・・・旭は後ろから囃すだけにしたらしい。
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